助産師であり、性教育について発信するYouTuberであるシオリーヌさんが、「自分を愛すること」の大切さについてゲストを招いて、熱烈トークする連載。今回のテーマは、彼女が「自己肯定感を育むための要となるもの」と考える、家族関係について。自らの家族について語ったエッセイがウェブ上で話題を呼んだ作家・岸田奈美さんと、家族愛とは何か、愛情と義務の境界線はどこにあるのか熱く語り合った。
完璧な人はいないから完璧な家族もありえない
K 最新刊のエッセイ『もうあかんわ日記』に書きましたが、このときは母が生死をかけた手術をすることになって、祖父の葬儀もあり、そんな状況で祖母の調子まで悪くなった。あらゆる問題が私ひとりにのしかかってきて、本当に「もうあかん」という状況でした。
S 拝読しましたが、本当に極限状態ですよね……。
K そんな状況でどうしたら自分のつらさが軽減されるか考えたとき、今はいったん家族から距離を置いたほうがいいと決断したんです。祖母は介護施設に、弟はグループホームに行ってもらうことにして、私と母も離れて暮らすことにしました。「おばあちゃんがかわいそう」と周囲に言われたりもしたけれど、私自身が倒れてしまいそうだったので。離れた場所にいて、「私がいなくてもこの人は大丈夫」と思える状態をつくるのも大切だと思っています。
S 状況に合わせてより幸せな道を選び取ることって、すごく大事ですよね。今の日本社会では、それをわがままだと捉える人も多いと思う。でも、人はみな自分のために生きていいはず。私はずっと、世間の価値観では「親孝行」だとは思われない選択をした自分を責める気持ちがありました。一方で、心のどこかで父からの愛情を諦めきれず、いつか謝ってくれるんじゃないかという期待を捨てられない自分もいました。でもそこに諦めがついたとき、すごく気持ちが楽になったんです。
K 私も母を恨んだ時期はあったし、今だって恨んでいる面はありますよ、同時に大好きでもありますけどね。私は両親からとても愛されて育ったんです。だから、自分は当然あらゆる人から愛される存在なのだと思い込んでしまった。小学生になったとき、みんなが自分を好きになってくれるわけではないことを知って、ものすごく傷つきました。自己肯定感が高すぎたんですね。その違和感は、大人になっても続きました。やっぱり親だってひとりの人間だから、完璧な家族、完璧な子育てなんて存在しないんだと思います。
S 岸田さんは、深く考えてそれを言語化するスキルが高いですね。だからこそ、つらいときも押しつぶされずにやっていけるんだと思う。そのレジリエンスの高さ、私も見習いたいです!
SOURCE:SPUR 2021年10月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
photography: Kae Homma text: Chiharu Itagaki
