【ヴァン クリーフ&アーペル】秋の京都で共鳴するジュエリーと草花〜「LIGHT OF FLOWERS 花と光」エキシビションレポート

ヴァン クリーフ&アーペルと華道家の片桐功敦氏によるエキシビション「LIGHT OF FLOWERS 花と光」が、2022年12月12日(月)まで京都・賀茂御祖神社(以下、下鴨神社)にて開催されている。

2021年の春に東京・代官山で開催された「LIGHT OF FLOWERS ハナの光」の第2弾となる本展は、前回同様、ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーにインスパイアされた片桐氏による、生け花の枠組みを超えた詩的な作品や、ミュージアムピースを含め自然をモチーフにしたジュエリーを展示。季節と場所を移し、秋が深まりつつある京都で、花々やジュエリーはどのような表情を見せるのか。エキシビションの見どころを紹介する。

舞台は水との縁も深い世界遺産・下鴨神社

花道・みささぎ流家元である片桐功敦氏は、民俗学を手がかりに植物、そして自然への憧憬や畏敬の念を表現し続けている華道家。展示空間の設営や撮影も手がけ、作品を取り巻くスペースや細部にもこだわる彼とヴァン クリーフ&アーペルが今回の舞台に選んだのは、世界遺産である京都・下鴨神社。代官山での展示でも、水面の反射も含め水が幻想的な世界の演出に一役買っていたが、今回は下鴨神社自体が広大な敷地に7つの水源を持ち、周辺の森も育んできた水との縁も深い場所。境内には3つのスペースが設けられ、花々や自然を礼賛する両者のさまざまな哲学やビジョンを体感できるとのこと。片桐氏の案内のもと、会場の様子を見ていこう。

秋の落ち葉が表すものとは?

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の作品である落ち葉のトンネル
糺の森に設営された落ち葉のトンネル。

最初の会場は、「糺の森(ただすのもり)」。洛中で最大規模、3万6千坪に広がる広葉樹の原生林だ。取材当時、森の木々にはまだ青々とした葉が残っていたが、南口鳥居へと続く参道を歩いていくと、右手に人の背丈を優に超える“小山”が現れる。これが一つめのインスタレーション、落ち葉のトンネルだ。

実は今回のエキシビションにおいて、落ち葉は片桐氏が紡ぐ物語に欠かせないピースでもある。春に芽吹き、夏に青々と繁り、秋に紅葉で鮮やかな姿を見せた後、冬に葉を落とした木々は静かに春を待つ。しかし、柔らかく積もった落ち葉の下では、新たな芽吹きを迎えるための準備が着々と進んでいる。氏にとって秋から冬にかけての季節とは、独特の風情は感じさせつつも、終わりやもの悲しさでなく、循環や再生に向かう象徴なのだ。

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の作品である落ち葉のトンネルの内部
落ち葉のトンネルの内部。
「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の作品である屋外の生け花
落ち葉のトンネルの先にある小川に生けられた花。

落ち葉に全面を覆われたトンネルに近づき中に入ると、円形の天窓から背の高い木々と空がのぞく。通路を抜け再び外に出れば、その先には小川の清流。水面にはぽつりぽつりと控えめに草花が生けてあり、視線は自然と水が流れてくる川上へ。木々の間から差し込む心地よい陽光を感じながら、清らかな水がつないできた、有史以前から脈々と続く営みを思いながら次の会場へと向かう。

山野の秋を閉じ込めた驚異のブラックボックス

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の特設会場外観
エキシビションのためだけに建てられた特設会場。

境内本殿の右手側、湧き水が作り出した御手洗池のそばまで来ると、特設会場が見えてくる。仮設とはいえ、世界遺産の神社の境内に、このようにソリッドなブラックボックスが共存しているのは驚きだ。ファサードのガラスには、落ち葉の模様が見て取れ、床面には水が張られている。

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の特設会場内観
特設会場は南向きに建てられており、鑑賞するタイミングによって光の入り方も変化する。
「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の特設会場内観
オープン当時には関西圏の山から運んできた植物もあり、鮮やかな色合い。

建物の中に入ると、無骨にも思えた外観とは打って変わり、息をのむような世界が広がる。先ほどのガラスの壁面には、片桐氏が撮影した落ち葉の写真が大きくプリントされていたのだ。内部はシアターのような構造で、ガラスを通し自然光が入ってくることで、錦色の落ち葉の色彩が床に張られた水面にも広がり、片桐氏によって生けられたひたむきながらも生命力を感じる草花や枝葉(多くは日本の自生種だという)、苔生した木とともに目に飛び込んでくる。

また、天井はメッシュ状になっており、その上にかぶせた落ち葉を透かして空が見える。「虫が食べて穴が空いたりレース状になったりした葉にも、小さな虫たちが生きた証がある。眼前に広がる落ち葉は、春を待つ花の芽が見ている風景なのかもしれません。そして、この天井からの光は見ようによっては星のようにも見える。昔、虫食いの落ち葉を星空のように表現した作品を作ったことがあり、今回はそのアイデアを違った形で表現してみたかったんです。それに、落ち葉の下の世界を、今回見に来てくれた人たちに体感してほしくて」と片桐氏は言う。

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の特設会場内観
会期は1ヶ月超。片桐氏は近辺に泊まり込み、毎日、花殻を摘んだり、水を換えたりしながらメンテナンスを続ける。

切り花の美しさはもっても数日のため、会期中、片桐氏は毎日会場を訪れ花々のメンテナンスをする。「今日咲き誇っていたとしても、数日後にはしおれてしまう。今たけなわの桔梗や菊が、季節の移り変わりとともに水仙や椿に置き換えられていき、最終日にはどうなっているんでしょうね。自分のことを“花の奴隷”だと思うことがあるのですが(笑)、毎日この場所に通って手を動かし時間の経過を感じながら、その時々のベストな状態をお見せしたいと思っているものの、まだ結末は僕にもわかりません」。

小さなブラックボックスには、ミクロな世界から星空まで、イマジネーションが生み出した壮大なスケールが内包されていた。

儚い美と不変の美が邂逅するとき

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の会場、細殿の内観
太鼓張りの障子に囲まれた、細殿のジュエリー展示スペース。

特設会場を出て小川を渡り、最後に足を踏み入れたのが、細殿(ほそどの)。歴代天皇が来訪した際に歌会が催されたという建物で、1901年に重要文化財に指定されている。この川を境界に、鑑賞者は循環していく命が見せる儚い美から、何億年もかけて形成されてきた宝石という不変の美に意識を移すことになる。

特注の障子により有機的な曲線で区切られた室内には銀箔貼りの什器がしつらえられ、ケースの内部は左官職人の手により、川のせせらぎに花が流れていく様子をイメージして削られている。まさに伝統の職人技の競演だ。そしてここに、最も古いもので1938年に発表された歴史的な作品を含む計72点のヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーが展示されている。

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の展示ジュエリー
可憐なローズ ド ノエルのクリップやイヤリングとバタフライ クリップ。
「LIGHT OF FLOWERS 花と光」展の展示ジュエリー
大胆なデザインのフルール ドゥ ソレイユ クリップとドゥ パピヨンイヤリング。

ジュエリーのモチーフとなっているのは、ここに集められているものだけでも、クリスマスローズ、コスモス、アネモネ、ダリア、ポピー、ロータス、ハコネシダ、葡萄の葉、きのこ、蝶、かたつむり……。時代も技法もさまざまながら、自然への畏敬をもとに、その美しさや生命力を貴金属や宝石で余すところなく表現したいと願う職人たちの飽くなき探究心と確かな技術が詰まっている。

この夏、片桐氏はパリ・ヴァンドーム広場のヴァン クリーフ&アーペルのアトリエを訪れ、職人たちの手元やジュエリー製作の工程をつぶさに観察したという。そこで感じたものづくりへのプライドやクリエイティブなエネルギーが、ジュエリーたちがしばしたゆたう“特別な舞台”のアイデアにつながったのだろうか。

間もなく紅葉の時季を迎える京都。片桐氏が語ったように、時間の経過とともに展示内容は紹介したものとはがらっと様変わりしているかもしれない。春の生命力あふれる色彩とはまた異なる、この時季だけの鮮やかな情景を楽しみながら、儚さと永遠、循環と再生に思いを馳せながらゆっくりと散策してみてはどうだろう。

「LIGHT OF FLOWERS 花と光」

会期:~2022年12月12日(月)
開場時間:10時~17時
会場:世界遺産 下鴨神社(賀茂御祖神社)境内
(京都市左京区下鴨泉川町59)
*予約不要、入場無料
https://www.vancleefarpels.com/jp/ja/events/light-of-flowers--exhibition-2.html


ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
info@light-of-flowers.com
0120-10-1906

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