反対派の懸念は覆された。幸せな家族が増えただけだった
2019年にアジアで初めて同性婚が法制化された台湾では、今年、同性婚カップルが1万組を突破した。「以前は台湾でも過半数の人が同性婚に否定的で、『伝統的な家族観が変わる』と反対していましたが、4年たって、反対派が懸念していたようなことは何も起きていません」と話すのは、台湾の同性婚法制化で中心的な役割を担った活動家の呂欣潔さん。
「たとえば『同性婚を認めたら、ゲイやレズビアンが増えてしまう』という意見などがありましたが、そのようなデータの変化はみられませんでした。また、反対派が流したCMに『この法案が通ったら、父親、母親という言葉が使われなくなって、〝親1"〝親2〟という言葉になってしまう』というものがありましたが、もちろん今でも父親、母親という言葉は使われています。確かにいくつか新しい形の家族は生まれましたが、それは単にあらゆる人が法によって守られるようになった、あらゆる人が愛し合う家族を持てるようになったということで、幸せなストーリーが増えたにすぎません」
とりわけ、LGBTQ+の人々の存在に、人々が「慣れた」ことが、社会に大きな変化をもたらしているという。
「たとえば、以前は同性カップルがタクシーに乗ると、運転手さんから奇異の目で見られることが多かったけれど、今では特別な存在として見られなくなって、フレンドリーに話しかけてくれるようになったという話を聞きます。そうやってLGBTQ+の存在を社会が受け入れたことで、これまで人に見られることをとても恐れていた同性カップルも公共の場で堂々と手をつなげるようになったし、最近は、田舎でもそういう風景を見ることができるようになりました。この社会の変化には、とても感銘を受けました」
もちろん同性婚の実現はけっして簡単なことではなく、ここまで来るのには、たくさんの壁があった。
「台湾は日本と同様、保守的な部分が多く残っています。『伝統的な家族観が変わってしまうから同性婚を認めない』という彼らに対して、私たちは、『同性婚を認めることで、伝統的な家族になる機会を彼らにも広げるんだ』というストーリーを展開しました。法制化のあとも結婚した同性カップルが、家族をつくって、いかに幸せにしているかという姿を伝えて、LGBTQ+のことをよく知らない人にも理解してもらえるように努めました」
また「若者が積極的に動いてくれたことが、この驚くベき改革が達成できた理由のひとつ」と呂さん。
「5万人規模の集会を開くと、半分はLGBTQ+ではない若者が参加してくれました。彼らは情報をシェアしたり、友人や家族に呼びかけたり、できることは何でもやってくれました。昔は台湾の若者も政治には無関心でした。でも、2014年に『ひまわり学生運動』というムーブメントがあって、このときの成功体験から、若者は社会活動をすれば、世の中を変えられるんだという希望をみんな持っている。それが同性婚の実現にもつながりました」
とはいえ、「異性婚と同性婚の間には、まだ大きな差がある」と言う。
「ひとつは国籍の問題です。当初、パートナーが外国人の場合、外国人パートナーの母国が同性婚を認めている国でなければ、台湾では同性婚ができませんでした。2023年、その規制がなくなり、日本人と台湾人の同性婚も可能になりましたが、例外として香港とマカオを除く中国の人々は排除されています。国際私法が違うからという理由ですが、さらなる法改正が必要です。
もうひとつ、大きな差は子どもの問題です。現在の法律では、異性婚の夫婦であれば、血縁関係がなくても養子を受け入れることができるのに、同性カップルが養子を受け入れる場合、どちらかの実子でなければ原則、法的に認められません。これは差別です。また、不妊に対する生殖補助医療も同性婚の夫婦は受けられないのが現状です。真の婚姻の平等に向けて、今後も活動を続けていきたいと思っています」