性的同意についての理解を深めるというと堅苦しく聞こえるけれど、それはきっと、あなたの内面を豊かにしてくれるはず。身につけた知識は自分はもちろん、誰かを性被害から救う“お守り”に!
——若い世代の間で【性的同意】の概念はすでに広まっているのでしょうか?
山﨑 残念ながら、私はそうは思わないですね。性的同意をもっと広義で考えると“性的な話をするときに相手への配慮があるか”ということにも繋がるのですが、飲み会で『彼氏いるの?』『初体験いつ?』『もしかしてゲイなの?』というような発言はままあると思うので。今この人がその話をしたいかどうか、ということにまで想いを馳せられる人は決して多くはないのかなと。
冨永 もちろんこういう活動をしていると周りに性的同意に対する意識の高い人も多いですし、少しずつは浸透してきているのかなとも思います。それだけに、知識の格差が生まれがちな事柄でもありますね。
山﨑 以前大学の授業で性的同意ワークショップを行った際に、アンケートを取ったことがあったんです。『この中で“相手が性行為に同意したとあなたが思う項目はありますか?』というもので、目があったら/2人で飲みに行ったら/車に2人で乗ったら/家にあがったら/裸でベッドに入ったら、など10〜15くらいの項目があり、362人ほどに答えて頂きました。それらの答えはすべて“同意ではない”だったのですが、ひとつもチェックをつけなかった人は10人にも満たなかったんです。目があっただけでは『同意ではない』と思う人が大半ですが、2人でベッドに入ったら言葉はなくてもOKだと思ってしまう人がすごく多い。相手の積極的なYESを確認しない限り同意にはならない のですが、その基本的な概念を理解していない人がまだまだいるのには危機感を抱きました。
——YES MEANS YESの概念ですね。
山﨑 はい。北欧をはじめとする世界各国でスタンダードになりつつある考え方ですが、日本ではその前段階のNO MEANS NOでさえも浸透していない。相手に『嫌だ』と断られたのに『嫌よ嫌よも好きのうち』だと押し切ってしまう人がいるのは、今まで性被害に関する法律に“不同意”の概念が盛り込まれていなかったところに大いに関係があると思っています。近頃は大学生やNPO法人が性的同意に関するハンドブックをつくることも増えていますが、やはりできることには限界があるので本当は国や自治体が動いてくれたら……という想いはありますね。
——性的同意ワークショップとは、どのような内容なのでしょうか?
冨永 授業の一コマを使わせてもらったり、大学の内外やサークル内でも定期的に行なっています。性的同意の正しい概念を知ってもらうことで、被害者にも加害者にもならないように。実際に同意を取るうえで重要なポイントを解説したり、性暴力が起きている場面に遭遇したときに第三者としてできることについて話し合ったりもしていますね。センシティブな話題も出てくるので、人の意見を否定しない/話を遮らない/一人一人の考え方を尊重する、などのグラウンドルールを設けて、ワークショップの後には心のアフターケアも積極的に行なうようにしています。
山﨑 人間関係は千差万別で、具体的にどう同意を取るかにお決まりのルールはありません。 なのでそのアイデアの参考になるよう、映画やNetflixのドラマの中で性的同意を取っているシーンをみんなで鑑賞したりもしています。今までに見たのは『セックス・エデュケーション』や『Trinkets』、日本の作品だとすごく少ないのですが『17.3 about a sex』などですね。
冨永 2人1組でピザをつくるというアクティビティを性的同意に模して行なうこともしています。『どの具材が好き?』とか『嫌いなものはある?』などピザづくりなら簡単に聞けるのですが、ひとたび性行為となるとなかなか難しい。ピザづくりは具体的なコミュニケーションの取り方や意思表明の仕方の練習になりますし、性的同意を取っている場面を映像で見ることは実際に自分がどう同意をとるかのヒントになるのではと思っています。
山﨑 ワークショップ内では性的同意における3つの大切なこと、①NOと言える環境“非強制性”があるか、②社会的な地位を盾におびやかされていない“対等性”があるか、③一度同意しても断りたいと思ったときには断れる“非継続性”があるか、を掲げています。 でもこれって実は性的同意に限ったことではなくて、社会生活全般において必要なんですよね。
冨永 そういった考えから、性行為に関わらず自分がされて嫌だったこと、その気はなくても友達を傷つけてしまったことを共有するアクティビティも実施しています。たとえばSNSに許可なく友達の写真を載せてしまって後からトラブルになった……というような事例など。よく“されて嫌なことは人にしない”なんて言いますが、自分が嫌じゃなくても相手は嫌なこともあるじゃないですか。その気持ちに必ずしも共感する必要はないですが、尊重することはとても大切。相手も同じ気持ちだろうと決めつけず、人の考えは違って当たり前という大前提が性的同意を含むコミュニケーション全般には不可欠 なので、その理解を深めるために行なっていますね。
——セックスだからといって区分けして考える必要はなく、日常のコミュニケーションと地続きなんですね。
山﨑 はい。あともうひとつ言いたいのが、性的同意の話はあれをしちゃダメ、これをしちゃダメなど抑止力と捉えられがちなのですが、自分の決定権は自分にあると再確認できる本来はポジティブなものなんです。
冨永 学んで得た知識は自分に対してはもちろん、他人のお守りにもなると思っています。 誰かが傷つきそうなときにフォローしてあげられたり、友達の性被害の悩み相談にものれるようになったり……。
山﨑 性暴力の現場を目の当たりにしたときの第三者介入にしても、飲み会だったらわざとコップを倒して相手の注意を逸らす、言えそうな相手だったら『それセクハラですよ〜』と軽く牽制してみる、被害に遭いそうな子に『大丈夫?』って声をかける、相手に直接言えなくても先輩や店員さんに助けを求める、こっそり動画を撮っておく……などなど。実際にどんなことができるかはケースバイケースですが、こんなやり方があるというのを知っておくといざというときに心強いですよね。
冨永 でもそこで怖くなって何もできなかったとしても、決して自分を責める必要はないんです。性暴力やセカンドレイプは加害する方が100%悪い。 それを知識として知っていることでも動けなかった自分を責めなくていいと思えるし、性暴力そのものにも自信を持って反対できます。
——このサークル活動をしてきてよかったこと、社会全体の課題だと思われることについてお教えください。
山﨑 まず、性的同意について理解を深めることで自分の内面が確実に豊かになったのがひとつ。そして性被害の当事者団体の方々やジェンダー問題に取り組むNGOの方々と一緒に活動させて頂く中で、刑法改正を審議する記者会見に出席するなどの貴重な体験もさせて頂きました。そのうえで刑法が改正されたことは、自分たちの発信が実際に法律を動かし、社会を変える力になったという私たちの大きな自信になっています。でもやっぱり、どの社会問題においても何かを変えようと一番奮闘されているのは当事者の方々なんですよね。これからは当事者だけが頑張らなくて済むように。世代も、性別も、今まで当事者でなく済んできた人も、みんなが連帯して暮らしやすい社会をつくってゆくにはどうしたらいいのか。まずは一人一人がそれを考えられるようになればと思います。
性犯罪・性暴力の相談窓口 https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/consultation.html