約1万5千キロ離れていますが、ペルーは決して遠くない!
「初めてcentralに行った時のプレゼンテーションには驚きました。石が置かれた箱の中、どこまで食べていいのか、パッと見わかりませんでした」ひとりっP
ひとりっP(以下P): ちょっと長くなりますが、どうしてもヴィルヒリオさんにお伝えしたくて、すみませんがお話しさせてください。 予約のなかなか取れないcentralの予約がやっと取れ、初めて行った時に、想像をはるかに超えたお料理の数々にものすごく感激しました。なのですが、2018 年末にmil へ出かけた体験は、もはや衝撃でした。お店に関すること、Mater Iniciativaの活動 について、お料理の材料について、などなど、いろいろな説明を詳しく聞いて、本当にびっくりしたと同時に感動しました。「ヴィルヒリオさんが考えていること、構想はもう普通のシェフの範疇を超えている! ぜひ直接お話を伺いたい!」と思ったんです。 私はペルーが大好きで、7回出かけています。マチュピチュも本当に好きで4回出かけています。が、はっきり言って7回も行ってしまっているきっかけはcentral です。 初めてペルーに出かけたのは今から20 年以上前で、長い間それっきりでした。3年前に久しぶりに行こうと思った時にcentral の存在を知り、よし!予約だ〜!!と思ったのですが、まったく予約が取れず。その時は、「ペルーなんてもういつ行くかわからないのに……」とものすごくがっかりしました。が、そのペルー旅があまりに楽しすぎたので、「よし!central にも行きたいし、また行こう!」とその半年後にも出かけてしまいました。 が、この時もcentral の予約は取れませんでした。次の機会は、ペルー経由でボリビアに行く時で、その時も予約できず。その時点で「絶対central に行きたい! こうなったら次は予約の取れる日にペルーに行く!」と、まず予約を入れてから5回目のペルー旅の航空券を取りました。それでやっとcentral に行くことができたのが、2017 年4月です。 6回目のペルーはリマにほとんど寄らない旅程だったのでcentralへも行かず。そのあと、mil ができたことを知り、「え〜!これは行かないと!マチュピチュもまた行きたいし」と、2018 〜2019 年の年末年始に7回目のペルー旅行へ。まずmil へ行き、そののちcentral に再訪しました。どちらも、また行く気満タンです。
centralに行きたいがゆえに、1年に3回とか、ここ3年で何度も ペルーに出かけてしまいました。が、おかげで「南米は遠くない!」と思えるようになったんです。本当にありがとうございます。ヴィルヒリオさんはペルーの観光大使でもありますね。
「何度来ても、日本は魅力的。もっとゆっくり楽しみたいです」。
Virgilio Martinez(以下V): そうかもしれませんね。 僕たち自身がやっていることを楽しんでいれば、店に来てくださる人々をハッピーにできると思っています。それと同じで、何かに心奪われれば、遠くてもワクワクすることが待っているという思いに、人は突き動かされるんですね。P: そうなんです! 私にとってワクワクがつまっているペルーは近いんです!ところで、今回の来日で、日本は何度目ですか?V: 5回目です。東京は大きな街ですし、文化やシステムもとても良くて、尊敬しているのでもっと知りたいんです。しかし、言葉も違うので、(毎回2、3日の短い滞在なので)もっと長く2、3年住んでみたいと思います。様々な場所を訪れることで、異なる生き方、メンタリティ、文化の多様性に出会ううことで、他の文化や人を尊重できるようになります。ガストロノミーも旅と同じで、様々なものに出会う機会をくれるんです。そして、全ては繋がっているということに気づかされます。P: わかります。旅とガストロノミーは、どちらも人生でのすばらしい“体験”で、その体験のすべてが自分にとって勉強になることばかりだと思っています。 先日発表になった2019年世界のベストレストラン50での6位、おめでとうございます!V: ありがとうございます。プレッシャーもありますが、コンペティティブスタイルのレストランというのも嫌いじゃなくて、楽しんでいます。革新的であるということはcentralの一面ですから。※世界のベストレストラン50でCentralは、2018年6位、2017年5位、2016年4位、2015年4位
標高3500メートルの遺跡にレストラン!その壮大な計画は?
「Centralのお料理には“禅”を感じるんですよね」。
P: central とmil では、料理からペルーの気候、風土、文化について知ることができ、16皿 の料理をいただく間は、ペルーを旅する感覚でした。そんな体験は初めてで本当に感動したのですが、ヴィルヒリオさんが料理を通じてお客様に伝えたいと思っていることはなんですか?V: 素材を発見し、また再発見することや、伝統を興味深く掘り下げて、新しい可能性を見つけるプロセスを楽しんでいるのですが、その思いは止まらないですね。文化や知識、いろんなことにアクセスすることが楽しいんです。それらを料理で表現することでお客様に幸せになってもらえたらと思っています。そのために常に努力しています。もうひとつ。美味しいものである事も大事ですが、良い食べ物を届ける責任もあると思っています。P: milですが、行くまでは、「なんであんな不便な場所につくったのかなぁ?行きづらいし、標高高いし……」と思っていました。でも実際に行ってみて、なんというものすごい場所に建ってるんだ!と本当にびっくり。最強パワースポットレストランですよ。さらに、いろいろな説明とともにお料理をいただいて、この体験はこのロケーションがあってのこと!とものすごく感動しました。 あの場所を選んだ理由はどんな事からですか?日本だとあのロケーションは国有地の可能性が高く、プライベートな店をオープンするのはまず不可能なのですが。
V: 高地で、騒音がなく、オーガニックできれいな水があり……、そして街からのアクセス手段は少ないけれど、その分、昔ながらの土地に根ざした人々が暮らしているというのもポイント。電話もないけれど、母なる大地に寄り添った場所だからです。標高のアップダウンは人生の山あり谷ありとも同じですよね(笑)。P: 標高3500メートルあるモライ遺跡の淵なんですよね。
2つめのレストランmilオープンの背景は?
「milへ行くには高地順応が必須。なのでクスコ到着から数日後の予約を入れて、高地順応期間を取りました。おかげで問題なく、お料理が楽しめました」とひとりっP。
V: クスコで店を開ける場所を7年間探していたんです。街ではなく山ならどこでもと思って探していたんですが、なかなか難しくて。そんなある日、centralの厨房に立っていたら、モライ遺跡の脇に家があるという人が訪ねてきたんです。「リャマやアルパカの小屋があるけれど、全部クリーンにしてくれるならどうぞ!」というので、20人のスタッフを即、送りました(笑)。本当に偶然の出会いで、願えば叶う、呼ばれたんだな、と実感しました。milでの経験は万人のためというより、年に一度、一生に一度体験するようなスペシャルなアドベンチャーだと思っています。それぞれの方々が何か違うものを感じる時間。ただ食事をするだけでない、その場所の物語と繋がるフードカルチャーがある空間です。そんなマーケットがあると思い描いてできたのがmilです。P: milで食事をした時、まるでペルー全土を旅したような気分になりました。V: まさにその通り。料理は僕たち自身、文化やオリジナリティを表現するものでもあります。milは贅を尽くしたラグジュアリーな空間ではないんです。高価な絵を飾るわけでもなく、あるのは空が見えるように開けた窓だけ。そんなにお金をかけたものではない、意味のある美しいペルーならではのレストランにしたかったんです。それがmilです。P: 正直、モライ遺跡からmilへの坂道を登って見えてきたお店の第一印象は、「地味だな」。素朴な土塀に草葺きの屋根か!と。でも周りの景観に馴染むようにあえての外観なんだろう、ということは中は、、、と期待しながら一歩milに入ったら、クリーンでミニマムでモダン! でも温かみがあって、くつろげる。centralと通じるセンスあふれる空間で、居心地がいい。ひとりでもまったく緊張しませんでした。窓の外にはモライ遺跡とアンデスの空と雲と山々! この土地に包まれてのランチは、まさにここでしかできない唯一無二の体験。はるばる来てよかった!と心の底から思いました。 また、料理のプレゼンテーションが繊細でアートのように美しいところにも惹かれました。
V: 母が画家なので、子どもの頃から絵を描きなさいと言われて育ちました。アーティスティックな環境だったので、プレゼンテーションはとても重要なんです。たくさんのインフォメーションを目から得て欲しいし、そのインパクトを大事にしています。ゲストには見たこともないものをお見せしたいから。インスピレーションはほとんど自然界からです。P: 繊細なお花が多用されてるのもそういったところからなんですね。V: そうですね。それにカラフルで美しいからお花を使います。器もスクエアのものは使わず、ユニークでインスピレーションをくれるものを選んでいます。P: コースで使われていた石のバターナイフが販売されていたので購入、大事に持ち帰りました。なんともいえない丸みと温かみがあって、バターが数倍美味しく感じられます。 ほかの器もぜひ販売していただきたいです。
ヴィルヒリオさんにとっての旅とは?
「こんな風に陶器の作品の写真が届くんですよ。どれがいいと思う?」とひとりっPに問いかけるシーンも。
V: ありがとうございます。器はリマの陶芸家の友人が作ってくれます。centralの横に住んでいるので、隣人でもあります(笑)。いつもアイディアを持ちかけてくれるんです。こんな風に(スマホを見せながら……)。いいと思ったものにGOサインを出すんです。P: どのくらいの頻度でリマのcentralとモライのmilを行き来するのですか?V: 毎週通ってますが、今は大変だとは思いません。ペルーの今をリサーチするために週1度の旅も必要です。旅先での新しいことから学ぶことも 多いんです。それにいいアイディアのためにも、旅は欠かせません。P: 毎週! そんなに!? ヴィルヒリオさんにとって旅とは何ですか?
V: いつも何かを発見できるので、終わることがないのが旅ですね。奥深いたくさんの知識に触れることができる。旅のことを考えはじめたところから、その旅は始まっていて、実際訪れればその場所の精神や食べ物などいろいろなものに感動します。短い旅でもアイディアは受け取れるので、旅は大好きです。もっと知りたい、もっと見たいと思ってしまう。旅には中毒性がありますよね。
ずばりペルー料理が美味しい理由は?
P: ペルーを訪ねる度にというか、ヴィルヒリオさんの料理をいただく度に思うのですが、ペルー料理が美味しい理由は何だと思われますか?
V: 素材の新鮮さ、ピュアさです。一点の曇りもない美しい環境で育ったオリーブや香りの高いフルーツ、じゃがいもだけでも3000種類ある多彩さ。アマゾン、太平洋の海産物、アンデスの山の幸。そして、中国、日本、アフリカ、スペインなどの移民が持ち込んだ料理の多様性もあります。多くの人が共感できるのは、そんな哲学をはるかに超えた美味しさにあるのではないでしょうか。
P: それは確かに。その多様性による要因は大きいですね。新鮮で発見だらけなんだけど、例えばペルー料理ではお醤油を使うこともありますよね。だから、日本人にとって馴染みのある部分もある。でも、なんと言っても、ヴィルヒリオさんのお料理をいただく度に思うのは、「地球ってすごい! すばらしい!」ということです。centralやmilは、まるで“劇場”。食材の採れる標高で区切ったメニューが展開されるコースをいただいていると、“地球シンフォニー”を体験しているような気がします。 V: 僕にはペルーのカカオやコーヒーがどのような環境でどう育っているかを知る手段があります。最初におっしゃってくださったように、アンバサダーのように、そのストーリーを伝えていきたいんです。そんな思いがシェフとしての原動力にもなっています。
ひとりっPが初めてcentralを訪れた時の料理。『明日も世界のどこかでひとりっぷ2〜秘境・絶景編〜』より。
プロスケーターを夢見ていたヴィルヒリオさんの転身
centralを紹介した第2弾『明日も世界のどこかでひとりっぷ2〜秘境・絶景編〜』を見ていただきながら、当時の感動を語るひとりっP。
P: すっごくわかります! では、ご自身の事も少し伺わせてください。驚いたのですが、プロスケートボーダーを目指していたそうですね。V: はい。真剣に取り組んでいたのですが、3か月の間に肩を片方ずつ、骨折する怪我をして諦めました。
P: シェフになることを選んだのはなぜですか?
V: 僕のファミリーにとっては、食はクリエイティビティ、グラフィック、パッションに通じていてとても重要なことだったので、料理の道に進むのは自然でした。我が家の家庭料理は祖母から母へ、母から僕が受け継いだんです。P: そんな経緯だったんですね。ちなみに初めて料理したのはいつ頃でしたか?V: うーん……9歳の時ですね。
P: メニューは何を?
V: セビーチェです。※セビーチェとは生の魚介類に、柑橘の絞り汁、赤玉ネギ、唐辛子、塩、コショウなどを加えたペルーの代表的料理。
P: セビーチェ!! さすがペルー!! お味は?
V: まぁまぁでした(笑)。P: 天才シェフの初料理はまぁまぁだったんですね。でも、美味しそう!
centralでは、コースの最後に、実際に料理に使用された植物(珍しいものばかり!)を繊細で美しいイラストで描いた1冊のブックレットが渡される。
びっしりとメモが書きこまれたひとりっPのmilのメニュー。
milで出会ったSacha Tomate(木成りトマト)。エクアドルでその存在に気づいた時には、milで知ることで世界が広がったと感動もひとしお。
『明日も世界のどこかでひとりっぷ2〜秘境・絶景編〜』を眺めながら、当時の回想を。
P: では、ヴィルヒリオさん、ペルーの魅力を一言で表すと?
V: 一千年のインカの歴史と、それ以前の神秘的な知られざる歴史です。そして、それとは別にモダナイズされた未来、サプライズな探求を目の当たりにできるところ。P: 確かに歴史の重みと驚きを与えてくれる場所だと思います。最初にペルーを旅した時、「なんだここ! 七つの世界の七不思議が次から次へと! めくるめく場所すぎる!」と激しく感動したんですが、何度も行くうちに、地形や気候などの自然環境と歴史からくる、独特でもっと奥深いカルチャーが見えてきて、ますますトリコになっています。次は私にとって8度目のペルーになるのですが、行くべき場所を推薦していただけませんか? V: 野性味たっぷりなマドレ・デ・ディオス がおすすめです。不法採掘や伐採が止まらない中でも、手つかずの自然が残っています。かなりエキサイティングな地域だと思います。そんなアマゾンのジャングルにあるホテルもよいですよ。
夢のような次のプロジェクトとは?
「milの次のレストランも、必ず行きます~!」とひとりっP。
P: アマゾンの真っ只中のホテル~。夢のようですね。すぐに準備をはじめねば……! 世界を旅してイメージを受け取っていらっしゃる中で、次なるアウトプットというか、大きなプロジェクトの予定はありますか?V: 来る2020年の中頃にはアマゾンにノマド式のレストランをオープンさせる予定で、準備をしています。P: えっ! アマゾンで! ノマド式! ですか?V: まったく新しい体験として、木の上でのダイニングなども考えています。川から魚、木の根や実、ヒーリング効果のある植物に精通した現地の方々の知識からも色々学んでいるところです。文化人類学や建築学などとしても意味深い経験になるはずです。P: 世界初の試みになりますね。すごい。
V: エコシステムに影響を与えず、そのエリアの方々を尊敬しながら、その土地ならではの価値を分かち合いたいし、家族のようにレストランの一員になってもらえたらと思っています。ノマドのように、数か月で移動するような形で、難しいコンセプトですが、面白いと思うんです。
P: それは面白すぎます! 見たことも味わったこともないものに出会えますね。大変! 2020年も21年もペルーに行かなければ〜〜! というか、やはりヴィルヒリオさんの考えていることが壮大すぎて感激感心しかありません。 日本での限られた滞在の中、お時間いただきありがとうございました。お話を伺えて本当によかった。勉強になりました! よね?!みなさん! そこにワクワクがあると思えば、約23時間の空の旅もあっという間ですよ〜! 好奇心一直線! 地球の裏側へもひょいっとGO!です。ぜひぜひみなさんも、HAVE A NICE 南米ひとりっぷ~!