広告プランナーとして活躍する本多 汀(なぎさ)さんと、アートディレクターの本多恵之さん。クリエイティブ業界に身を置くふたりが作り上げたのは、ゲストからリクエストが多かった新婦の故郷・京都を舞台にしたウェディング。ノスタルジックな空間でゲストと“新しいコミュニティ”の誕生を祝った、ふたりらしい結婚式のスタイルに密着。
profile:本多 汀さん(@ygsa93)
広告プランナー。アートディレクター本多恵之さんと約1年半の交際を経て、2021年春に結婚。ウェディングプロデュース「ポレナサファリ」のプロデュースのもと、2022年10月に京都「Gospel(ゴスペル)」にて、友人30名を招待したウェディングパーティを開催。同日に汀さんの母校にて挙式、一軒家カフェ「Foodies Cafe nifty(フーディーズカフェ ニフティ)」にて親族10名・友人10名を招いたパーティを開催した。※フーディーズカフェ ニフティは現在休業中
ゲスト全員がひとつの家族になる祝福の一日
同じ広告代理店に勤めていたことが縁で出会ったというふたり。結婚を決めたのは交際をはじめて約1年、同棲をしようと家探しをしたことがきっかけだったそう。
汀さん:「よさそうな物件を見つけたので、ふたりで内見に出かけたんです。その帰り道、ふらりと立ち寄った焼き鳥屋さんで、突然彼からのプロポーズ! 唐突すぎて何の話かわからなかったくらいでした(笑)」。
その後2021年に入籍し、さらに約1年後の開催となったウェディングパーティに選んだ場所は、汀さんの出身地である京都。コンセプトは、親族も友人もひっくるめた“全員がひとつの家族になる”ウェディング。ひとつの屋根の下で新しい家族の誕生をお祝いできるような、温かなムードのパーティを目指した。
当日は友人たちとの喫茶店での披露宴、親族との挙式、そして最後に友人と親族が顔をあわせる披露宴という、一般的な結婚式の流れとは異なる“三部構成”でプログラム。
「友人披露宴の後に二次会という形で、両家の披露宴に友人たちを招待しました。この流れだったからこそ、友人と親族がゆっくりと会話をする時間が生まれたのかもしれません」。
第三部となるパーティでは汀さんの姉夫婦が料理を振る舞うなど、家族総出でゲストをおもてなし。ふたりのホームパーティに招いたようなリラックスムードのなか、ゲストと幸せな時間を過ごした。
穏やかな時間をいとおしむ喫茶店でのウェディング
ふたりの一日は、気心の知れた友人と同僚たちを集めたパーティからスタート。汀さん自身が交渉を重ねて貸切が実現したという会場は、哲学の道からほど近くにあり、蔦に覆われたレトロな喫茶店「ゴスペル」。実はここは汀さんの出身高校から徒歩圏内に位置し、学生の頃から通っていたという大切な思い出が残るお店だそう。
「ゴスペルを設計した建築家のヴォーリスがもともと好きでしたが、店内の懐かしさを感じる空気感やレコードの音色、そして居心地のよさが大好きで。京都で結婚式をすると決まったとき、すぐにゴスペルの空間が脳裏に浮かんで、ご相談しました」。
ウェディングフードは、おいしさはもちろん見た目にもスタイリッシュなフレンチのフルコースを用意。奈良県生駒市でケータリングサービスを提供する「MAHO-ROBA forest」が担当し、旬の茸など、秋の味覚を味わうメニューがテーブルに並んだ。
普段からクラシックを好んで聴くというふたりは、BGMにもこだわりが。会場のイメージに合うジャズやポップなクラシック曲、80年代の邦楽シティポップをプレイリストで用意し、パーティはさらにノスタルジックなムードに。
「会場には幻の名器といわれ、世界に約1000台存在するというヴィンテージスピーカーの『パラゴン』が! 音に重みと湿度が加わって、しっとりとした余韻を感じました」。
ラフで整いすぎていないウェディングケーキは「完璧ではない、だからこそ愛しい」そんな新米夫婦のふたりを表現したもの。ゲストの前でふたりが薔薇を挿して完成させる演出で、会場のハッピームードは最高潮に!
アーティスティックな雰囲気があふれ出るフラワーディスプレイは、会場のアンティーク家具や木造の建物に優しくなじむ、ホワイトとグリーンをベースにオーダー。会場の窓から差し込む自然光に映え、外壁を覆うアイビーのグリーンともリンクさせた造形的な花がパーティに華やぎを加えた。
パーティの中盤には、恵之さんが兄と妹の3人でピアノ三重奏を披露するワンシーンも。家族全員オーケストラの所属経験があるという音楽一家で育った恵之さん。新婦へのプレゼントとして曲目に選んだのは、恵之さんの父が好きだという「アメージング・グレース」のアレンジ。木造の建物に反響した柔らかな音色が、優しく会場を包み込んだ。
ウェルカムボードやペーパーアイテムなど、ウェディングにまつわるデザインを全て手がけた恵之さん。シンボルとなったロゴは汀さんの旧姓「吉田」と、恵之さんの姓「本多」を組み合わせたもの。
「苗字が本多へと変わることに少し寂しさを覚えたこともあり、その気持ちを拭うかのようにふたつの苗字を重ねました。これから私たちらしい家族を築いていく気持ちを表しています」。招待状は紙から選び、トレーシングペーパーで封筒を制作。一通ずつ赤い糸でミシン縫いをしたというこだわりも光る。
「招待状が届いたゲストからは、赤い糸で封をされていたら開けづらい…という声も聞こえてきました(笑)」。
ノスタルジックな世界に浸るドレスルック
汀さんがこの日のために用意したドレスは、スペイン発のドレス「OTADUY(オタディー)」の、シンプルなシルエットと繊細なレースが印象的なロングスリーブドレス。
「ミニマムな会場内での移動を想像し、ボリュームレスなドレスを探していました。首元にリズミカルなリボンを取り入れて、華やかさをプラスしています」。
手元のブーケは会場のアンティークなムードにも合い、秋らしさも感じられるダスティピンクをキーカラーに。テラコッタ色のファレノプシスをメインに、セルリア、アマランサスなどオリエンタルを想起させる花を合わせて、個性的なウェディングスタイルを完成させた。
思い出の母校で叶えた感動のセレモニー
ゴスペルでのパーティの後にふたりが訪れたのは、汀さんが卒業したキリスト教系の高校。今回、学校側の特別な厚意により大聖堂でのセレモニーが実現。さらに牧師をつとめたのは、汀さんの学生時代の校長先生だった。
「学校側と牧師先生のお話になったときに『せっかくだったら、当時の校長にお願いしてみようか』とご提案をいただいて。校長は、生徒の誕生日にバースデーカードを届けてくれたりと、卒業後もずっと記憶に残っていた人。今回再会するだけでなく、祈りを捧げていただき感激しました」。
家族たちに見守られる中、パイプオルガンの音色が響き渡る厳かなセレモニーとなった。
家族らしい食材を活用した究極のおもてなし
そして夜は、昼の部のパーティに参加したゲストの数名と、親族が顔を揃えての祝宴を開催! 会場は京都岩倉エリアに佇む一軒家カフェ「フーディーズカフェ ニフティ」。“一軒家”というキーワードが、『ひとつ屋根の下でお祝いをしたい』というふたりのイメージにぴったり重なり、会場を決定した。
料理を担当したのは汀さんの姉・紗千さんと、夫のフィンバーさん。アイルランド出身のフィンバーさんは日本料理や寿司屋などで修行し、現在は夫婦で「Kyoto Supper Club(キョウト サパークラブ」を運営するシェフ。季節の食材をメインに、香りや食感、見た目にこだわって構成されたスペシャルな料理にゲストは舌鼓を打った。
料理のテーマは「京都」。食べることが大好きという汀さんの家族たちが用意したのは、自宅の庭や山で自ら調達してきた、ユニークな素材をふんだんに使用したメニュー。
「祖母が50年前くらいに漬けた梅酒を、床下から発見したんです。真っ黒だけどなめたらすごくおいしくて。鴨のレバーテーストに梅酒をゼリーにして合わせたり、祖父の山で採れた京丹後の茸を使ったリゾットや、実家の庭でとれたザクロのサラダなどを用意してもらいました」。
パーティ中には汀さんの親友がエプロンをつけて手伝ってくれたり、友人たちが料理を運んでくれたりする姿が。
「お料理をサーブする中で、自然と友人と家族の間に会話が生まれていました。みんなで食事を囲んで笑い合う光景は、忘れられないほど幸せなものでした」。
ふたりらしい「家族の形」を体験したスペシャルな時間
ウェディングを振り返り「ゲストみんなが同じ時間を共有したことで、ひとつの“新しい家族”になれたと感じた」という汀さん。とことん手作りにこだわったために、前日の夜遅くまで両家が総出で協力。パーティの終了後にはゲストが一緒に片付けをするなど、親族同士はもちろん親族と友人との関係が深まったのだとか。
「今でも友人たちが『京都のウェディングが楽しかった』と話題にしてくれるんです。彼の友人は式後、京都で私の家族と姉夫婦の料理をシェアしていたりするほど! 私たちにとって家族といえる人たちが交流する、そんなきっかけになったことが何よりもうれしいです」。
結婚式を通して新しい絆が生まれた京都でのウェディング。ふたりもゲストにとっても一生忘れることのない、思い出深い2日間となった。