19歳のときにフランスに渡り、料理人として働いていた梅田さんは、2005年にオーガニック食材とワインの輸入会社を立ち上げた。美味しくて体に良いものを届けたいという純粋な思いで始めた会社だったが、日本での販売スタイルに違和感を抱くようになった。
「山奥で質素に暮らす生産者が丹精込めて作ったものを卸しても、日本の小売企業から求められるのは、売り場で目を引くような過剰包装でした。生産者の思いと売る側の認識がかけ離れていて、これでは間に入る意味がないとモヤモヤしていました」
長年のフランス暮らしのなかで、ゴミを出さない生活が自然と身についていた梅田さん。「パッケージフリーの野菜を買ったり、自宅でコンポストをしたり、そういった暮らしを日本でも普通にできたら」。そこで足を踏み入れたのが、量り売りビジネスだった。
個別包装はいっさいなし。容器がなくても気軽に立ち寄れる量り売りスーパー
棚にびっしりと並ぶ、ナッツやドライフルーツなどの瓶。
店内には、無農薬の野菜や果物をはじめ、肉、魚、惣菜などの生鮮食品、フェアトレードの豆やナッツ類、乾物、調味料、日用品など、世界各地から仕入れた約700種類の品物が並ぶ。栽培方法や味にこだわった独自のセレクトに定評があり、食好きのリピーターが多い。
「食べることが大好きなので、スタッフと話し合いながら美味しいものを選りすぐって仕入れています。今の時期のおすすめは、無農薬のオーガニックいちご。完全無農薬というだけでも希少価値がかなり高いのですが、甘味たっぷりで本当に美味しいんですよ」と梅田さん。
ひと粒からでも買える、京都府産のオーガニックいちご。100gあたり498円。
一般的な食品スーパーとの違いは、トレーやパック、フィルム、ラップなどの包装がいっさいなく、どの食材も「はだか」で売られていること。斗々屋の思いに共感し、できるだけゴミを出さない方法で納品してもらえる生産者の協力により実現した。オーガニック食材は高級なイメージもあるが、パッケージ代が上乗せされていない分、価格も手頃だ。
150円の預かり金を払ってレンタルできるデポジット容器。
商品を購入する際は、欲しい分だけ商品を取り出し、店内に設置された専用の電子はかりでセルフ計量し、持参した容器に入れて持ち帰る。はかりは利便性を重視して、寺岡精工のAI技術を搭載した最新型を導入。画像認識やモーションセンサーにより、欲しい分をのせるだけで自動的に商品が識別されるので、初めての人でもスムーズに計量できる。
容器を持参しなければ購入できないわけではない。店内には、預かり金を払ってレンタルできるデポジット容器が用意されている(容器を返却すれば預かり金が戻ってくる)。そのため、近所のスーパーやコンビニに行くのと同じ感覚で気軽に立ち寄り、買い物することができる。
欲しいときに、欲しい分だけ。卵1個からでも買えて無駄なし
旬の野菜は全国から仕入れている。
人気商品は、新鮮で美味しいと評判の青果。野菜はどれも20gから購入でき、大根やキャベツなどは好きなサイズにカットしてもらえる。
卵は1個から、いちごはひと粒からでも購入可能。必要な分だけを買えるので、使い切れずに食材を無駄にすることがない。
パック包装されていない卵
青果は京都府産に限らず、良いものであれば全国から仕入れる。「ローカルだけで回そうという意識はない。自然災害など、いざというときに助け合うためにも、各地と繋がりを持っておくことが大切」。オープン当初からそのスタイルは変わらない。
オーガニックの大豆で作られた納豆。100gあたり280円。ひと箱で約10食分(400g)。
発泡スチロールパックやフィルムなど、1食分でもたくさんのゴミが出てしまうのが市販の納豆だが、斗々屋ではステンレスのケースの中で発酵させた納豆を販売している。ケースごとの購入にも、20gからの量り売りにも対応。さまざまな商品を少量ずつ試すことができるのも、量り売りの魅力だ。
レストラン併設でフードロスをなくす、循環型の取り組み
惣菜コーナーも充実している。
これだけ豊富な品ぞろえにもかかわらず、驚くべきことに斗々屋では食品廃棄がほとんど出ないという。売れ残りやすい食材や賞味期限が近づいたものは、惣菜として使われるほか、店内奥のイートインスペースでレストランメニューとして提供される。
「小売りだけではどうしてもフードロスが発生してしまいます。レストランを併設して循環させる仕組みは、もともとの斗々屋のビジネスプランでした。レシピを開発し、余りそうな食材を調理して使い切るようにしています」
店内奥のイートインスペース。夜はワインバーとしても営業している。
週5日(火曜~土曜)は、夜のワインバー兼レストラン営業も行い、梅田さん自身が厨房に立つ日もある。毎回決まったメニューはなく、その日に使える食材で、リクエストも踏まえて調理する。それでも残った食材は、瓶詰めにして保存食に。皮や種などの食べられない部分はコンポストに活用する。豊富な食材をそろえる斗々屋ならではの取り組みだ。
惣菜の盛り合わせとセットで10種類のワインを試飲できる新メニューも導入。それぞれのワインのラベルと説明を書いたシートを用意し、ただ味を楽しむだけではなく学べる体験も提供する。
こうしたゼロ・ウェイストの取り組みを全国に広めるべく、斗々屋ではコンサルティングにも注力している。スタートアップの個人事業主向けに有料のオンライン開業講座を開催し、斗々屋が培ってきたノウハウを提供。店舗研修や卸しのサポートなどの独立支援も行っている。「直営店を増やすよりも、ノウハウを共有する方が広まるのが早いし、消費者のためにもなる」。梅田さんはそう考えている。
斗々屋のノウハウを使って独立した店(「斗々屋フレンズ」)は、全国に130店舗にまで増えた。現在はコンサルティング事業の一環で、2025年4月に下北沢にオープン予定の発酵スイーツカフェ「みんな商店」の運営にも携わっている。
ゴミが出ないってすごく楽。量り売りをもっと身近に感じて
調味料には、総重量から減った分の商品の重さと料金を算出する、減算式はかりを採用。
先述したように、斗々屋では生産者の協力のもと、納品時もゴミが出ないように工夫されている。そのため、店で出るプラスチックゴミの回収は、なんと2ヵ月に1度だけ。一般家庭で出るゴミの量をはるかに下回っている。
「取引先の方がうちの店にいらっしゃるとき、手土産を持ってきてくださるのですが、ゴミが出てしまうものばかりで選ぶのが難しいとおっしゃっていました。そうやってゴミを出さないことを考えてくださるのは嬉しいことですね。私たちの取り組みを通じて、少しずつでも周りの意識を変えていけるんじゃないかなと思っています」
フードロスを出さないために、斗々屋では賞味期限切れの商品(スタッフが品質確認済み)を20%オフで販売している。
梱包がない分、余計な経費や人件費もかからない。「食品スーパーの利益率の平均値がおよそ20%といわれるなか、斗々屋ではオープン以来40%以上の粗利益率を保っています」と梅田さん。今後の目標は、集客をさらに増やし、全体の売り上げを底上げすること。そのためにも、量り売りをもっと身近に感じてもらう必要があると意気込む。
「環境問題に関心のある人は限られているし、そういった方はすでに斗々屋に来てくださっています。量り売りやオーガニックというと、日本ではどうしてもハードルが高いイメージがあるのですが、そういったことに興味のない人たちにこそ、もっと気軽に来てもらいたい。
私は今京都で家族3人で暮らしていますが、自宅でコンポストもしているのでゴミ捨ては4ヵ月に1回くらい。プラゴミはひと袋たまるまでに何年もかかります。しかもそれを苦労なくやれている。捨てない暮らしって、じつはすごく楽なんですよ。斗々屋にふらっと来て、デポジット容器で食材を買ってみたら、美味しいうえにゴミもまったく出なかった。『ゴミが出ないって楽だな。また行ってみよう』と思ってくださる方が増えていってほしいです」
2017年に斗々屋のビジネスプランを作ったとき、ゼロ・ウェイストのコンセプトに共感してくれる企業はほとんどなかった。小さなモデルショップから始まり、日々改善を重ねて10年近く経った今、同じ理念を持つ仲間は確実に増えている。
できることから少しずつ。一人ひとりの小さな行動が、大きな変化を生む。斗々屋の挑戦は、これからも続いていく。