野生の本能を内に秘めた「パンテール」のまなざし
岡部(以下O) 宝飾の世界では100年以上存在する名作と呼ばれるものが少なくありません。代表的なのが、カルティエの揺るぎないシンボルである「パンテール」です。
本間(以下H) 1914年に腕時計のモチーフとして登場し、1930年代にジャンヌ・トゥーサンがクリエイティブ ディレクターに就任して以降、ハイジュエリーのアイコニックな存在としてたびたび登場してきました。
O 今回フィーチャーするブレスレットは、豹が腕をくるっと包み込む個性的なデザイン。斑点はオニキス、情熱的な輝きの瞳はツァボライトガーネットで表現しています。
H さまざまなデザインのバリエーションがありますが、このブレスレットはどこか柔和な表情が可愛らしいですね。
O 世の中に動物のモチーフのジュエリーは数あれど、これほど強烈な個性を放つジュエリーはなかなかない。本間さんにとっての魅力は?
H 豹が持つしなやかさや優美さ、官能性といったイメージを、自分に投影できるところでしょうか。私自身、昔購入した「パンテール」のリングに、「スーちゃん」と愛称をつけて長く愛用しています(笑)。
O ジュエリーに名前をつけるの素敵ですね!今度ぜひ「スーちゃん」に会いたいです。
儚き自然の美しさを捉えた究極のロマンティシズム
O 100年後の世界がどうなっているか想像もつかないですが、少なくとも花を愛でる風習は残っていてほしい。このリングを見ながらそんなことを考えました。
H 100年後の花が今とは違う形になっても、ジュエリーなら変わらず愛でることができます。ヴァン クリーフ&アーペルは1930年代のアールデコの時代から、メゾンのシグネチャーとしてフローラルモチーフのジュエリーを数多く世に送り出してきました。
O 2003年に誕生した「フリヴォル」コレクションのリングは、ハートシェイプのホワイトゴールドの花弁に、パヴェダイヤモンドを隙間なく敷き詰めたラグジュアリーなデザイン。実際につけると、指の間に二輪の花が咲いたように見えるという可憐なクリエーションです。
H ダイヤモンドの輝きを最大限に引き出すため、緻密な計算のもと花の造形を立体的に仕上げている点も素晴らしい。どの角度から見ても、眩いばかりの輝きを楽しむことができます。
O 花を美しいと思うことにジェンダーは関係ありませんが、このリングを見ていると、自分の中の乙女心がくすぐられる気がします。
H 多様化が進んでいるであろう100年後でも通ずる、普遍的なフェミニニティですよね。大人にこそふさわしい一本です。
揺るぎないスタイルにひとさじの革新を添えて
O リトル・ブラック・ドレス、ツイードジャケット、バイカラーシューズ、そしてキルティングのレザーバッグをはじめシャネルのメゾンコードは数多くありますが、中でも象徴的なのがカメリアです。
H マドモアゼル シャネルは、男性がジャケットのボタンホールにカメリアの花を挿していたのを参考に、自身のスタイルにも取り入れてました。1920年代にはクリエーションの装飾としてカメリアが登場しています。
O アイコニックなモチーフを、イエローゴールドとダイヤモンドで表現したプレシャスなイヤリングがこちら。取りはずし可能なアシンメトリーなチェーンのフリンジは、身動きに合わせてスウィングするので、顔まわりをぱっと華やかに見せてくれます。
H グラフィカルな花のセンターには、0.2カラットのダイヤモンドがキラリ。キャッチ部分が透かし彫りのカメリアになっているのも、ときめきますよね。
O ちなみにこのイヤリングは、フリンジのパーツをはずしてシンプルなイヤースタッズとして着用することもできるのも魅力ですよね。
H 片耳につけたり、アシンメトリーにしたり、手持ちのイヤリングと組み合わせたり。ファッションに合わせて自由に楽しむことができる、まさにシャネルらしい名品です。
手もとを優しく包み込むフリュイドなゴールドの輝き
O スタイリストアシスタントをしていた頃、先輩のスタイリストがつけているのを見て以来憧れているのがティファニーの「ボーン カフ」。1970年代のNYのミューズであり伝説のデザイナー、エルサ・ペレッティによるティファニーの代表的なデザインのひとつです。
H ファッション業界にも愛用している人は多いですよね。エルサ・ペレッティらしい有機的な造形は、ローマのカプチン修道会の地下納骨堂や、アントニオ・ガウディのカサ・ミラに着想を得たといわれています。コンテンポラリージュエリーの金字塔と呼んでも過言ではない、アイコニックな作品です。
O カジュアルなシルバーも人気ですが、個人的に狙っているのはイエローゴールドの、大胆に切れ目を入れた「スプリット」というデザイン。ブルージーンズやTシャツのようにデイリースタイルに取り入れたいです。
H 実は私も昔から大好きで、ちょうど去年購入しました。
O ありとあらゆるジュエリーを知り尽くした本間さんが、あえて今定番を購入した理由は?
H なかなか私の手首に合うサイズに巡り合えず、銀座本店でついに出合いました。
O 手首に寄り添うデザインだからこそサイズ感は重要。私もいつか、自分の腕にシンデレラフィットする一本を手に入れたいです。
ひとひらの羽根が紡ぐ歴史と伝統の物語
H ワインのテロワールと同じように、ジュエラーにもそれぞれの土壌があります。ブシュロンで言えば、歴史が立脚点。1858年の創業以来、160年以上にわたりフランスのジュエリーデザインのトレンドを牽引してきました。
O ヘリテージのあるブランドの中でも、革新的なデザインが多いのも特徴ですよね。たとえば19世紀に発表された作品の「クエスチョンマーク ネックレス」は、大胆なデザインだけでなく、クラスプを用いない構造で容易に着脱できるという点でも高い評価を獲得しています。
H そのネックレスでもたびたび登場する、孔雀の羽根をモチーフにしたのが「プリュム ドゥ パオン」コレクション。こちらのリングは、まるで指の上に羽根がはらりと落ちた一瞬の様子を捉えたようなポエティックなクリエーションです。
O こまやかな羽根の表現が写実的で美しいですよね。センターに配したのは、珍しいローズカットのダイヤモンド。一般的なラウンドブリリアントカットに比べ、奥ゆかしい輝きも素敵です。存在感のあるデザインなので、フォーマルなオケージョンに合わせたいですね。
H この斬新なデザインを19世紀に考案するという先進性に脱帽。現時点ですでに100年以上続いてきたアイコンなので、100年後には200年ジュエリーになりますね!
奥ゆかしい佇まいからにじみ出る、円熟のエレガンス
O ロレックスといえば「コスモグラフ デイトナ」や「サブマリーナー」をはじめ、プロフェッショナルモデルが広く知られていますが、上級者に向けておすすめしたいのが「パーペチュアル 1908」。昨年デビューを果たした、エレガントなクラシックウォッチです。
H 新たに発表されたパーペチュアルコレクションの新モデルで、ロレックスという名称が商標登録された年をその名に冠しています。
O アイスブルーのダイヤルとブラウンのアリゲーターストラップの色合わせもこなれていて素敵。美しいデザインだけでなく、プラチナ製のケースの心地よい重量感にため息が出ますね。
H 初代オイスター パーペチュアルを踏襲したアラビア数字のインデックスやスモールセコンドが、どこかヴィンテージモダンな佇まいの一本。特筆すべきは、ライスグレイン モチーフのギョーシェ装飾。昔ながらの技法で彫り込まれた文字盤は、見る角度によって表情が変わるのが魅力です。
O さらには美しいだけでなく、高精度クロノメーター認定を受けた新型の「キャリバー 7140」を搭載。才色兼備とはこのこと。
H 先行きが見えない時代だからこそ、愛用したい本物の機械式時計。丁寧にメンテナンスすれば、きっと長きにわたり使い続けられます。
類いまれな職人技を、日常に取り入れる瀟洒な遊び
H ピアジェといえば極薄の機械式時計で有名ですが、こちらは1973年代に発表されたアーカイブスに着想を得た「ライムライト ガラ」ウォッチです。当時、こういった精巧な金細工やカラーストーンを使った個性的なデザインを打ち出し、ジャクリーン・ケネディやアンディ・ウォーホルをはじめ、世界中のセレブリティの支持を獲得しました。
O 1970年代といえば「クォーツショック」でスイスの時計産業に激震が走った頃。そんな中、デザインの独創性で時計の新時代を切り拓いたのがピアジェなんですよね。
H とはいえ、ウォッチメイキングで培った卓越したクラフツマンシップは、この一本にも遺憾なく発揮されています。見てください、この見事なミラネーゼブレスレット。
O まるでベルベットのようになめらかな手ざわりに舌を巻きました。
H 微細なゴールドの糸を織り上げて制作されるミラネーゼブレスレットは、極めて高い職人技を要するもので、これほど精巧に表現できるのは世界でも数少ない。身につけられるアートピースと呼びたくなるような一本です。
O 惜しみなくダイヤモンドをセットしたベゼルと、流麗なローマ数字のバランスも見事。ドレスアップはもちろんですが、カジュアルなスタイルに合わせるのも素敵ですよね。
ロイヤルの風格を携えた清廉なダイヤモンド
H ルイ16世在位中のフランスでマリー・アントワネットが豪奢な暮らしをする一方、フランス革命が起こり、新政府を樹立する。そんな激動の18世紀終盤にフランスでアトリエを構えたのが、ショーメの創業者のマリ=エティエンヌ・ニトです。
O ショーメの作品では、今でもフランスの歴史と深く結びついた人物がよく登場しますよね。アイコンコレクションである「ジョゼフィーヌ」は、その名の通りジョゼフィーヌ皇后のために制作されたジュエリーに着想を得たもの。
H ショーメは長い歴史の中で、世界中の王侯貴族のためにティアラを制作していたことで有名ですが、このネックレスはナポレオンがジョゼフィーヌに贈った婚約指輪をイメージしたもの。ペアシェイプのダイヤモンドとサファイアを対にした「トワ・エ・モワ」と呼ばれるものです。
O そんな歴史的背景があってか、ショーメのジュエリーは王道のイメージがあります。たとえばこのペンダントも、クラシカルなペアシェイプのモチーフに、グラデーションであしらったパヴェダイヤモンドと、エレガンスのお手本のよう。
H 私もそう思います。ちなみにショーメのアトリエは創業時から現在まで、職人技が連綿と受け継がれていて、その高い技術はフランス随一。創業240年以上の歴史を誇るヘリテージジュエラーの看板は、伊達ではありません。
エポックメイキングであり、エターナルでもある
O 機械式時計の歴史的な名作を集めた展覧会が開催されるとしたら、おそらくオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」は展示されますよね。
H 確実に展示されるでしょう。ウォッチデザイナーのレジェンドである、ジェラルド・ジェンタによる傑作ですから。
O ステンレススチールを用いながらも高級というラグジュアリースポーツウォッチブームの元祖としても知られていますが、それ以外に「ロイヤル オーク」のどんなところが特別なんでしょう。
H スポーティな要素とラグジュアリーさを両立させるというコンセプトもさることながら、デザインにおいて大げさではなくまったく隙がないんです。ビスを施した八角形の大胆なベゼルデザイン、一体型ブレスレットの大胆なプロポーション、見事なヘアラインやポリッシュの仕上げにいたるまで、惚れぼれする出来栄え。卓越した職人技が垣間見えます。
O 堅牢なイメージの「ロイヤル オーク」ですが、ピンクゴールドとピンクのグランドタペストリーの文字盤の組み合わせはどこか柔和な印象です。
H これ自体がアイコンとして確立されているから、どんな装いにも合わせられるのが魅力ですよね。ただし、あまりの人気に生産が追いつかず、なかなかお目にかかれないというのがジレンマです……。
O だからこそ、いつか手に入れようと考えるだけで仕事のモチベーションが上がる気がします(笑)。
ファンクショナルな顔立ちに大人の色気をにじませて
O 一生物のジュエリーや時計と聞くと、きらびやかなデザインを思い浮かべがちですが、いつか自分の大切な人に譲るとしたら、金庫に預けておくのではなく、日常生活で取り入れてもらいたいですよね。
H そんな岡部さんに、チューダーの時計なんていかがでしょう。
O なんて潔いシンプリシティ! 最近では大きめのフェイスを好む女性も多いと聞くので、オールジェンダーに取り入れられそう。
H こちらの「レンジャー」は、ステンレススチールの堅牢さに加え、ロレックス譲りの高い防水性、そしてさらにはパワーリザーブ約70時間を誇りながら、手に取りやすい価格を実現した優等生。実用時計に求められるあらゆる項目を満たした、最強の一本です。
O スポーティですが、ヴィンテージ感漂う文字盤も小粋な印象です。
H ちなみにこの時計に用いられた、チューダーの独自開発による「T-fit」ブレスレットは、最大8㎜、5段階でサイズ調整できるというもの。将来誰かに譲るときにも、多少のサイズ変更であれば特殊な工具を用いず簡単にできるのは魅力的ですよね。
O タイムレスなデザインだからこそ、日常使いで傷がついたとしてもそれすら味になる。一緒に年を重ねるのが楽しみな時計ですね。