グルマンノートの「グルマン」ってどういう意味?
今、フレグランス界では“甘重”な香りが流行中だという。そのブームの牽引役がグルマンノートだ。砂糖菓子やキャラメルといった甘いスイーツを思わせる香りは“アディクト”性が高く、沼る人が多いのも納得。圧倒的な知識と膨大な嗅覚のリファレンスをもつ、フレグランスアドバイザーのMAHOさんにグルマンな香りの今を聞いた。
グルマンノートって一体、どんな香り?
タイラ フレグランスが盛り上がっている今、甘くて重たい香りが流行っていると聞きました。
MAHO 疲れていると、甘いものが食べたくなりますよね。それだけメンタル的に癒されたいと思っている人が多いのかもしれません。
タイラ なるほど。グルマンノートというと砂糖菓子やキャラメル、プラリネのようなスイーツを思わせる香りのことを指すんでしょうか?
MAHO そもそも、グルマンノートの「グルマン」とは、「グルメな」つまり、「美味しそうな」という意味。SPURでも過去に「グルマンノート トレンドの系譜」という企画で話しましたが、グルマンノートというジャンルが確立されたのは1992年の【ティエリー ミュグレー】のエンジェルがきっかけ。
キャラメリゼしたような綿菓子の甘さと、ちょっと土っぽいパチョリの組み合わせが、当時の調香としてはとにかく斬新で。強烈な甘さはあるけれど、大人っぽさもあり、洗練された印象のフレグランスでした。賛否は分かれたのですが、エポックメイキングな香りではありましたね。これをきっかけに、スイーツやコンフィチュールを思わせる香りを、グルマンノートと呼ぶようになりました。
タイラ 甘重フレグランス流行りの今なら、エンジェルの人気も再燃するかもしれないですね!?
MAHO かもしれませんね。王道のお菓子みたいな香りのロングセラーを挙げるとすれば、【フエギア】の「キロンボ」。南米で食べられるミルキーな砂糖菓子をイメージした香りです。
タイラ キロンボ、好きです。これ、キャラメル好きにはたまりません~!
ミルキーな砂糖菓子のグルマンノート
MAHO フエギアってウッディなものやシャープなものが多い印象もありますが、「こんなに可愛い甘い香りもあるのか」というギャップも人気の秘密。南米の人にとっては子供のころに食べた甘いお菓子の懐かしさがあるし、私たちも「南米のお菓子の香りってどんなもの?」と興味をそそられますよね。
タイラ 南米のお菓子? クセがあるのかと思いきや、もう単純に美味しそう♡
MAHO 子供心に戻れるような安心感のある香りですよね。もうひとつの王道が、【ル クヴォン メゾン ド パルファム】の「イラベラ」。10月に発売されたこちらは、ブラジル サンパウロの沖合に浮かぶ島をイメージしたグルマンアンバーの香りです。
タイラ ブラジルつながり! バニラやアーモンドの甘さもあるけど、すっきり感もあるような……。
MAHO スパイスやバニラの香りを放つジャングルの花々がイメージなので、森林のグリーン感をゼラニウムで表現していますしね。キロンボが童心に返れるお菓子だとしたら、こちらはぐっと大人っぽい。
タイラ 調香師は私の大好きなジャン・クロード=エレナ! やっぱりエレガントだわ~。
MAHO ル クヴォンはヴィーガン処方なので、グルマンもヘルシーという印象。甘い香りだけど、太らなさそうな……(笑)。
ヴィーガン処方で作ったグルマン香水
MAHO ヘルシーつながりでいうと【モルトンブラウン】の「デリシャス ルバーブ&ローズ」もあります。ルバーブとローズの王道感ある組合せにピンクペッパーやバニラを加えた、甘く爽やかなグルマンノート。トマトをはじめ、「ベジタブル×グルマン」な香調も今、流行っていますよ。食べ物の香りはやはり親しみやすさがありますから、入りやすいのだと思います。
タイラ ルバーブは生だとグリーンでシャキシャキと野菜っぽい一方で、熱と砂糖を加えるとおいしいジャムになりますよね。ローズとルバーブも間違いない、鉄板の組み合わせ!
ルバーブによるベジタブルグルマン
グルマンノートでも、“インテンス”が流行中!
MAHO 最近では韓国スイーツしかり、生クリームたっぷりで、そこにチョコレートソースやカラメルをかけて甘さ増し増しなものが好まれていますよね。香りもどんどんインテンスなものが増えているのが最近の傾向です。
タイラ みんな疲れているのかな? 甘いもので自分を労ってあげたいのね。
MAHO メゾン クリスチャン ディオールの新ライン、【エスプリ ドゥ パルファン】の中の「ルージュ トラファルガー」が、まさにこのインテンスな甘重フレグランスの代表。2種のローズにキャンディアップルが溶け合う、甘〜いスイーツのような香りなんです。
タイラ 本当だ。果実がごろっと入ったコンフィチュールのような、フルーツとシュガーを煮詰めた時の、とろーりとした甘さを感じます。すっごく高級なレストランで出されるデザートみたい。贅沢な気持ちにどっぷり浸れる。
MAHO 知っているつもりの既存の香りもクルジャンの手にかかると、ぐんっとリッチな印象になりますね。「プワゾン」のような80年代のグラマラスな香りが好きだった大人の女性、今ならこちらがいいかも。遊び心を感じるこうしたキッチュなものこそ、最高に贅沢に仕上げるというのが大事。それでこそ大人の女性にふさわしい香りになるのですから。
タイラ うんうん。これはインデペンデントな大人の女性にこそ似合う甘さ。
濃密な甘さのグルマンノート
MAHO 同じレッドフルーツの甘さ凝縮系をもう一つ紹介しますと、【フリーシェイプ ミラノ】というイタリアのブランドから出ている「エデン」。
タイラ わー、甘い香りが漂ってきました! 花とフルーツとバニラの芳醇な甘さが華やかに広がりますね。
MAHO これも香料の濃度が高い「エキストレド パルファム」でして、香りの輪郭がくっきりと描かれています。楽園というだけあって、こちらは清らかな白のイメージが浮かびます。
清らかさも香る、濃厚なグルマン
ストレス社会と言われて久しい、現代の生活。スイートなグルマンノートに惹かれる人が多いのは、甘いお菓子を口いっぱいに頬張っていた幼い頃の幸せな時間を呼び覚まし、不安な気持ちをひと時忘れさせてくれるからかも。まるで精神安定剤のように心安らぐグルマンノートをどうぞ召し上がれ!
日本フレグランス協会常任講師。香水のイベントやセミナーのほか、国内外・新旧合わせて500種以上の香水と天然・合成香料をそろえるサロン、プライベートトワレ主宰。フレグランスの経験値や嗜好を対話から探り、その人に合ったフレグランスを紹介する個人カウンセリング「プライベートトワレ (private-toilette.com)」も大人気。
取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に見せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。