自然界でほぼ分解されず、人の体内に長く残る“永遠の化学物質”。発がん性や出生時の低体重などさまざまな健康への影響が指摘されるPFAS(ピーファス)が、全国各地の河川や浄水場などから相次いで検出されていることが今問題になっている。
汚染源は主に在日米軍基地や航空自衛隊の基地、化学工場、産業廃棄物処理場周辺など。特に米軍基地が集中する沖縄県中南部では、基地内から流れ出たとされる高濃度のPFASがたびたび検出されてきたにもかかわらず、いまだ十分な調査もできていない状況だ。不安が広がる中で、私たちが知るべきこと、考えるべきことは何なのか。沖縄のPFAS汚染を題材にした作品を手がける、ビジュアルアーティストの鈴木萌さんに話を伺った。
自然界でほぼ分解されず、人の体内に長く残る“永遠の化学物質”。発がん性や出生時の低体重などさまざまな健康への影響が指摘されるPFAS(ピーファス)が、全国各地の河川や浄水場などから相次いで検出されていることが今問題になっている。
汚染源は主に在日米軍基地や航空自衛隊の基地、化学工場、産業廃棄物処理場周辺など。特に米軍基地が集中する沖縄県中南部では、基地内から流れ出たとされる高濃度のPFASがたびたび検出されてきたにもかかわらず、いまだ十分な調査もできていない状況だ。不安が広がる中で、私たちが知るべきこと、考えるべきことは何なのか。沖縄のPFAS汚染を題材にした作品を手がける、ビジュアルアーティストの鈴木萌さんに話を伺った。
明らかになる健康への影響。変動する国の基準値
PFASは1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物の総称。熱に強く水や油をはじく特性があるため、1940年代から産業利用され、泡消火剤や調理器具のコーティング剤、防水服、半導体の製造など幅広い用途に使われてきた。
昨今は世界的に規制が強化され、PFASの中でも有害性が確認されているPFOSとPFOA、PFHxSの3種(以下、まとめてPFASという)については製造や使用、輸入が国際条約で禁止されている。しかし、これまでに基地や工場などから漏れ出たPFASが地中に浸透し、長い時間をかけて地下水から湧き水となり、河川へ流出している。「汚染地点が集中する沖縄中南部の地層は、サンゴの殻が堆積した琉球石灰岩なので透水性が高く、深刻な地下水汚染につながるとされています」と鈴木さん。過去に漏れ出たPFASが現在も分解されないまま、水道水や井戸水を通じて体内に取り込まれることが懸念されている。
不可視なPFAS。汚染の実態とは
環境省が2022年に実施した調査によると、沖縄を含む16都府県の111地点で基準値を超えるPFASが検出された。沖縄の水道水がPFASで汚染されていることが初めて公表されたのは、2016年1月。それは県の中南部に位置する北谷(ちゃたん)浄水場で、県民約45万人に供給される水だった。北谷浄水場の比謝川取水ポンプ場の上流では、嘉手納基地内を流れる大工廻(だくじゃく)川が合流する。当時この川から、1,462ng/Lという高濃度のPFASが検出された。汚染源は、1970~80年代に同基地内の大工廻川脇で使用されていた消火訓練場である可能性が極めて高いと見られている。
その後沖縄県が実施した調査の結果、普天間基地下の湧き水・喜友名泉(ちゅんなーがー)では最大2,000ng/L、普天間第二小学校グラウンドの土壌からは6,600ng/kg、嘉手納基地周辺の井戸群では最大1,870ng/L、このほか、嘉手納弾薬庫や陸軍貯油施設下流の天願川、キャンプフォスター周辺の湧き水、キャンプハンセンから流れ出る地下水などでも同様に高濃度のPFASが検出された。
沖縄の汚染問題を引き起こす、過重な基地負担
鈴木さんは『Aabuku』を通じて、汚染問題を引き起こす社会構造にも目を向ける。沖縄のPFAS汚染の解決を難しくしているのが、米軍の権利を定める日米地位協定だ。日本の関係機関は米軍基地に許可なく立ち入ることはできず、「環境に影響を及ぼす事故が現に発生した場合」に限り、立ち入り調査を申請できる取り決めになっている。しかし、これまでに政府や自治体の立ち入り調査が許されたのは2回のみ。「県側が立ち入り調査を要請しても許可されないばかりか、日本政府も消極的で要請に関する回答を避け続けている」と鈴木さんは強調する。
「1度目の立ち入りが実現したのは、2020年の普天間飛行場の泡消火剤漏出事故のあとでした。基地内のPFAS漏出事故は頻発しているのですが、米軍はこのときに初めて漏出があったことを認めたので、沖縄県と日本政府が普天間基地の土壌調査を実施しました。続いて、基地内の地下貯水槽にPFAS汚染水が大量に保管されていることも明らかになりました。米軍はその後、台風による雨水流入で貯水槽があふれるのを防ぐために、基地外の下水施設への汚染水の放出を強行したのです。日米間の協議の結果、日本の防衛省が費用を全額負担し、基地内の汚染水をすべて引き取るということがありました」








