自分が変じゃないから、変なものが好き
——今回は、SPUR編集部が考える「クレープのような人」として、ソフトでユニークなみうらさんの生き方を勉強させていただきます! まずはご自身がクレープみたいだと言われて、率直にどんな感想を抱かれましたか?
「『野菊の墓』で言えば『あなたはクレープのような人だ』ってことですかね?(笑)。嫌な気はしないです。だって『岩おこしみたいな人』って言われるよりいいでしょ? 中が甘い=実はロマンティストってことかと思ったんだけど、思えば今まであまり堅いテーマを扱ったことがなくて。一番堅いものだと、金剛仏くらいです(笑)。でも実は仏像って手足がぷくぷくしてて子どもっぽいでしょ? 怖い表情の仏像もどこか柔和に見えるのは、そんな無垢な要素を入れているからなんですよね。まあそれがどうクレープとつながるかは、わかりませんけど(笑)。
意外に思われるかもしれませんけど、僕は根が真面目で、極限状態になると、真剣に思い詰めちゃう。でもそういうタイプの煩悩って、松本清張さんの小説だと確実に地獄に落とされるわけで(笑)。だから、若い頃からふざけたものに魅力を感じてたんだと思います。常識はずれなことがかっこいいと思ったのはロックを聴いてからなんです。彼らが実は〝真面目に不真面目なことをやっている〟ことに気づいたんです。ロックスターって、世界中で何度も同じ曲を歌ってるわけですよ。それって真面目じゃないとできないことだし、続かないです。そんな人たちをマネて髪の毛を伸ばし、世に言う変な格好をしてきたんです。
上京してから自分も本気でふざけたことをやりたいと思ってね。サングラスに長髪を僕のスタイルにしたんです。しかし、まわりから『スタイルなんて気にしなくていいじゃん』と言われてね。それ、『自分らしくいればいい』ってことだろうけど、自分らしさって、若い頃はちっとも確立していないから。一時期は髪も切ってサングラスもやめたけど、結局こうなったんです」
——キャッチーなみうらさんのスタイルにはそんな秘密が……。そこからずっと同じ姿勢を貫く意志の強さの秘訣は何でしょうか。
「続けていくのに一番肝心なのは、その都度、飽きていないふりをすることですよ。本当は誰よりも先に飽きていますから(笑)。ロン毛は夏暑いしね。さらに『老いるショック』で頭は汗だくです。家では髪をクリップで留めてるんですよ。でもやっぱり人をがっかりさせたくないじゃないですか。僕のやってる仕事も結局、サービス業ですからね。見た方に『いつまでもこの人らしいな』って思ってもらうことが一番だと思いますから。そのためにはいかに飽きていないふりをして、また好きになれるのを待つか。それが〝クレープな人〟だと思います(笑)」
——みうらさんはどうしてユニークなものにいち早く気づけるんでしょうか?
「そういうものって自分がまともじゃないと見つからないんですよ。誰が買うんだろう?って土産物。〝いやげ物〟って呼んでるんですけど、それに気がつくのは、ごくまともな気持ちでね。そこで『僕が買うんだ』って無理矢理に自分洗脳をしていくんです。そんなことに気づけて、人生二倍得したと思うようにしてます(笑)。真面目なことがいい、ふざけたことはよくないと思うとね、人生ひとつしか楽しめないけど、それでも面白かったらいいって発想は、人生二倍楽しめる。自分に対しても、真面目なだけだとしんどいじゃないですか。他人に対してふざけていても、自分には真面目でしょ? 人って。自分が悪いのに勝手にシリアスに悩んじゃったりして。よく自分が悪いくせに、恋人に怒られると、泣く奴いるじゃないですか。あれ僕なんですよ(笑)」
——肩肘張らないみうらさんは、まさに人が憧れる生き方のように見えます。
「ただ肩こりはひどいです(笑)。頸椎を痛めてましてね。実のところは、肩肘張っていないように見せているんです。それに僕が扱うテーマって肩肘張っていちゃだめじゃないですか。(『週刊文春』で連載中の)『人生エロエロ』って、タイトル。それだけでもわかってもらえると思いますが(笑)。しかも週刊誌でしょ。毎回、ネタ出しに大変でね。肩肘張った文章だと気づき、実は書き直してることも多いです。ま、そう見せないようにしてるつもりなんですけどね。みんなが好きな流行りのテーマは扱えませんし、自分がそれをあーだこーだ言っても意味ないと思ってます。だから居場所を自分で作って、そこでひとり相撲をやっているだけなんですよ。でも、ひとり相撲も意外と大変なんです。ひとりぶつかり稽古とかもあるし」
——クレープ人生哲学、味わい深いです。今後の生き方で心がけていることはありますか?
「僕、結局、普通のおじいさんになれない気がするんですよ。『おい、そこのじじい』って言われても、自覚がないからたぶん振り向かないでしょう。そこで考えたのが『アウト老』って言葉です。普通の老人にはなれない、アウトな老人。若い頃に憧れてた映画の中のアウトローの、老人版。それには頑張って自覚を持とうとしているんです。昔、時代劇で『木枯し紋次郎』っていうドラマがあって、いつも揉め事になると『あっしには関わりのねえことでござんす』って言うんです。世の流行には関わりがねえって、アウト老も思うわけでね。そんなときにこのクレープ取材の依頼が来た。ただ普通の老人がやらないようなことは大好物ですから、関わりたいと思ったんですよ。たぶんこれが、アウト老仕事の第一弾じゃないですかね(笑)」