父ジョニー・デップと同じ俳優の道を選んだリリー=ローズ・デップが求める「普通の人生」

世界でもっとも有名で、もっとも美しいとされるカップルの子ども──そんな想像困難な人生を歩んできたのがリリー=ローズ・デップだ。1999年パリに生まれた彼女の両親は、ハリウッドスターのジョニー・デップ、そしてフランスの人気歌手ヴァネッサ・パラディである。

 

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photo:Getty Images

米仏を行き来して育ったリリーは、24歳になった今「ときの人」になっている。アメリカの流行語となった「ネポベイビー(縁故主義の赤ちゃん)」の代表格とされているのだ。これは主に有名な親を持つ二世タレントを指す言葉で、生まれのおかげで実力にともなわぬ仕事をしている「親の七光り」的な蔑称に近い。

華麗なる二世キャリア

実際、リリーは世界随一の「ネポ」キャリアを歩んできた。もっとも有名な仕事はシャネルの広告塔。母親が同ブランドのミューズだった関係で、8歳ごろから当時のクリエイティブディレクター、カール・ラガーフェルドとの交友がはじまり、16歳になると最年少グローバルアンバサダーに指名された。

「七光り」イメージに拍車をかけているのは、有名なのに何をしている人なのかわかりづらい立ち位置だろう。モデルと思われていることが多いものの、シャネルと縁深いイットガールという感じで、数々のブランドのランウェイを歩いているわけではない。

実のところ、本人の自認は、父親と同じ俳優だ。幼なじみハーレイ・クイン・スミスの父ケヴィン監督による映画『Mr.タスク』(2014年)撮影現場で誘われて演技に初挑戦。これを気に入った監督によるハーレイとのバディ映画『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団』(2016年)で父ジョニーとも共演したことで、リリーの演技魂が目ざめた……華麗なる「ネポ」ストーリーではあるが、本気になった彼女は高校を中退し、ナタリー・ポートマンやキーラ・ナイトレイらと共演していった。アメリカで役者イメージが広まっていないのは、バイリンガルたる彼女が欧州映画界で経験を積んだためだろう。たとえばフランス語映画『パリの恋人たち』(2018年)ではセザール賞の有望女優賞にノミネートされている。

「普通の人生」に憧れる、媚びない主義

リリーが異色なのは、好感度をあげるようなアピールをしないことだ。「ネポベイビー」バッシングが加熱した際「意味がないとらえ方」だと反論して火に油を注いでおり、前述のセザール賞のような功績を盾にしたり、大衆の共感を呼ぶかたちで弱さや葛藤を明かしたりもしない。

華麗なる一族に生まれたリリーいわく、持ち得なかったものは「普通の人生」。生まれた瞬間から、ベビーカーに乗せられたり誕生日を迎えたりしただけでスクープされつづけてきた。当然、ずっと前から「自分の人生はすべて親のおかげなのではないか」といった不安に苛まれてきた。だからこそ、仕事だけに打ち込み、あとはプライベートを厳守し「普通の人」になりたい願望が年々強くなったのだという。結果、多くのセレブリティと異なり、世間受けのいい発言をしないスタンスをとっている。むしろ、大衆の期待をシニカルに突き放すのだ。「仕事をして作品を出すためにこの世界にいるのであって、自分を生贄にするためにいるわけじゃない」「赤の他人にプライベートを知られるくらいなら、退屈と思われたほうがいい。ずっとつまらない人間でいたい」 。

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photo:Getty Images

そんなリリーが、俳優として世界的脚光を浴びようとしている。アメリカのドラマ『THE IDOL/ジ・アイドル』(2023年)の主演に抜擢されたのだ。過激な性描写を売りにする本作で演じるのはポップスターのジョセリン。役づくりの参考にしたのは、フランスの伝説的俳優ジャンヌ・モローやブリジット・バルドーだという。彼女いわく、これらの人々は「他人のレベルに自分を下げることをせず」、自信に満ち溢れた「人のことを気にしないオーラ」を放つスターだった。同じく大衆に媚びる発言をしない主義のリリーにとって、運命のハマり役なのかもしれない。彼女は、アメリカのメディアで議論を呼んだヌードシーンも「フランス人だから平気」と言ってのけるフランス育ちだ。なにかと父親と関連づけられる状況について「男性の存在によって判断されてばかり」と苦言したこともあるリリーだが、表現者としての軌跡は、母親と重なるかもしれない。フランスのトップスターであるヴァネッサもまた、若きころからスキャンダラスな性表現を行ってきたアーティストだ。

リリー・ローズ・デップが「親の七光り」に過ぎないかどうかは、ときが解決してくれるだろう。本人が好感度イメージ構築につとめないなら尚のこと、将来的な評価は仕事成果、つまり出演作と演技で決まっていくのだから。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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