試行錯誤して翻訳される海外小説は原作のクォリティを一段上げている
やなした きょうへい●1976年生まれ。28歳のときに校正・校閲を専門にする会社、鷗来堂を設立。2014年、神楽坂にカフェ、ギャラリーを併設した書店「かもめブックス」をオープンし、店主を務めている。
SPUR2016年1月号掲載
柳下さんがまずすすめてくれたのが『ジム・ボタンの機関車大旅行』。 「シンプルな冒険小説。夜中に読んでいると泣いてしまうくらい物語に入り込める。お子さんはもちろんですが、大人の女性にも好評です」
『ジム・ボタンの機関車大旅行』
ミヒャエル・エンデ著 上田真而子訳(岩波少年文庫/880円)
『はてしない物語』『モモ』でおなじみの作者の処女作。島国フクラム国に届けられた小包の中に入っていた赤ん坊、ジム・ボタンが主人公。成長したジムは親友の機関士ルーカスとともに機関車エマに乗って冒険の旅に出る。
SPUR2016年1月号掲載
次はジョン・エドワード・ウィリアムズという聞き慣れない作家の『ストーナー』という作品。 「ストーナーは主人公の名前。人は一生に一冊は本を書けると言いますが、この小説はまさにそれ。特別なドラマはないのに文章の力で読ませます」
『ストーナー』
ジョン・ウィリアムズ著 東江一紀訳(作品社/2,600円)
半世紀も前に刊行され、埋もれかけていた作品が仏語に訳されることで脚光を浴び、世界的なベストセラーに。一人の男性の人生を淡々と描いた長編小説だが、生きていくうえで誰もが経験する光と影とが繊細な文章で描かれている。
SPUR2016年1月号掲載
最後の一冊は『イリーガル・エイリアン』というSF小説だ。 「SFから始まるんですが、実は法廷ミステリなんです。変化球ですが、男女問わず楽しめると思います」
『イリーガル・エイリアン』
ロバート・J・ソウヤー著 内田昌之訳(ハヤカワ文庫/940円)
四光年の彼方からやってきた異星人、トソク族。彼らとの接触は順調に見えたが、居住区で地球人が惨殺されるという事件が起きる。犯人として逮捕されたトソク族の青年は、アメリカの法律にのっとり、陪審員裁判にかけられる。
SPUR2016年1月号掲載