われわれの身体問題、アクティビスト&起業家からのメッセージ 2022 ━vol.1fermata株式会社 共同創業者/CEO Aminaさん

「フェムテック」という言葉がメディアで取り上げられるようになり、今までタブーとされてきた身体にまつわる話が、少しずつ女性たち自身の口から語られるようになってきた。しかしまだまだ問題は山積みだし、困っているのに声を上げられずにいる人、必要な情報が届いていない人も多いはず。3月8日の国際女性デーをきっかけにして、改めて私たちの身体と社会の関係について考え、未来のために一歩を踏み出してみよう。

知っておきたい身体問題の今とこれから

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身体にまつわる諸問題を解決するため、それぞれのフィールドで活動する人々にインタビュー。フェムテック起業家、避妊にまつわる問題を訴えるアクティビスト、私たちの性と生殖に関する健康・権利について訴える活動をするドクター、フェミニズム専門出版社を立ち上げた編集者、性教育に使える無料素材集サイトの運営者の5人に、問題意識や活動を支える原動力、今、思っていることを聞いた。社会を変えようと奮闘する5人からのメッセージは、あなたがよりよい未来のために動き出すきっかけになってくれるはず。

フェムテックがタブーを「ワクワク」に変える

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フェムテックの分野で、日本・アジア市場を創出するべく各種事業を展開する「fermata(フェルマータ)」。運営するオンラインストアには、吸水ショーツや月経カップ、デリケートゾーンのケアアイテムや女性用のセクシュアルグッズなど、さまざまな商品が並んでいる。日本ではまだ数少ないフェムテックアイテム専門のECサイトだが、見ていると「こんなものがあるんだ」と嬉しい驚きを与えてくれる。

フェルマータのビジョンは、「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」。ここ数年で一気に市民権を得た「フェムテック」という言葉だが、その日本やアジアのフィールドを牽引しているとも言える存在だ。その共同創業者であり、CEOのAminaさんに、日本のフェムテック産業について、そしてフェムテックが拓く未来について聞いた。

タブー視されてきた女性のヘルスニーズ。まずは潜在ニーズを言語化、そして市場化へ

私はもともと公衆衛生の中でも、医療経済を専門としていました。「医療物資やサービスへのアクセスは平等であるべき」という意識は、国が介入する保険制度が確立している日本のような国には存在します。しかし、平等が求められるヘルスケアの市場にも、開発や流通の過程には、市場原理が強く働くことが多く、結果、発展途上国だけでなく、先進国にもアクセス課題は存在するのです。

今回の新型コロナウイルス感染症がよい例です。n数(サンプルとなる人の数)が膨大だと、ワクチンなどの創薬開発には大量に資金が投入され、最新の科学技術をもとにあっという間に薬事承認・製品化され、各国に供給されます。でも昔から潜在ニーズがあるにもかかわらず投資や開発が進みにくいヘルスケア分野も存在しています。たとえば、小児がんなどの罹患率が低い分野であったり、文化・宗教・歴史的にタブー視される傾向にある分野です。女性のウェルネスやセクシュアルウェルネスの分野は、後者に該当します。

タブー視されてきた分野は、潜在ニーズがわかりにくいという問題があります。まず一般の方が、自分にも潜在ニーズがあることに気づきにくい。そしてニーズがあってもそれを言語化しにくいので、企業側がニーズを汲み取れず、そこに投資して商品を作っていくのが難しくなる。だから私たちは最初の一歩として、潜在ニーズや課題がしっかり言語化され議論される「場」を作りたいと思っていました。そして、そういう場を作る際に、具体的な「モノ」があることは議論を活発にする効果があります。

モノの力がタブーを破った「Femtech Fes!」での経験

2019年、会社を設立する直前に、最初のイベント「Femtech Fes!」を都内で開催しました。私はそれまでベンチャーキャピタルで働いていて、ヘルステックが国内参入する際のアドバイザーをしていました。その中で、とある米国のフェムテック企業に出合い、興味をひかれるようになったのですが、当時は「フェムテック」という言葉は日本でも国外でもあまり知られていませんでした。そこで「実際にどんなアイテムがあるのか集めてみよう!」と思い立ってイベントを開催することに。

世界中のフェムテック企業200社ほどに連絡して、30社ほどが無償で製品を送ってくれました。予算の問題もあったし、どれくらいの人が興味を持っているのか未知数だったので、来場者用チケットの価格は高めに設定しました。それでも蓋を開けてみたら、当初想定していた60名を大きく越えて、130名ほどの方が来場してくれた。北海道や大阪から来てくれた人もいて嬉しかったですね。

イベントの中で印象的だったのが、実際の製品を前にして、普段はあまり他人と話さないような話題がすごく盛り上がっていたことです。たとえば月経カップを前にすると、自分の経血量の話が自然とできるようになっていたり。今までタブー視されてきた生理の話も、その悩みの解決策を体現している製品が目の前にあると、製品を通して自分のことを話せるようになるんです。アート作品を前にして、お互いの感想を話し合っているような感覚ですね。それを目の当たりにして、「モノの力ってすごいな」と実感しました。

日本のフェムテック市場が、一歩先へ進むためには?

最初のイベントから2年が経ち、昨年に開催した「Femtech Fes! 2021」では、157のプロダクト&サービスを展示して1,500名近くの来場者がありました。イベントの規模はだいぶ大きくなったし、「フェムテック、流行(はや)ってるよね」とよく言われますが、実は私たちにはあまりその実感がありません。興味を持っている人は増えたと思いますが、残念ながら、最新のテクノロジーを使った商品はいまだ市場には少なく、また現在市場に出ている商品が爆発的に売れ始めたりといった傾向もまだありません。今後は大いに期待できますけどね!

現在の日本では、フェムテックという言葉を通じて「ひとりひとりが自分と向き合い、自身に眠るヘルスケアニーズと向き合いたい」という思いが大きくなり始めていると思います。これは、とてもよいことです。しかし、この言葉はもともと、起業家と投資家の間で新しい産業を表現するために使われていた言葉です。最新IT技術や既存の医療技術を女性のウェルネス課題(認知症や骨粗鬆症など、男性と比べて女性のほうが罹患率が高かったり、症状が異なる疾患も含む)に応用し、BtoCだけでなく、BtoBの事業にも応用しようというものです。

2022年現在、世界に約800社ほど存在すると言われているフェムテック企業ですが、その中には、ゲノム解析技術を応用して、今まで捨てていた経血を分析し、子宮内膜症の発生を予測するものだったり、おりものの質から排卵日や妊娠の可能性を予測してくれるものなどもあります。しかし、その多くが、いまだ日本市場にたどり着いていませんし、国内でもまだ生まれていません。フェムテック産業には、今の日本市場が想像する範囲をはるかに超える可能性や将来性があると感じています。

市場の成長を加速させるには、土台を整えることが重要

可能性に満ち溢れたフェムテック関連商品・サービスですが、実際に商品化されているものでも、日本国内では、まだ流通が進んでいません。その理由のひとつとして、新しいヘルスケア産業が確立するために必要な法律やルールの整備が進んでいないことがあげられます。消費者を守るためには、新しいプロダクトや技術の安全性および品質が証明されなければいけません。

実際に日本でも、政治家や省庁などが動き出していますし、安全性・品質を考慮しながら、適切に新しい商品を販売できるよう、企業側も積極的に働きかけています。地道な活動ですが、そうやって品質を担保した上で市場が広がれば、商品の選択肢が増えて単価も今より下がってくる。その商品がごく普通に店頭に並んでいることで、試してみようという心理的なハードルも下がるはずです。困っているけれど経済的にも心理的にも今は手が出せない人へ商品が届くようにするためにも、市場の土台整備は重要です。

また、アイデアや志を持っている人(や会社)と、技術や知識を持っている人(や会社)とのマッチングも、日本市場における課題だと思います。消費者のニーズを汲み取り課題を言語化する力と、医学法律等の専門知識やIT技術。フェムテック市場へ参入するには、多くの場合その両方が必要です。市場を作ろうとしている以上、fermataでもそのマッチング支援は行っていく必要があると感じています。

アジアのフェムテック市場をリードする存在に

今の日本のフェムテック産業は、欧米発の製品やサービスがリードする形で進んでいます。その多くは西側諸国の価値観で作られているので、すべてが日本人にフィットするわけではありません。アジアの国には、アジアの価値観や慣習にフィットしたフェムテック製品が必要なはずです。

だから今後、若い世代が自分たちの価値観にあった新しいフェムテック製品を開発したいと思ったときに、すでに参入しやすい環境が整っているとすごくいいですよね。そういう思いもあって、今は西側諸国の画期的な商品を日本・東南アジアに持ってくる形で、ルールの整備をしたり市場を開拓したりしています。そしてさらに長期的な視野でいうと、いつか世界にフェムテック市場が広がったときには、その市場開発はアジアがリードできたら嬉しいですね。

 

●●私のオススメする、視野を広げる最初の一歩●●

『デザート・フラワー』(2009年)

ソマリア出身のモデル、ワリス・ディリーの自伝を映画化。女性器切除問題の当事者でもあるワリスの半生を、トップモデルのリヤ・ケベデが演じる。「この原作になった本を読んだことが、今の事業にも繋がっています」とAminaさん。

PROFILE

Amina●fermata株式会社 共同創業者兼CEO、公衆衛生博士
タンザニアで幼少期を過ごし、日本や英国、ドイツで医学、公衆衛生学を学ぶ。スタートアップコミュニティのMistletoeや、AIスタートアップスタジオの All Turtlesに参画したのち、2019年に中村寛子とともに会社を設立。

text:Chiharu Itagaki illustration:Natsuki Kurachi

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