“ロシアの村上春樹” 、皮肉炸裂
『宇宙飛行士 オモン・ラー』
ヴィクトル・ペレーヴィン著 尾山慎二訳(群像社/1,500円)
一緒に月に行かないか、という友達の誘いをきっかけに、宇宙飛行士を目指す主人公のオモン。厳しい訓練の果てに与えられたミッションは、片道切符での月への飛行だった……。これはシリアスか、それとも茶番か。現代の宇宙開発事業を皮肉ったスペース・ファンタジーで、著者らしいヒネリがじわじわと効く。
SPUR2016年1月号掲載
幻想的で蠱惑的。溢れる若き才能
『タイガーズ・ワイフ』
テア・オブレヒト著 藤井光訳(新潮社/2,200円)
若き医師ナタリアに届いた、祖父の死去の報せ。子どもらにワクチンを打ちながら思い出すのは、祖父が話してくれた、「トラの嫁」と呼ばれた不思議な少女と、何度でも生き返る「不死身の男」の話だった……。セルビア系女性作家が、弱冠23歳で書いたファンタジー的で映像的な物語。戦争と継承という主題が、胸に迫る。
SPUR2016年1月号掲載
東欧作家の比類なき想像力に驚愕
『黄金時代』
ミハル・アイヴァス著 阿部賢一訳
(河出書房新社/2,700円)
ある南の島の紀行文のように始まる本書。複雑すぎる島の言語や、奇抜な料理法、王宮の様子が脱線的に面白おかしく書かれるが、後半は一転。島に伝わるたった一冊の書物の奇妙さが、説明される。成長する書物と呼びたいそれは、読む者によって改変もつけ足しも可能なのだ。東欧的メタフィクションの傑作。
SPUR2016年1月号掲載
春樹が惚れ込んだ、初邦訳作家
『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』
ダーグ・ソールスター著 村上春樹訳(中央公論新社/1,700円)
エリート官僚であった男が、ある日妻子を捨てて愛人の元へ。しかし人生の夕暮れを前に、14年つきあった彼女とも別れた男は、突拍子もない計画を練り始める。心理的・肉体的変化を繊細かつ皮肉っぽく描き、コンサバな心理小説に見せかけながら、途中から「はぁっ?」と驚きの展開に。春樹が重訳した。
SPUR2016年1月号掲載