そのアクションが未来を変える。「投票する」ということは PART 1

今秋に実施される第49回衆議院議員総選挙に向けて、大事な"一票"を投じるために。基本的な選挙の仕組みや制度を改めて学びたい。世代を超えてのクロストークや政治をより身近に感じる新たな視点を通していま一度その意義を考える。望む未来のために、私たちの声を届けよう

希望を投じる手もとは、自分の気持ちが上がるように着飾りたい。

ブラウス¥55,000/イザベル マラン(イザベル マラン エトワール) リング(中指)¥249,700・(薬指)¥438,900/伊勢丹新宿店 本館4階 レポシ(レポシ)

なぜ選挙へ行くべきなんだろう?

私たちは政治によって、体の動かし方を変えられた。そう聞くと驚くでしょうか。日本人は江戸時代まで右手と右足を同時に出して歩いていました。近代化が進み、銃を持って戦えるように、政策で手足を交互に出す西洋的な体の使い方へ変えたのです。それほど政治は大きな力で人々の体や言葉、アイデンティティにまで深く影響を与えます。

国政を司る国会議員たちは法律や制度を定めるだけでなく、私たちが納めたお金の使い道も決めます。その額は国民1人あたり収入の約3割といわれていて高額です。それなのに、生活はなかなかよくならない。社会保障や税制は男性片働き中心の制度のままで、年金制度も破綻するといわれています。女性は非正規雇用の割合も多く、子育てをしながら働くには厳しい環境があり、シングルマザーや単身高齢女性の貧困は深刻で、政治が変わらなければさらに悪化する。選挙に行かなければ、私たちの声は反映されないままなのです。自分の一票では何も変わらないと思うかもしれませんが、その一票が集まれば必ず大きな力になる。そうしてかつての女性たちは連帯し、選挙権を獲得した歴史があります。

仕事や家事、日々の生活が大変で政治について考える余裕がない、という人もいると思います。でも、それほど必死にならないと生きられないのはなぜ? 国政はいま、どこを向いているでしょうか? すべての人に関わることを考えるのが政治の役割です。そして、その民意を反映する人を選ぶのが選挙です。

私たちの話を聞いてくれる政治家はいます。1人で苦しさを抱え、生きづらいと思っても諦めず、一緒に解決してくれそうな人、政党に思いを届けてください。それすら放棄して、一票を大切にできないのは自分を大事にできないことと同じ。私たちはもっと自分を慈しめるし、投票によって声を上げられます。

話を聞いた人

岡野八代さん

おかの やよ●1967年生まれ。政治学者、同志社大学教授。主にケアの社会的意義・政治的問題を研究。『ケアするのは誰か?|新しい民主主義のかたちへ』(白澤社)を出版。

いまさら聞けない Q & A

政治や選挙にまつわる素朴な疑問を、いまこそ解決したい。選挙のプロ・松田馨さんが丁寧にレクチャー

Q1 衆議院議員と参議院議員の違いは何ですか?

A1 国会は衆議院・参議院の二院制。衆議院議員の任期は4年、計465人、参議院議員の任期は6年、計245人です。衆議院の任期のほうが短く、また、任期中に衆議院が解散し、総選挙となることもあります。そのため、衆議院は国民の意思を反映しやすいとされ、両院で異なった議決が行われた場合、衆議院の議決が優先されることがあるなど強い権限が認められています(衆議院の優越)。衆議院議員選挙は国の行方を左右する注目度の高い選挙となっているのです。

Q2 小選挙区比例代表並立制って何ですか?

A2 小選挙区制は1つの選挙区から1人の議員が選ばれます。ただ、当選者以外の候補者に投票した人々の票は、政治に反映されない「死票」となります。小選挙区制では死票が多くなるという欠点があるため、比例代表制を併用しています。比例代表制では政党に票を投じることができ、その得票数に応じて党ごとに議席が配分されます。小選挙区と比例代表の両方に立候補(重複立候補)した候補は、小選挙区で落選しても比例で復活当選できる可能性があります。定数は小選挙区289人、比例区176人です。

Q3 政党ってそもそも何ですか?

A3 同じ政治的な考えを持った人々によって組織される政治団体です。日本には自由民主党、立憲民主党、公明党、日本共産党などさまざまな政党があります。衆議院は465議席あるとお伝えしましたが、多くの議席を獲得した政党が与党として政権を獲得し、政治運営を主導します。なぜなら、法律案などの審議は多数決で採決を行い、過半数が賛成すれば可決となるためです。つまり、衆議院議員選挙では全465議席のうち233以上の過半数の議席を、どの政党が獲得できるかがポイントになります。

Q4 自分の意見と合致する候補者がいません。どうしたらいいですか?

A4 恋愛と一緒で完璧なパートナーはいません。つまり、完璧な候補者も政党もないということです。それを前提とした上で、選挙では少しでも自分と意見が近い人、近い政党を選んでみてください。もしくは自分と立場の近しい人に票を入れてみる。たとえば、女性の意見を国政に反映させるために、女性候補者に一票を投じるという考え方もアリだと思います。

Q5 政治家の政策や人となりを知るための情報収集はどうしたらいいですか?

A5 テレビや新聞だけでなく、ネットでも情報が得られます。選挙の専門サイト「選挙ドットコム」では、各候補者や政党の情報がまとまっていて、そこでさまざまな政策の賛否や意見を確認できます。また、政策に対する質問に自身の意見を入力すると、あなたの考えに近い政党を教えてくれる候補者マッチングサービスも。各候補者が発信しているTwitterやインスタグラムなどのSNSもぜひチェックしてみてください。

Q6 期日前投票制度は特別な事情がある人しか利用できませんか?

A6 誰でも利用できます。仕事だけでなく、旅行や遊びなどで投票に行けない場合も大丈夫なんですよ。また、投票日当日の投票所は特定の場所に限られているのに対して、期日前投票所はショッピングモールや駅構内など、利用しやすい場所にあります。投票期間は公示日の翌日から選挙期日の前日までで、投票所入場券がなくてもOK。期日前投票利用者は増加傾向にあり、投票者の3人に1人以上が期日前に投票をしています。

Q7 投票日前に友達からLINEで「◯◯さんに投票して!」と連絡がありました。これって公職選挙法違反ですか?

A7 違反ではありません。公示日から投票日前日までLINEで投票の依頼を呼びかけるのはOK。ただし、電子メールや携帯SMSで呼びかけると違反になります。LINEやSNSを使った選挙運動はOKですが、投票日当日はNG。投票所内での写真撮影は、他の有権者の「投票の秘密の保持」の関係から違反になるおそれがあります。投票所の看板前などは撮影可能ですので「投票に行きました」とSNSに投稿するのは問題ありません。

Q8 外国籍の人も投票できますか?

A8 残念ながら、日本国籍を持たない方の参政権は認められていません。今後増えるであろう外国籍の方の声を政治にどう反映させていくか、地方選挙で参政権を認めるべきだという議論もありますが、いまだ実現には至らず。また、外国籍の方は選挙に立候補もできません。ただし、候補者を応援する、投票を呼びかけるなどの選挙運動をすることはできます。

話を聞いた人

松田 馨さん

まつだ かおる●選挙プランナーとして地方選挙から国政選挙まで250を超える選挙に携わる。著書『残念な政治家を選ばない技術 「選挙リテラシー」入門』(光文社新書)ほか。

SOURCE:SPUR 2021年11月号「『投票する』ということは」

photography: Masaya Tanaka〈 TRON〉 styling: Tomoko Kojima model: Yo illustration: Emi Ozaki edit: Mariko Uramoto

FEATURE