水野綾子さん / 「CIRCULATION LIFE」責任者

PROFILE
みずの あやこ●1985年静岡県熱海市生まれ。雑誌の編集やPR戦略などの経験を生かし、「多様な働き方」を後押しして地域企業と人材をマッチングするサイト「CIRCULATION LIFE」を運営する。また、お寺×働き方の新しい提案をする「TERA WORK」を立ち上げたばかり。

2拠点を行き来するから、
客観的でいられるんです

自分の可能性を拡張していったら、熱海と東京の2拠点にたどり着いた

 東京の出版社で編集者として働いていた水野綾子さんが、家族とともに地元・熱海に戻ってきたのは今から3年前のことだった。現在は元の会社を辞め、地元の企業と熱海で働きたい人をマッチングする「CIRCULATION LIFE」という事業を展開。将来的に実家の寺を継ぐことを目標にしつつ、東京での仕事も引き受けながら、複数の拠点を行き来する日々を送る。
「緊急事態宣言が出る前までは、週に1、2度は東京に通う生活でした。通勤時間は新幹線で片道約40分。集中して作業をする時間に当てていたため苦ではなかったです。私自身、ひとつのところにずっといると窮屈になってしまうタイプ。複数のコミュニティを行き来することで、客観性を保てている気がします」
 移住に至ったきっかけは、実家で住職を務める父親が体調を崩したことだったという。
「寺という場所は、形骸化している側面があるのも事実ですが、現代社会に寄り添いながら機能をアップデートできたら地域のハブになりえる。考え始めたらよりいっそう興味が湧いて、自分でやってみたいと思うようになりました。ただ私自身は大学進学を機に上京していたので、地域のことを知るための期間を設けたんです」
 思い立ってから3年ほどの準備期間を経て、住まいを熱海へと移す。初めは週5日東京に出勤し、徐々に熱海の比重を増やしていった。
「最初はほぼボランティアで、自分のこれまでの編集やPRの経験を地元に還元できないか試してきました。『いつかお寺を継ぎたい』と宣言して地域の人たちとの関わりを広げていきました。同時に『働き方』軸での熱海の可能性を感じ、発信していたら、2018年に熱海と島根県海士町、香川県三豊市の三都市で複業求人を募集するプロジェクトを引き受けることになりました。すると、『地方に人なんて集まらない』という通説を覆し、予想を上回る応募があった。人々の『地方で働く』ことや『複業』への興味関心の高まりを肌で感じました。それがきっかけでCIRCULATION LIFEを立ち上げたんです」

(上)地元・熱海の街づくりに関する取り組みにも主体的に参加している。「ATAMI2030会議」のときの様子。
(下)現在は寺の敷地内にある家をリノベーションして暮らす。「リモートワークだとどうしても雑談するシーンが減ってしまいますが、地域がそれを担えるかもしれませんね」と水野さん。

 

やりたいことをかなえるための手段を柔軟に考える

 CIRCULATION LIFEは、相談に来る企業や応募者も増え、サイトのアクセス数も日々上昇している。数年前からよく耳にするようになった“移住”や“複業”といったワードだが、流行にとどまらず「ひとつの手段として選択する人が増えた」と言う。
「多くは複業がゴールではなく、『自分の経験や知識で地元に貢献したい』と思っている人や自分の居場所を拡張することに興味のある人が、結果的に複業しているという印象です。今後はさらに、中央集権的な働き方がリフレッシュされる可能性を感じています。こういう働き方があるということを知ったあとに、自分が踏み出すか踏み出さないかですよね」
 現在いる場所から一歩踏み出すのには、確かに勇気がいる。水野さんにとって、そのハードルはなかったのだろうか。
「初めからすべてを変えようと思うとなかなか勇気がいりますよね。収益をすぐに安定させるのも難しい。私の場合は、東京の仕事と熱海での活動をグラデーションをつけて移行することでバランスをとってきました。小さいジャンプを繰り返して『動く』ということを常態化すれば、大きなジャンプへの気負いも減ります。私も気がつけば、いつの間にか熱海に流れ着いて事業を始めていたなぁという感じですよ」

海も近い恵まれた環境 。

ニュータイプな生き方の3カ条

 「動く」ことを常態化して、いつでも波に乗れるように
 微調整を重ねながら自分の居心地のよさを探る
 はやりに左右されずに、ブレない自分の軸を大切に

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