前号では、埼玉県秩父郡小鹿野町にある「クライミングパーク神怡舘」で、世界的なクライマーである平山ユージさんから、ジムでの課題を体と頭をフルに使って登ることを教えていただきました。TBSラマ「俺の家の話」でプロレスラー役を演じるために増やした体重も落とし、今回は体が軽いです!
やってきたのは、初の外岩。前号でおじゃました「クライミングパーク神怡舘」の近くにある二子山です。そびえ立つ岩がたくさんある山域で、昔から知られるクライミングの聖地。
室内のクライミングジムとは違い、湿気や風、天気に大きく影響される屋外でのクライミング。
(井之脇さん)Tシャツ¥9,350/Skool パンツ¥15,400/ゴールドウイン カスタマーサービスセンター(ザ・ノース・フェイス)
平山ユージ(以下、平) 今日登ってもらう岩はね、岩の上からの景色がいいんです。ぜひ、井之脇くんに見てほしい。それだけでも来たかいがある!
井之脇海(以下、井) (岩を見上げて)うわー、下から見るとこれを登る大変さを感じますね。
平 うん、前回と同じ感じで登ってくれたら大丈夫だから! あれ、アドバイス少ない?(笑)
井 手の力はできるだけ使わず、足を使う、ですね! 前回のジムでは、難易度別にホールドが色分けされていましたけど、今回は自然の岩。どこをつかんでいいかもわからないし、足もとも見えないですね。
平 わかりやすいようにさっきチョークの粉をつけておいたから、それをたどるといいよ。
初の外岩は、「ローソク岩」の初心者でも登りやすいグレードのルート。高さ約9mほど、下から見上げるとビル3、4階くらいはありそうで、なかなかの迫力。
さっそく挑戦し始める井之脇さん。が、途中で動けなくなること数回。下で確保してくれているビレイヤーにロープのテンションをかけてもらい休憩。筋力の復活を待ち、40分ほどで1本目を登り切る。
デモンストレーションを兼ねて事前に平山さんが登りながら手足のホールドをチョークでマーキング。それを見ながらルートのオブザベーションを。見るのと、実際に登るのとは大違いで難しい!
平 どうだった!?
井 怖いっていうか、どう体を動かしていいかが全然わからないですね……。
平 1回で登れなくてもチャンスはいくらでもあるよ。外岩に登る楽しさって、忙しい毎日のなかで、自然を五感で味わう時間を持てるということだと思う。正しいギアの使い方をマスターすれば安全だけど、最初は怖いし、ロープも信用できないよね。でも、岩場に通っていると目標ができて楽しいし、クライミングで人生変わったんだよね。失敗しながら体の使い方を学んでいく感じかな。
井 失敗しながら学んでいく……。
平 俺、いいこと言ったよね(笑)
今回挑戦したのは、「トップロープ」という方法。岩のトップに取りつけられた終了点にロープをかけ、末端を八の字結びでハーネスにつなげる。登攀中、休憩したいときや危険なときは下でもう1名(ビレイヤー)がロープを張り、確保する。
ランチ休憩後、井之脇さんが同ルートの2本目にトライ。体の使い方のコツがつかめたと同時に、平山さんの「右にいいホールドがあるよ!」など怒涛の声かけにより10分ほどで完登! 今回はロープで体を確保しながら、岩の頂上まで登り、眺めも堪能できた。
岩場は登山道入り口から歩くこと約20分。二子山は「ルートの宝庫。さらに盛り上がる可能性を感じる」と平山さん。
平 次どうしよう?って考えると、体って固まってしまうから、考えずにどんどん動いたほうがいい。だから下から間髪いれず声かけしたんだよね。
井 2本目はスパルタでした(笑)
平 岩の上から両神山が見えて、景色がいいでしょう。
井 両神山! 行きたい山の一つです。クライミングができるようになると、山の楽しみ方も広がりますね
岩の特徴を瞬時に把握し、重力を感じさせないほど軽々と登る平山さんの姿はスパイダーマンそのもの!
平 登山道を歩いていると、これは登れるな、っていう岩がたくさんあるよね。町おこしの一環で始めたこの二子山のクライミングルートの開拓も、まだまだこれから。あと30〜40本は開拓できそうで、5年以上はかかるかな。
井 5年以上もですか!?
平 地域の小学生も登れるようなルートも増やしたいと考えていて。ザ・ノース・フェイス主催でキッズ向けのワークショップもやったりしてるんだよね。クライミングを通じて地元の魅力に気づいてくれたらいいな、と思ってる。そうそう、外岩のルートは初登した人がその名前をつけられるんだけど、今日のは「希望の在処」っていうんです。井之脇くんもどこか開拓・初登して名前をつけたらいいよ!
井 え!? なんてつけようかな(笑)
Peofile
いのわき かい●俳優。父の影響で登山を始め日本百名山制覇が目標。インスタグラム(@kai_inowaki)では近況や山の写真を発信中。映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』が全国公開中。
ひらやま ゆーじ●プロクライマー。1998年ワールドカップで日本人初の 総合優勝達成。2000年、2度目のワールドカップ総合優勝に輝き、世界のヒラヤマとして知られる。クライミングルートの開拓にも取り組む。
SOURCE:SPUR 2021年7月号「井之脇海、山と自然を遊びつくす」
photography: Masaaki Maeda styling: Kentaro Higaki 〈Tsuji Management〉(Kai Inowaki) hair & make-up: AMANO edit: Tomoko Yanagisawa