アップデートしながら未来へつなぐ。循環するインテリア

良質ながら壊れてしまった家具、大量廃棄されてしまう学校資材。そんな古物にデザインという価値を加えてモダンに刷新。未来の世代へと引き継ぐための、アップサイクルを考える

PART.1 多様なアプローチを知る

使われなくなった家具や廃棄される運命のプロダクトをレスキューし、新しい存在へと生まれ変わらせる、3つのプロジェクトを紹介

Ao.Re:(アオリ)

Ao.Re:(アオリ)のスツール
コンセプトモデルの「Ao.Re:スツール」。東京で廃棄されたスツールを藍染めした新パーツで補修。¥212,000

anova design, Inc.の宮地洋さんとKOKKOKの田中良典さんの共同プロジェクトとして始動した「Ao.」。東京の木材を使い、藍で染めた木製家具を製作。そのうち「Ao.Re:」は古い家具を藍で刷新するプロジェクト。

https://ao-design.tokyo/jp

 

古い家財を〝藍染め〟でフレッシュに

深い海の色のような青が印象的な家具。天然の藍染料を使って染められている。家具に染料? と不思議に思うが、それがこのブランド「Ao.」の特徴でもある。ブランドを立ち上げたディレクターの宮地洋さんと家具職人の田中良典さんは、東京を中心に活動。東京産の良質な木材がうまく活用されていないことに疑問を持ち、2019年、地産地消を打ち出した家具を発表した。

それだけでなく、2022年には、廃棄予定の木製家具を、新たに製材された部材で修復するプロジェクト「Ao.Re:(アオリ)」をスタート。現在、発表されているのはスツール(写真上)と、テーブルの2種類で、藍色に染まっているのが新たに修復した部分だ。「一見、壊れて使えなさそうな家具でも、アップサイクルすることで唯一無二のものになります。新品の持つ清潔なきれいさとは異なる美があることを発信したくて始めました」と、田中さん。「それに加えて」と、宮地さんも続ける。「ただ古いものっていいよね、という押しつけではなく、新旧をミックスすることでかっこよくなる。それを大切にデザインしています」

また、富山県内で家具やインテリア全般を販売する家具会社「米三」とも共同でプロジェクトを進める。「米三」が回収した家具が並ぶ倉庫から、1979年に製造された「マルニ木工」の曲木椅子をピックアップ。元の塗装を剥がし、補修箇所のパーツを藍染め。同じく藍染めされた座面には富山県産のトチの木を使っている。

もちろん「Ao.Re:」だけでなく、東京産の木材を活用した「Ao.」も、循環がテーマとなっている。

使われている木材は主にヒノキの無垢材。無垢のなかでも湾曲した根元や端材などを丁寧に継ぎ合わせ、木目が残るよう藍染めを施すことで表情を統一。本来は利用価値の低い、けれども良質な材に、新たな価値を吹き込んだ。

「僕たちは同じ建築系の大学の出身。ただ、卒業制作を作ったとき、たくさんの資材を使う新しい建造物を手がけるのは、僕の仕事ではないと思ったんです。それよりも、建築や社会の仕組みをどう作るかに興味を持ちました。『Ao.』は、その延長でもあるんです」と、宮地さん。田中さんも「家具デザインがしたくて建築を勉強したのですが、自分で作るところまでやりたくなって家具職人に。僕が針葉樹の無垢材を選んだのは、人が植えればずっとある素材だから。石のように採掘するとなくなるものではなく、持続可能な素材だということ。かつては高級材だったヒノキがこんなに使える時代はない。木の価値をもう一度、高めることができれば、新しいものを作っても救われる、と考えたんです」と言う。

これだけものがあふれている時代に、あえて新しいものを生み出す。そこには、作り手としてある種の免罪符が必要なのかもしれない。それは使う側も同様だ。いずれゴミになるものではなく、この先、何十年もずっと愛おしいと思えるものを持つ。その意識がサステイナブルへとつながっていく。

Ao.Re:(アオリ)
「Ao.Re:スツール」の元の姿。脚部と座面にかなりダメージがあったため、すべてバラしてダメージ部分を取り除き、補修をした
「マルニ木工」の曲木椅子
富山の「米三」が運営するアップサイクルに特化したショップ「トトン」と「Ao.」の限定コラボレーションで発表した、「マルニ木工」の曲木椅子
アップデートしながら未来へつなぐ。循環すの画像_4
まずは、椅子をパーツごとに分解する
アップデートしながら未来へつなぐ。循環すの画像_5
元の塗装を剥がして、藍染めにて再塗装を施した

P/OP(ポップ)

P/OP(ポップ)のたんす
背板などダメージ部分をアクリルに変換。なるべく元の形を生かして作る「P/OP」の桐たんす。価格は10〜20万円

かつては一家に一棹あった和たんす。富山県内で廃棄されるこれらを救い出し、カラフルなアクリルを使って生まれ変わらせている。
https://www.yes-acrylic.com/

 

捨てられてしまうたんすを救い出し、ポップに再生

「家’s(イエス)」代表の伊藤昌徳さんが、和たんすを再生するプロジェクトをスタートしたのは、約6年前、東京から富山に移住したことがきっかけだった。そのときはたんすの再生をするなど、夢にも思っていなかったそう。

「移住した当初はゲストハウスをしていました。それが、だんだんと知り合いが増えていくなかで、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが僕から見たらすごくかっこいいものを、これいらないと捨ててしまっていたんです。それでちょっと待って、と古いものをレスキューしたのが始まりでした」

さらには、空き家もものすごい勢いで増えているなか、引き取り手がいない残置物も山積みに。
「そのなかでも使えるものはあるはずだと、クリエイターと一緒に活動することに。60名くらいの現代アーティストや建築家、デザイナーたちとゆるくつながり、新たな観点からものづくりをしています」

伊藤さんがデザインする、和たんすをアップサイクルする「P/OP(ポップ)」もその一環となるプロジェクト。 ピンクとイエローのビビッドな色のアクリルを使い、まったく新しい表情に作り変えた。だが、ここまで来るのも試行錯誤の連続だったとか。

「アクリルにたどり着くまで3年くらいかかりました。そのまま補修しただけで売ってみたり、アートピースにしたり、鉄で加工してみたりしたのですが、どれもピンとこなくて。それで、海外に目を向けてみたら、アメリカやヨーロッパの家具ってどっしりと重量がある。半面、日本の家具はすごく軽いのが特徴だとわかったんです」

だったら、その軽さを生かそうと考えた結果、加工しやすく軽くて清潔感のあるアクリルを思いついた。
「表情もパキッと変えられるし、ポップな印象があるので、これでいこうと決めました。色はあまり多くするとうるさくなるので、和たんすのしっとりとした茶色と相反する、鮮やかに目を引く2色に絞ることにしました」

当初は利益を出すことが目的のビジネスとして考えていたが、だんだんとそれだけではない意識も生まれた。
「富山県内からたんすを引き取るのですが、持ち主の話を聞いていると、すごく大事に思っている。なのに処分せざるを得なくて、切ないんです。素材も作りもいいのに、廃棄するしかないなんてどこかおかしい。もちろん、儲けを考えるのも大事ですが、社会課題としてやらなくてはいけないと思うようになりました。やりながら理念がついてきた感じですね」

現在は富山で製作し、都市部でポップアップショップを開催。さらには、海外で展示をすることも。
「サンフランシスコやロンドンには日本の伝統や文化に関心のある人も多く、面白いと興味を示してくれます」

流通方法など、まだ課題はたくさんあるが「早く道を作らないとどんどん廃棄されていってしまう」という焦りも。一度なくなると二度と手に入らなくなる日本のよきもの。それらを救って次世代に渡す。「家’s」はその仕組みの一端を担っている。

P/OP(ポップ)のたんす
ピンクのほか、イエローのアクリルも使う。アクリル加工は富山・砺波市の職人にオーダー
「ロンドン・クラフト・ウィーク」に参加 P/OP(ポップ)のたんす
2023年5月に開催された「ロンドン・クラフト・ウィーク」に参加。「ヨーロッパの家具とは異なる、持ち運ぶことを前提とした作りにも興味を持ってもらいました」
P/OP(ポップ)のたんす
ロンドンでは、「ノブ ホテル  ショーディッチ」で展示

tumugu upcycle furniture

tumugu upcycle furniture
音楽室にあったフルートをスタンドライトに。ソファ脇のサイド照明などにちょうどいい。¥14,800

学校で使われていた楽器や机、椅子、ランドセル、顕微鏡、試験管や蛇口など、あらゆる備品を新たなアイテムに変換する。
https://www.upcycle-interior.work

 

学校備品を、身近なアイテムに再構築

大阪を拠点に活動する「tumugu upcycle furniture」。ここの特徴は、誰もがなじみのある学校の備品をアップサイクルしていること。たとえば、椅子は背もたれを活用して時計に、吹奏楽で使用したフルートやトランペットなどは照明に、と意外なものに生まれ変わらせている。

始めたのは、約8年前。まだアップサイクルという言葉も一般化されていない頃だった。そのきっかけを代表の土井健嗣さんは、こう言う。
「子どもが減った影響で、全国的に小・中学校が統廃合されるように。うちも親が経営していた家庭塾で学校の机や椅子を使っていたので、机一つにも子どもたちの思い出が詰まっているのを知っていました。それが廃校に伴い大量廃棄されるのはもったいない、と思っていたんです。使い方を変えたら、まだまだ活用できるのではないかと、机を引き取らせていただき、錆びて曲がっていた脚をカットしてローテーブルを作ったのが最初でした」

土井さんの本業は大学職員。特にデザインの勉強をしたわけでも、家具を製作したことがあるわけでもない。ただ、大量廃棄をどうにかしたい、という思いだけでスタートした。
「最初は動画配信を見ながら作り方を模索。ただ、幸いなことにうちが大阪市内の町工場が多いエリアにあるんです。だから、わからないことがあると職人さんたちに相談して、アドバイスをもらいながら進めていきました」

平日は本業があるため、製作は週末のみ。だんだん一人では手が回らなくなり、母親も手伝ってくれるように。
「デザインは僕が考えますが、今や製作のほとんどは60代の母がやってくれています」

備品を引き取り、週末は製作に勤しむ。さらには3年前から、アップサイクルのブランドを集めたオンラインセレクトショップもオープンした。けれど、その売り上げの一部は、子どもを支援する財団に寄付している。
「本業もあるので、利益を求めてやっているわけではない。この活動を通して、自分たちのできる範囲で、社会に還元したい、と思っています」

そして、心がけていることもある。
「アップサイクルでも、素材に戻して作り替える方法がありますが、僕たちが目指しているのは、なるべく元の形を残すこと。できる限り解体せずに、何が使われているかわかるものにすることを大事にしています」

それは、誰もが記憶に残っているものをベースにしているから、というのもある。フルートの照明も、見ると自らが過ごした学生時代を思い出す人も多い。
「日本には昔から着物を子ども用に仕立て直したり、座布団にしたり、最後は雑巾にしたりとリメイクする文化が定着していました。アップサイクルは本来、みんなの生活のなかで実践していくもの。僕たちのアイデアを見ることで、捨てていたものに違う視点や意識を向けてくれるといいな、と思います。そうすれば、今よりちょっとだけいい世の中になるのでは、とささやかながら願っています」

アップデートしながら未来へつなぐ。循環すの画像_11
フルートの管の部分にコードを通して、ソケットを設置
アップデートしながら未来へつなぐ。循環すの画像_12
円形の台座に設置して、シェードをかぶせれば完成。高さ62㎝の小さなスタンドライト
アップデートしながら未来へつなぐ。循環すの画像_13
子どもの安全を考えた椅子。特に背板は頑丈なので、まだまだ使える。曲面がアクセントになる壁掛け時計に。留め具部分には金色のボタンを設置。¥6,800

PART.2 私たちにできる循環

自分でもアップサイクルできたら、家の不用品が宝の山に。スタイリストの矢内麻友さんが、ワークショップに参加して古たんすを素敵に再生!

アップデートしながら未来へつなぐ。循環すの画像_14

矢内麻友さん(スタイリスト)
やうち まゆ●『SPUR』をはじめとしたモード誌や広告などで活躍。ファッションに加えインテリアにも詳しく、巧みなプロップスタイリングにも定評がある。撮影のための小道具を手作りすることはあるが、本格的なDIYは初めて。

ReBuilding Center JAPAN

ReBuilding Center JAPAN

家屋や工場の解体現場でレスキューされた、古材と古道具を販売する。ワークショップも定期的に開催。
長野県諏訪市小和田3の8
0266-78-8967
営業時間:11時〜18時
定休日:水・木曜

 

昭和の和たんすをモダンなキャビネットに

自分の手を動かして、アップサイクルにも挑戦してみたい。訪れたのは、長野県諏訪市にある古材や古道具のリサイクルショップ「ReBuilding Center JAPAN」、通称リビセン。目的は古たんすをアップサイクルするワークショップに参加すること。ウェブサイトから予約申請し、1回につき最大4組で開催される。この日実践するのはスタイリストの矢内さん。コンビネゾンを身にまとい、いざスタート!

まずは予約時に選んだたんすを確認し、全体の流れの説明を受ける。大まかな工程は塗装を剥がす→オイルを塗る→鉄製の脚をつけるという3つ。ランダムオービットサンダーやインパクトドライバーなど、聞き慣れない道具の使い方も詳しく教えてくれるので、初めてでも安心。昔ながらのディテールが生きるたんすを、現代の生活様式に合わせてモダンなキャビネットに。

古家具や古材を使ったワークショップは、リビセンでも人気のイベント。作り替える喜びや古材の可能性を知るいい機会になっている。自分の力で循環させることで、より愛着も生まれる。捨てようと思っていた家具を見直すチャンスだ。

ReBuilding Center JAPAN

1 鉄の金具がついたザ・和たんす。引き出しを抜くと、用途の幅がぐんとアップするので、下段だけ残して、オープンにするのがおすすめ。まずはランダムオービットサンダーで、塗装を除去。

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2 塗装の多くは漆。金具まわりは手でヤスリをかける。「大変ですが、これをきちんとやっておくと仕上げがきれいになるそう。なんでも一番大事なのは、下地作りなんですね」と、矢内さん。粗目のヤスリで塗装を落としたら、細目で、赤ちゃんの肌のようになめらかになるまで仕上げる。

ReBuilding Center JAPAN
ReBuilding Center JAPAN

3・4 木の味わいを引き出すため、内部に浸透するタイプのワトコオイルをハケを使ってたっぷり塗る。色みは3種類。油分を与えると、しっとりして艶が増し、木の経年変化をより楽しめる。余分な油は乾いた布で拭き取る。揮発性が高いので、オイルがしみ込んだ布やハケは水で濡らしてからビニール袋に密閉してゴミ箱へ。

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5 いよいよ最後は底面4カ所に脚部をつける。インパクトドライバーを使ってビス打ちをすれば完成。「実は初めて手にする工具。すごく気持ちいい。この作業が一番好きです」

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約4時間かけて出来上がったキャビネットは、和というより洋な雰囲気に大変身。「シンプルなので、どんな場所にも似合いそう。奥行きもたっぷりあるので、食器棚やシューシェルフにしてもいいと思います。とても楽しかった!」(矢内さん)

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