音大生からホームレスまで経験したリゾが生み出す、ポジティブミュージック

「ポップスターの教科書」。そう呼ばれてるのが、明るさをふりまき、歌もラップもフルートもお手のものなリゾだ。ビッグなボディを誇る彼女は、女性たちを力づけるヒット曲を連発し、多様な体型を祝福するボディポジティブのアイコンとなった。この一年でグラミー賞とエミー賞に輝き、7月にはフジロック・フェスティバルのヘッドライナーとしての来日も決定している。

音大生から車上生活、プリンスとの出会い

音大生からホームレスまで経験したリゾが生の画像_1

明るさで右に出る者はいない状態だが、本人の自認としては「ダサいオタク」だという。1988年ミシガン州にメリッサ・ヴィヴィアン・ジェファーソンとして生まれ、テキサスで育った彼女は、大柄な体型だったため学校でバカにされつづけ、纏足を真似るように足をテープで縛るほど周囲の視線を気にしていたという。そんななか、意地悪な同級生を感嘆させたのが、友達と組んだラップグループの曲だった。

中高では「ダサい楽器」とされるフルートに熱中し、大学への音楽奨学金を獲得(本人いわく、クールな子が選ぶのはクラリネットとのこと)。パリ音楽院へ留学してオーケストラに入団する野望を持っていたが、マーチングバンドやラップ活動ふくめてハードスケジュールすぎたこと、父親が亡くなったショックで、20歳で大学を中退してしまう。

憔悴したリゾは蒸発するように車上生活を送ることとなったが、突如「歌手になりたい」気持ちが生まれ、音楽の都ミネアポリスへと移る。そこで名を馳せると、伝説的スターのプリンスから声がかかり、彼と3rdEyeGirlの楽曲「Boytrouble」を共作することになった。

作風も確立した。というのも「自分の好きなことろはなにか」と質問された際、性格面は挙げられたが、身体について聞かれると、答えられなくて泣いてしまったのだという。この経験によって自分が好きな部位は肌だと気づき、2015年、初のボディポジティブアンセム「My Skin」が生まれた。

キャリアを上昇させた翌年、恩人プリンスの訃報を知ったリゾは決意したという。「私はポジティブな音楽に専念する」「愛とポジティビティを広める、それがプリンスが真に求めていたことだから」。

こうして、リゾは、明るいポップスターになった。2019年、失恋の愚痴をラップしながら「自分は100%いい女」と強気にでて自分と結婚してみせる「Truth Hurts」によってチャート1位を達成。その後、ビッグガールを集めたTV番組『リゾのビッグスター発掘』を成功させ、補正下着ブランド「Yitty」も発足するなど、マルチなボディポジティブ街道を歩んでいる。

「ダサいオタク」のポジティブソング

「人からのダメだしには慣れてる だから私はこんな感じで動くし だから私は自分が大好きなの」「私はいつも同じことを言ってるよね あなたはスペシャルだよ」(リゾ「Special」)

 リゾの曲は「スーパーマーケットでかかってる音楽」とも言われる。イケてる最新トレンドではないかわりに人を選ばぬ大衆的ヒット、というニュアンスだ。本人もこのイメージに意識的で、クラブを若者を盛りあげるクールなテイストとは合わない「音楽業界のダサい奴」と名乗ったこともある。「でも、それが私の使命。人をいい気分にさせる音楽をつくる。罵倒もクールなこともできないけど、人々の助けになりたい。一回オタクになると、なにが起ころうとずっとオタクなんだよ、マジで。長いあいだオタクだったから卒業も払拭もできない」。

 実際、リゾの曲は、むやみに自信満々で明るいわけでもない。ミュージックビデオでスーパーヒーローとなった「Special」でも、最初に「叩かれ慣れている」境遇が語られるのだ。苦労を重ねた遅咲きの彼女の人生観は「脆さを明かす機会も、バリアーをとくチャンスも与えられないのが現実」というシビアなもの。作品にしても「自分が価値ある存在」だと忘れないようにする「鎧」、ある種の生存術の面がある。「気分が落ちてる時に、現実的に浮きあがろうとすること。それをロマンチックに、超詩的な表現にして、自分に言い聞かせる…トンネルの終わりには光があるんだって」。

祝祭のコンサート

リゾのコンサートは「宗教的体験のよう」とも評判だ。これは、彼女の音楽の魔法の根源かもしれない。幼少期、信仰的に良しとされなかったヒット曲と縁がなかったリゾは、もっぱら教会のゴスペルを浴びていた。

「教会では、みんな走り回って大声をあげてた。あぁいう理屈抜きの身体的な反応は、音楽が引き起こしてる」「ゴスペルのベースラインは、なにもイエス・キリストについて語ってるわけじゃない。鳴ってるだけ。つまり、ただの器。だから、私は音楽を器として使って、ポジティブな場所にみんなを連れていきたい」

 リゾの音楽とは、祝祭なのだ。つらい現実を認めながら、祈りのようなポジティビティで、天国のような場所につれていってくれる。当然ながら、それが宗派を選ばないことは、耳にした瞬間わかるだろう。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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