2021.08.23

「結婚の平等」はみんなのために。同性婚の今を知る PART 3

好きな人と一緒に人生を歩みたい。そう思っても、今の法律や制度ではその権利が認められていない人たちがいる。「同性婚」をめぐる議論の歴史や当事者の声を通して、望む未来の実現に向けて一歩前進しよう。

PART 3  当事者の声を聴く

同性婚について、まさに今困難や不安を抱える2組のカップルに話を聞いた。解決すべき課題をクリアにして、アクションへとつなげたい。

“台湾で実現しました、日本でもできるはず!”

テディ・レンさん & シュンさん

てでぃ れん/任祐成●1993年生まれの俳優。台湾のドラマ「HIStory ボクの悪魔」などに出演。
しゅん●1992年生まれ。会社員。筋トレとお酒が趣味。犬が好き。

U-NEXTなどで配信中の台湾ドラマ「HIStory ボクの悪魔」にも出演している俳優のテディ・レンさん。アメリカで生まれ、中学から親の住む台湾に移り、高校在学時から俳優業を始めた。現在のパートナー、シュンさんとはテレビ撮影のために滞在していた東京で出会った。今年でつき合って5年、同棲歴は4年になる。そんな二人は今、台湾への移住を考えている。
「本当は今年移住するつもりでした。でもコロナ禍で、外国人の入国が制限されてしまって。将来的には台湾で結婚したいと考えています」(テディ)

台湾では2019年5月にアジアで初めて同性婚を認める法案が可決された。けれど、問題も残っている。「まだ同性の国際結婚には制限があるんです」とシュンさんは話す。
「アメリカなど同性婚ができる国の人が相手なら結婚できますが、日本では認められていないので、私たちはできない。でも、どの国籍の人とでも同性婚ができるような改正案はすでに準備されています。コロナ禍で先延ばしになっていますが、可決されるのも時間の問題だと感じています」(テディ)

国籍の異なるカップルにとって、何より大事なのが、パートナーと一緒に暮らせることの保障だ。テディさんは今就労ビザで滞在しているが、いつ帰国を命じられるか常に不安だという。シュンさんも同じ気持ちだ。
「本音を言うと、ビザの問題さえ解決すれば、私自身は結婚はしなくてもいいと思っています」(シュン)
「私たち若い年代には、結婚そのものを重要視しない人もいます。でも望むビザの取得や病院での立ち会いができないのは問題。ただともに同じ場所で安心して生活したいんです」(テディ)

最後に読者に向けてテディさんが伝えたいこととは?
「政治に参加することが大事だと思います。台湾は20代から政治に関心が高く、ニュースをよく見て誰に投票するかを常に考えています。台湾もできました、日本もきっと変えられます!」

“異性愛者(ヘテロセクシュアル)にこそ同性婚が必要なんです”

エリン・マクレディさん & もりたみどりさん

えりん まくれでぃ●米オハイオ州生まれ。言語学者。イベントオーガナイザー。現在、青山学院大学に勤務。
もりた みどり●奈良県生まれ。アーティスト。エリンとともにクィアイベント「WAIFU」を主宰している。

同性婚はLGBTQ+だけの 問題じゃない

今年の6月21日、同性婚をめぐって二人の女性が東京地裁に訴訟を起こした。提訴したのはエリン・マクレディさんともりたみどりさん。二人は2000年に日本で結婚し、三人の子どもがいる。トランスジェンダーのエリンさんは2018年に、母国アメリカで書類上の名前と性別を変更し、みどりさんと婦婦(ふうふ)になった。しかし、日本で住民票を更新しようとしたところ、当時住んでいた目黒区から、すでに結婚している人の性別変更はできないと言われてしまう。代案として区が出したのは、エリンさんの性別表記を「女性」に変更する代わりに、みどりさんとの続柄を「妻」から「縁故者」にせよ、というものだった。性自認と異なる性別でいることを受け入れるか、婚姻を解消するか――エリンさんはどちらかを選ばなくてはならない状況に立たされてしまったのだ。「なぜ選ばないといけないのか、理解できませんでした」とエリンさんは当時を振り返る。

「私たちが理不尽な選択を迫られているのも、国が同性婚を認めていないことが原因です。そもそも同性婚を法的に認めたところで何の問題があるのでしょうか。同性婚を認めたら誰に害があるのか、具体的にどういう問題が起きるのか、政府の見解を聞いても、『LGBTQ+の人が気に入らない』程度の意見しか言っていないように思うんですよね」(エリン)

反対派は「少数への配慮は必要ない」などの理由で反対するが、みどりさんは、同性婚は性的少数者だけの問題ではないと話す。
「私はヘテロセクシュアル(異性愛者)ですが、愛する人たちとずっと家族でいたい。だから訴えています。もし恋愛相手とずっと一緒にいる自信がなくても『大好きな友人とその子どもと助け合って生きたい』と考えたときに、同性婚の選択肢があれば、その友人とだって家族になれる。同性婚はヘテロセクシュアルにとっても必要な制度なんです。恋愛感情を含めた、もっと大きな愛の問題だと思います。実際に私とエリンも、今は恋愛関係ではなく“親友”としてつながっています」(みどり)

結婚とは何か改めて考える必要がある

同性婚の訴訟を起こしたのも、二人が結婚に執着しているからではない。
「私たちが訴えたのは、同性婚だけでなく、結婚制度とは何か、家族制度とは何か、という疑問を社会に投げかけたかったからです。今これだけ結婚率や出生率が下がり、離婚率が高くなっているのは、今の結婚制度が現代社会に合っていない証拠です。今の制度は男女のペアに限定されていて、家族観も『恋愛を基盤に成り立っている男女のカップルとその子ども』が主流ですよね。でも実際の家族は多様で、恋愛のあり方もさまざまです。その多様性を認めないから、『離婚』か『未婚』を選ばざるを得なくなってしまっている人が増えている、そう思うんです」(みどり)

「最終的に、同性婚を含めた日本の家族問題は、一人ひとりの性的指向の問題ではありません」と言うのはエリンさんだ。
「結婚とはどういうものであるべきかを今一度、みんなで考える必要があるんじゃないでしょうか。結婚はセックスのためにするものじゃないし、恋愛のためにするものでもない。家族をつくるための制度です。そのためには、まず一人ひとりが“家族”に求めるものや自分に合った家族像を考えることから始める必要があると思います。自分をよく見てよく理解して、そのうえで、自分のニーズと愛する人たちのニーズを満たせる関係をつくっていく。幸せな家族のあり方を考える作業は、ジェンダーに関係なく、みんなに参加してほしいです」(エリン)

「家族」は自分たちで それぞれつくっていくもの

同性婚は目の前にある大きなステップだ。けれども、そこが最終目的地であるとは限らない。エリンさんとみどりさんの視線は、同性婚のその先にある、多様なパートナーシップや“家族”のあり方に向けられている。
「同性婚は絆創膏みたいなものだと思っています。とりあえずの応急処置。でも本当はもっと根本から変えないといけない。より融通が利く制度が必要なんです」(エリン)

エリンさんには今、スウェーデンで暮らすエリスさんという彼がいる。コロナ禍が落ち着いたら、東京の家で三人で一緒に暮らす予定だという。みどりさんもこの関係を受け入れている。
「エリンに彼がいてもOK。だって私とは恋愛じゃなくて愛でつながっているから」(みどり)

そもそも家族というのは、社会で生き抜くために必要な、最も小さなコミュニティ(共同体)だ。そうであるなら血縁の有無は関係なく、よりフレキシブルで多様であってもいいはずだ。
「私たちは15年間、異性愛のカップルとしてつき合い、三人の子を育てました。そのあとエリンがトランジション(性別移行)をしてからは、自分たちで新しい家族のあり方を模索してきました。自分たちが何をしたいのか・何が必要かを考えて、今のかたちにたどり着いたんです」(みどり)
「家族に必要なのは、お互いに思いやってケアし合うこと。そう考えると、性別は関係ない。母親とは離れて暮らしていて時々電話するくらいですけど、それでも家族です。心がつながっているかが問題なんです」(エリン)
家族に決まったかたちはない。家族とは自分たちでつくっていくものなのだ。



SOURCE:SPUR 2021年10月号「同性婚の今を知るPART 3」
photography: Kotetsu Nakazato edit: Sogo Hiraiwa illustration: Fuyuki Kanai

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