宝石でできた草花といえば、宮沢賢治が綴った短編『十力の金剛石(虹の絵具皿)』だ。ある霧の深い朝、王子と大臣の子が、虹の足もとにあるという「ルビーの絵具皿」と、山の頂上にあるという金剛石(ダイヤモンド)を探しに森へ入る。2人はそこで、きらびやかな宝石でできた草花に出会うのだが、その美しい花たちはなぜか「かなしい。さびしい。十力の金剛石がまだこない」と歌う。「十力の金剛石とはなんだろう?」2人が不思議に思っていると、それはついにやってくる。十力の金剛石が丘に降り注ぐと、宝石の草花は呼吸を始めたようにやわらかな色彩を帯び、本当の草花に変わっていく。十力の金剛石とは露であり、水のことだったのだ。生命の尊さに気づいた2人は、思わず草の上にひざまずく。
王子と大臣の子が丘を下って帰る途中、行きと同じようにサルトリイバラの棘が王子の服に引っかかる。でも王子はそれを煩わしく思って剣で切ってしまうようなことはもうしない。かがんで静かに棘をはずす少年に成長し、物語は終わる。『十力の金剛石』は、宮沢賢治の作品の中で最も好きな話のひとつ。自分の息子たちにも、王子のように命の重みを感じられる、やさしい心を持ってほしい。彼らがもう少し大きくなったら、読んで聞かせたいと思っている。

