仏・ミシュラン三ツ星ホルダー小林圭シェフに、話題のラウンジバー「ST LOUIS BAR by KEI」について聞いた

東京・銀座にオープンした「ST LOUIS BAR by KEI」。パリに拠点を置くシェフ、小林圭氏が初めて手掛けるバーは、フランスの老舗クリスタルメゾン「Saint-Louis(サンルイ)」と老舗和菓子「とらや」とのトリプルネームが話題になっている。今回のコンセプトや理想のバーについて、小林シェフに話を伺った。

東京・銀座にオープンした「ST LOUIS BAR by KEI」。パリに拠点を置くシェフ、小林圭氏が初めて手掛けるバーは、フランスの老舗クリスタルメゾン「Saint-Louis(サンルイ)」と老舗和菓子「とらや」とのトリプルネームが話題になっている。今回のコンセプトや理想のバーについて、小林シェフに話を伺った。

今を創る「KEI」と歴史あるブランドのタッグから生まれる未来

ST LOUIS BAR by KEI KEI KOBAYASHI
テラスに広がる景色を望むメインルーム。銀座の真ん中にいることを忘れさせてくれる空間演出は秀逸。

──バーというスタイルは今回が初めてということですが、「サンルイ」と組むことになった経緯を教えてください。

小林 銀座の真ん中でバーを開くにあたって、何かひとつ、他と違うフックが欲しいと思っていました。銀座にはいいバーがたくさんあります。むしろありすぎるくらい。そんななかで「とらや」と一緒に「KEI」としてバーを営むには何が必要なのか。考えるうちに、グラスが重要な要素として浮かんできました。

パリの「レストランケイ」には「サンルイ」のシャンデリアがあるのですが、自分がバーを開くとなったら、やはりここは「サンルイ」しかない。しかも、現時点で「サンルイ」のバーはない。それで、「サンルイ」をひとつの柱にしようと決めたのです。

──「サンルイ」と「KEI」と「とらや」、この三者が出合うことでどんなものが生まれるのでしょう。

小林 「サンルイ」のグラスで飲み物を提供し、「KEI」が作るフードと共に楽しんでいただく。デセールには「とらや」のあんを使ったものも出しています。目に見えるコラボレーションとしてはそういうポイントがありますが、三者のタッグについてもう少し深く言うとしたら、「サンルイ」は430年、「とらや」は500年という長い歴史があり、積み上げてきたものがあります。「KEI」にはまだ時間の積み重ねはないけれど、でも、「未来」はある。二者がこれまで築いてきたものに自分が加わることで、新しい歴史を作ることができる。それがこのタッグの意味だと思っています。

「日本」をリアルに感じながら、食事もデセールも楽しめるバーに

KEI KOBAYASHI
「銀座という、ある意味日本の文化が集約する場所で、お酒も食事も楽しんでもらえる唯一無二の場所を作りたい」

──ワインやカクテルのラインアップも素晴らしいですが、料理もとても充実しています。

小林 「KEI」が営む、つまりレストランのバーなのだから、デセールも含めて料理はとても大切です。カクテルバーでもワインバーでもなく、ラウンジバーのようなイメージです。ちゃんと料理もあり、ワインやシャンパーニュも豊富に揃えていて、しかもバーテンダーがいるので、カクテルを飲むこともできる。

この場所のこの雰囲気のなかで食事を出すとしたら何がいいか。それをずっと考えていました。まず決めたのは、「匂いが強いものは出さない」「ナイフを使わずスプーンとフォークと箸で気軽に食べられるものにする」ということ。11階のレストランのテーマは、「Ginza Cuisine(銀座キュイジーヌ)」。50~60パーセントはフレンチやイタリアンの要素を入れて、あとは日本を含めたアジアのテイストを組み込む。12階のバーでは、お酒から料理を考えることがあっても、料理からお酒を考えることがあっても良いと思っています。お酒を目当てに来る方にも、食事を楽しみに来る方にも、両方のベクトルで満足してもらえるものにするつもりです。

現時点ではまだメニュー数が少ないのですが、来年1月からパリの「レストランケイ」で10年以上自分のもとで働いていた料理人がこちらのバーのシェフとして働くことになります。そうなったらもっといろいろ充実するはずです。

──お店には個室が二つあり、テラスには日本庭園もあります

小林 デザインを依頼する時に、日本の侘び寂びが欲しいと伝えました。このフロアにいらっしゃったお客さまを、まずはエントランスのクリスタルでお迎えし、そこから、左に行くと開放感のあるダイニングの空間があり、テラスと屋上につながります。逆に、右に行くと仄暗い空間に飛び石や砂利がある。こちらは茶室のイメージです。実は、最初はもっと暗くしていたのですが「怖い」という声があって(笑)。少し明るくしました。

テラスの日本庭園については、銀座に店を出すと決まった時に「中央通りの屋上に日本庭園を作ろう」と決めました。銀座の一等地、しかも屋上に日本庭園なんて普通なら考えられないことだけれど、ここは海外の方が多い街です。海外から来た人たちに「日本」を感じて欲しいという思いもあって、西畠清順さんに依頼。季節ごとの日本の景色が映り、紅葉などの色の変化も楽しめるように造園をしてもらいました。風情のある木や花があり、上を見ると空が広く開放感がある。とてもいい庭になりました。

バーは、その日の疲れを癒し明日の活力をチャージする場所

ST LOUIS BAR by KEI KEI KOBAYASHI
サンルイのグラスを使ったエントランスのインスタレーションが「特別」な時間と空間へと誘う。 photo:Ibuki Tamura

──シェフにとって、バーとはどんな場所ですか? どんな店にしたい?

小林 実は、自分はあまりバーには行かないのですが、でもそんな自分がバーに求めるとしたら、自宅や仕事場とは違う、心を解放できる「自分の居場所」でしょうか。バーテンダーがお客さまの気持ちを汲み取り、元気を届ける。「明日また頑張れる」と思って帰っていただく、そんなところが理想なんです。「今日は料理を食べながら楽しく話したい」という時もあれば、時には「ゆっくりしたい、話を聞いて欲しい」という時もある。お客さまの様々なニーズに寄り添い、バーテンダーは決して出過ぎず、でも投げられたらどんなボールでも受け止める。幸福を分かち合えるような、そんなバーなら、自分もぜひ行きたいですね。

──これからの展望は?

小林 今はまだ始まったばかり。まだまだできることやりたいことがたくさんあります。1年後くらいにようやく方向性が見えてくるのではないかな。スピードが求められる現代に「それじゃあ遅い」と言われるかもしれないけれど、ここは「サンルイ」と「とらや」という何百年の歴史を持つブランドと一緒に営む店です。その時間の積み重ねの先に今があり、そして未来ができる。だから、急ぐことよりも一歩一歩を着実に進めることのほうが大切だと考えています。「サンルイ」と「とらや」と、そしてここに来てくれる方たちと一緒に新たな歴史を作っていきたいですね。

サンルイのグラスで楽しむカクテルは格別

ST LOUIS BAR by KEI KEI KOBAYASHI
カクテルの種類も充実。ノンアルコールメニューがあるのも嬉しい。左:シグネチャーカクテルのひとつ「ブラックアンダー」¥3,100 右:ノンアルコールのモクテル「フェイク・ファッションド」¥2,100. photo:Ibuki Tamura

ST LOUIS BAR by KEI(サンルイ・バー・バイ・ケイ)
https://www.maisonkei.jp/st-louisbar/
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同ビル11階にはアラカルトで料理が楽しめる「ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ)」がある。食前にアペリティフを楽しみにバーに立ち寄ったり、食事後にカクテルやウイスキーなどを楽しむなど、両店を行き来して楽しむこともできる。
https://www.maisonkei.jp/esprit_c/

プロフィール
小林圭(KEI KOBAYASHI)
長野県生まれ。1998年渡仏。パリ「プラザ・アテネ」のメインダイニングを率いていたアラン・デュカスシェフの元で7年間働き、5年間スーシェフを務めたのち、2011年に独立して「Restaurant KEI」をオープン。2012年にはフランス版ミシュラン一つ星、2017年に二つ星、2020年にはアジア人初の三つ星を獲得。5年間ホールドしている。

仏・ミシュラン三ツ星ホルダー小林圭シェフの画像_5
キャビア 10g/20g ゴーフル スモークサーモン ハーブクリーム ¥6,000/¥11,000
仏・ミシュラン三ツ星ホルダー小林圭シェフの画像_6
地蛤の海藻バター焼き ¥1,800
仏・ミシュラン三ツ星ホルダー小林圭シェフの画像_7
キャビア 毛蟹 グリビッシュ ¥6,500