PART2 アクティビストに聞いた、同性婚の成立とその後の社会

自国で"結婚の平等"の実現に尽力し、現在は世界各国で理解推進に努めるキーパーソンに話を聞いた

アメリカ

1970年代に公民権運動と併せて同性婚実現に向けた活動が始まる。1993年にハワイ州で性別をもとに結婚を認めないのは違憲とされ、議論が広がった。初めて同性婚が認められたのは2004年、マサチューセッツ州で。世論が動き、2015年までに50州中35州で同性婚が合法化された。2015年6月26日、最高裁判決により事実上全州で合法化。2022年12月13日、連邦レベルで同性婚の権利が擁護される結婚尊重法が成立。

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エヴァン・ウォルフソン

Dentons法律事務所のシニアカウンセル。米国全州での同性婚法制化に向けて設立されたFreedom to Marryの創設者、代表。米国のほか世界各国でも積極的に活動を行う。

エヴァン・ウォルフソン

「結婚の自由」は社会の分断を和らげ、強くする

長年同性愛者の権利やHIVに関わる訴訟に携わり、同性婚の法制化に尽力したエヴァン・ウォルフソン弁護士。アメリカだけでなく、同性婚が認められたすべての国に教訓があるという。

「現時点で世界には同性カップルが結婚できる国が34カ国あります。つまり10億人以上が〝結婚の自由〟がある国に暮らしている。これこそが『何も悪いことは起きない』という証拠であり、経験的意義なんです。日本の自由民主党より保守的な政党が率いる国でも同性婚導入に至りました。ドイツのメルケル前首相は個人的には支持していませんでしたが、前進を認めた。指導者は皆、結婚の自由を認めるべきときが来ていて、延々持ち越して問題視されるよりは自党にとっても有利だとわかっていたんです」

2015年に米国最高裁で判決が出た際には、経済界の後押しもあった。

「判決前に社会のさまざまなセクターから意見書が提出されました。そのひとつが379の企業によるもので、結婚の自由による経済的利益を述べていた。政府が同性カップルを差別すれば、人材が流出し、しかも働く人によって違うシステムが発生して経費がかかると。その意味で、いまの日本企業は他国と比べて魅力がないとも言えます」

2015年以降、アメリカの状況はどう変わってきたのだろうか。

「世論調査では、当時反対していた共和党支持者さえ過半数が同性婚を支持している。アメリカ社会はずっと分断されてきました。でも同性婚に関しては、家族や経済、社会のためになるとみんな理解するようになった。愛や責任、調和といった価値観を強くするとね。昨年は下院で共和党議員の支持を得て、Respect for Marriage Act(結婚尊重法)が可決されました。将来法廷でどんな判断が下されようと、同性婚は合法だと定められた。結婚の自由はむしろ分断を和らげたんです」

日本では反対意見として、少子化や伝統的家族観の議論があがる。だがウォルフソンさんは、同性婚はむしろ保守的な価値観を守る側面があると語る。

「英国のキャメロン元首相は『私は保守なのに同性婚を支持するのではなく、保守だからこそ支持する』と言った。ここは重要ですね。それに第一、ゲイの人たちが結婚すると出生率が低下するという統計はありません。次に、日本でもすでに同性カップルが子どもを育てている。なのに政府がそうした家族や子どもたちを傷つけているんですよ。われわれは将来生まれるかもしれない架空の子どもたちを心配するのではなく、すでにいま、日本で不公平に扱われている家族や子どもたちについて議論しなければならない。第三に、国が家族をリスペクトし、正しいことをすれば、人々は受け入れられると感じて自信を持つものなんです。子どもを育て、家族を持とうという気持ちになり、それが社会を安定させる。なのにいまの日本の法律が発しているメッセージは、『いやならほかの国へ行け』ということ。本来なら日本で家族を築き、社会を支えてほしいはずなのに」

同性婚を支持する人が、いま実際に日常でできることはなんだろうか。

「変化を起こす一番のエンジンは対話です。友達や職場の同僚、近所の人と話して、意見をシェアしてください。それと、自分の地域の議員にコンタクトを取ること。特に自民党議員に、日本を前に進めたいと伝えてください。たまに議員が『そんな話は聞かないし、うちの地区に性的マイノリティの人はいません』などと言うことがあります。もちろん、そんなわけはない。彼らはもっと人々と話す必要があるんです。われわれがインクルーシヴな社会を求め、尊厳のある社会を支持していることを知らなければ。人々は架空の過去に生きるのではなく、日本が成長し、強くなるのを求めている。まさにいま日本の番が来ているんです」

 

世界における同性カップルの法的保障制度の状況
婚姻を認めている国
34カ国

婚姻とほぼ同等の
代替制度がある国
31カ国

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2023年2月現在、34の国(一部の州において同性婚ができ、それらの州で成立した同性婚がすべての州で認められているメキシコ含む)で同性婚が可能となっている。G7で法制化がされていないのは日本だけで、さらに法的性別変更に関する要件も日本にだけ存在、LGBTQ+の権利保障に後れを取っている。
(右・出典:「性的指向に関する世界地図2022(日本語表記)」/認定NPO法人 虹色ダイバーシティ 左・「fair」代表・松岡宗嗣さん作成)

台湾

1990年代に入り、民主化が進んだ台湾。LGBTQ+の人権運動の高まりを受け、2017年5月、司法院大法官会議が同性カップルに婚姻の権利が認められないのは違憲であるとの解釈を示し、2年以内の法改正を命じた。しかし同性婚賛成派が既存の民法の改正を望む一方、反対派は民法の婚姻は男女に限定して、別の法律で規定すべきと主張。2018年11月、国民投票の結果、民法改正が反対多数に。特別法が作られることで、2019年5月24日、同性婚が認められた。

呂欣潔プロフィール画像
呂欣潔

ろ きんけつ●英名はジェニファー・ルー。アウトライト・インターナショナル アジアプログラム担当ディレクター。過去には彩虹平權大平台のエグゼクティブディレクターを務める。

呂欣潔

反対派の懸念は覆された。幸せな家族が増えただけだった

2019年にアジアで初めて同性婚が法制化された台湾では、今年、同性婚カップルが1万組を突破した。「以前は台湾でも過半数の人が同性婚に否定的で、『伝統的な家族観が変わる』と反対していましたが、4年たって、反対派が懸念していたようなことは何も起きていません」と話すのは、台湾の同性婚法制化で中心的な役割を担った活動家の呂欣潔さん。

「たとえば『同性婚を認めたら、ゲイやレズビアンが増えてしまう』という意見などがありましたが、そのようなデータの変化はみられませんでした。また、反対派が流したCMに『この法案が通ったら、父親、母親という言葉が使われなくなって、〝親1"〝親2〟という言葉になってしまう』というものがありましたが、もちろん今でも父親、母親という言葉は使われています。確かにいくつか新しい形の家族は生まれましたが、それは単にあらゆる人が法によって守られるようになった、あらゆる人が愛し合う家族を持てるようになったということで、幸せなストーリーが増えたにすぎません」

とりわけ、LGBTQ+の人々の存在に、人々が「慣れた」ことが、社会に大きな変化をもたらしているという。

「たとえば、以前は同性カップルがタクシーに乗ると、運転手さんから奇異の目で見られることが多かったけれど、今では特別な存在として見られなくなって、フレンドリーに話しかけてくれるようになったという話を聞きます。そうやってLGBTQ+の存在を社会が受け入れたことで、これまで人に見られることをとても恐れていた同性カップルも公共の場で堂々と手をつなげるようになったし、最近は、田舎でもそういう風景を見ることができるようになりました。この社会の変化には、とても感銘を受けました」

もちろん同性婚の実現はけっして簡単なことではなく、ここまで来るのには、たくさんの壁があった。

「台湾は日本と同様、保守的な部分が多く残っています。『伝統的な家族観が変わってしまうから同性婚を認めない』という彼らに対して、私たちは、『同性婚を認めることで、伝統的な家族になる機会を彼らにも広げるんだ』というストーリーを展開しました。法制化のあとも結婚した同性カップルが、家族をつくって、いかに幸せにしているかという姿を伝えて、LGBTQ+のことをよく知らない人にも理解してもらえるように努めました」

また「若者が積極的に動いてくれたことが、この驚くベき改革が達成できた理由のひとつ」と呂さん。

「5万人規模の集会を開くと、半分はLGBTQ+ではない若者が参加してくれました。彼らは情報をシェアしたり、友人や家族に呼びかけたり、できることは何でもやってくれました。昔は台湾の若者も政治には無関心でした。でも、2014年に『ひまわり学生運動』というムーブメントがあって、このときの成功体験から、若者は社会活動をすれば、世の中を変えられるんだという希望をみんな持っている。それが同性婚の実現にもつながりました」

とはいえ、「異性婚と同性婚の間には、まだ大きな差がある」と言う。

「ひとつは国籍の問題です。当初、パートナーが外国人の場合、外国人パートナーの母国が同性婚を認めている国でなければ、台湾では同性婚ができませんでした。2023年、その規制がなくなり、日本人と台湾人の同性婚も可能になりましたが、例外として香港とマカオを除く中国の人々は排除されています。国際私法が違うからという理由ですが、さらなる法改正が必要です。

もうひとつ、大きな差は子どもの問題です。現在の法律では、異性婚の夫婦であれば、血縁関係がなくても養子を受け入れることができるのに、同性カップルが養子を受け入れる場合、どちらかの実子でなければ原則、法的に認められません。これは差別です。また、不妊に対する生殖補助医療も同性婚の夫婦は受けられないのが現状です。真の婚姻の平等に向けて、今後も活動を続けていきたいと思っています」

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実は同性婚が法的に認められる前の2018年は現在の日本よりも反対派が多かった台湾。現在は賛成派が23.5ポイント上昇し、世論の過半数が同性婚の権利を妥当なものだと考えている。
(右・台湾行政院により毎年発表されている「相同性別二人結婚、離婚對數按性別及縣市分」をもとにグラフを作成 左・同院による「性別平等觀念電話民意調查」をもとにグラフを作成)

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