“装飾男子”、ここに見参!#深夜のこっそり話 #1241

我ら、装飾男子! 藪から棒に失礼しました。これは、先のパリ メンズファッションウィークの取材をする中で、ふと頭によぎったフレーズです。長らくメンズファッションシーンを独占してきたストリートファッションから一転、エレガントなスタイルが注目を集めた来シーズン2020-21年秋冬のメンズコレクション。オートクチュールに着想を得た、キム・ジョーンズによるディオール。実験的なスペースエイジスタイルを蘇らせたラフ・シモンズ。エキセントリックを地でいくパロモ・スペイン。モードの復権と言わんばかりに華やかさを極めたクリエイションは、男子ならずともインスピレーションを掻き立てられるはずです。

時に、冒頭のフレーズに見覚えがあるという人は、かなりのモード通、というかオタクです。実はこの見出し、惜しまれながら2012年に休刊した伝説のメンズモード誌、『ヴォーグ オム ジャパン』の2009-10年秋冬号で使われていたもの。言うまでもなく、草食男子を元ネタにした造語である装飾男子。当時影響力を持っていたファッションキッズたちの出で立ち—スタッズのついたレザージャケット、スカートやハイヒールといったジェンダーレスなスタイル—を形容するのに、これ以上相応しい表現があるだろうかと感動したことを覚えています。

かくいう私も、学生時代は装飾男子を自称していました。大学に続く坂道を、15センチのプラットフォームシューズで登るのがどれだけ大変だったか。振り返ってみると、毎朝フルメイクを施すのに1時間以上かける情熱、もとい執念には、驚きを通り越して呆れてしまいます。言葉を変えると、当時の自分にとってファッションは生きがいであり、ある種周囲を威嚇するの鎧のようなものだったのです。

さて、そこから10年という月日が経ちました。令和の装飾男子に目を向けてみましょう。メンズビューティーのトレンドに後押しされ、最近ではファンデーションを塗っている男性は珍しいものではなくなりました。この連載の第1回で書いたように、クロスドレッサー (女装) ではなく、あくまでファッションの一環としてレッドリップを選ぶ人も、少数派ながら見かけます。ハイヒール、スカート、はたまたドレスまで、ウィメンズの洋服をスタイリングに取り入れることも、今やタブーではありません。

男性はこうあるべき、というジェンダーコードにとらわれず、自由にファッションを楽しむ姿は、一見平成の “それ” とシンクロします。しかし彼らの佇まいを見ていると、昔の自分とは何かが決定的に違う。感覚的にいえば、見た目は装飾男子でも、中身は草食男子のよう。たとえスパイクのついたバイカーブーツを履いていても、トゲトゲしい威圧感を感じないのです。

考えてもみれば、男性らしさと女性らしさという二元論がまかり通っていた時代のファッションが単純過ぎたたのかもしれません。そもそもデジタルカルチャーと共に育ってきた世代にとって、人と違う個性を持っていることは、そもそもハンディキャップではなく、アドバンテージなのでしょう。そして人と違う個性を持っている人の周りには、実社会の友人であれ、インスタグラムのフォロワーであれ、それを支持してくれるファンがいる。これまでカウンターカルチャーだった装飾男子が、ついにメインストリームへと生まれ変わったのです。

さて、この波に乗らざるは平成の装飾男子の名が廃る。ということで、まず手に入れたのがパールネックレス。話題の MIKIMOTO とコム デ ギャルソンのコラボレーションです。パリの展示会で見て以来、発売を心待ちにしていたこのコレクション。アコヤパールのシングルストランド (一連) ネックレスは、シルバーのチェーンと組み合わせることでデザイン性のみならず、長さを自在に変えられるという機能性まで叶えた逸品です。シンプルながら、その効果はてきめん。ベーシックなTシャツに合わせるだけで、ぐっとエレガントに、それでいてモダンにアップデートしてくれる、装飾男子の強い味方です。

そうだ、久々にハイヒールブーツを引っ張り出してみようかな。ロエベの秋冬で発表された、メンズ向けのドレスも早く見てみたいな。久々に到来した、自分の中のファッション熱に浮かされて、今夜も一人ファッションショーを繰り広げます。

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