いい本は、ルックスもいい

鬼才の小説は装丁もクール。コンプリートしたいコレクション

『LAヴァイス』ほか(「トマス・ピンチョン全小説」より)
トマス・ピンチョン著 栩木玲子、佐藤良明訳(新潮社/3,500円ほか)

素姓も経歴も顔写真も非公開の謎めいた作家、ピンチョン。熱狂的なファンを持つ、長いキャリアで書かれた主要な著書は、濃紺の装丁もかっこいい「トマス・ピンチョン全小説」で読める。P・T・アンダーソンによる映画『インヒアレント・ヴァイス』の原作『LAヴァイス』は、ドラッギーな私立探偵ドックが元カノの依頼でさまよう、70年代LAの雰囲気が最高。歴史・SF・恋愛・冒険など、小説ジャンルを超越する超ド級の作品たちを残らず読破したい。

SPUR2016年1月号掲載

ハイジの食べたチーズトーストって? 小説の料理を再現する

『ひと皿の小説案内 主人公たちが食べた50の食事』
ダイナ・フリード著 阿部公彦訳(マール社/1,850円)

小説に書かれた料理や菓子を、どんなかな?と想像してみた経験は誰しもあるはず。ダイナ・フリードのこの本では、実際に料理した美しい写真と、その小説からの引用・短い解説が、見開きで紹介される。『ボヴァリー夫人』のサヴォイ・ケーキ、『ドラゴン・タトゥーの女』のオープンサンド、『グレート・ギャツビー』の華やかなオードヴル……。見るだけでも楽しく、海外小説に興味がわいてくるビジュアル・ブックだ。翻訳版と原著の読み比べもおすすめ。

SPUR2016年1月号掲載

グラフィック・ノヴェルの旗手による、ビタースウィートな物語

『サマーブロンド』
エイドリアン・トミネ著 長澤あかね訳(国書刊行会/1,900円)

ヒーローが活躍するアメリカン・コミックスではなく、ごく普通の人々の心理をとらえたコミックの味わいは、翻訳小説を読むのととても近い。本書は、日系4 世のトミネが描く4つの短編を収録。スランプの作家が、学生時代の憧れの女性を訪ねる「別の顔をした僕」、好きになった女性をストーカー男が救おうとする表題作など、少し苦くて切なく、どこかおかしいストーリーが堪能できる。抑制的でクリーンな画を、大きめな判型の本書で楽しんで。

SPUR2016年1月号掲載

天才少年の頭の中をのぞいてみると……。イラスト満載の大型本

『T・S・スピヴェット君 傑作集』
ライフ・ラーセン著 佐々田雅子訳(早川書房/4,700円)

天才地図製作者である12歳のスピヴェット君は、スミソニアン博物館からの電話をきっかけに、アメリカを西から東へ横断する大冒険を始める。しかし脱線につぐ脱線で……。幅広い年齢層を興奮させる奇想天外な内容と、作者自身によるイラスト・図表がふんだんに組み込まれた驚きの造本で、世界的に話題となったデビュー作。ジャン=ピエール・ジュネが「天才スピヴェット」として映画化も。完璧に再現された翻訳版は、所有したくなる可愛さだ。

SPUR2016年1月号掲載

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