どう愛するか、そしてどう生きるかを学んだ作品を、文化に造詣の深い4名にインタビュー。そこで描かれる「愛のかたち」への思いを語ってもらった。
いまある社会システムや常識を考え直すきっかけに(KOM_I さん)
「自分は女だと決めつけるより、両方の性別を持っていると考えたほうが幅が広がると思う」
そう語るコムアイさんは、性別を問わずあらゆる人を虜にしてしまう、『目を閉じて抱いて』の花房さんに魅力を感じたという。「全人類を包み込むような、ユニバーサルな愛のかたちを体現している花房さんが、とにかくかっこいい。彼女のように、あらゆる人を理解できるようになりたいと思わせてくれます」
『イミテーション・ゲーム』では、主人公の同性愛者としての側面が大きくフォーカスされる。映画の舞台となる第二次世界大戦当時のイギリスでは、同性愛は違法とされていた。
「この数十年でこれだけ世界が進歩して、ジェンダーに対する認識が変わったということは、いまある常識や制度だって正しいと決めつけることはできないはず。たとえば同性婚。いまはまだ認められていない場所も多いですが、数年後に振り返ったとき、『昔はなんで同性婚ができなかったんだろうね』と思える世の中になっていてほしいですね」
(全5巻・角川文庫)
1994〜2000年にかけて発表された、内田春菊による漫画。夜の街で働く両性具有者の花房さんを巡る、男女の愛憎劇。
2014年公開。第二次世界大戦時のイギリスを舞台に、B・カンバーバッチ演じる天才数学者が、敵軍の暗号"エニグマ"に挑む。
KOM_I さん
コムアイ●1992年生まれ。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内のみならず世界各国のフェスに出演、ライブパフォーマンスを行う。音楽活動のほか、モデルや俳優、ナレーターなど、さまざまなジャンルで精力的に活動中。
異性愛の規範にとらわれず、ラベルを貼らずに愛を描く(Edo Oliver さん)
エドさんにとって共感できるカルチャー作品との最初の出合いは、4歳のときにカナダで見たTVアニメ「カードキャプターさくら」だ。
「あらゆる関係をラベリングせずに、すごくピュアに愛を描いた作品。たとえば桜の親友、知世は桜を熱愛していますが、桜はその気持ちに気づいていません。でも桜なりに、知世を大切に思っている。『愛があれば大丈夫』というメッセージが強く感じられ、私にとって本当に大切な、お守りのような作品です」
一方で『ブエノスアイレス』は、美しくも悲哀に満ちた男性同士のラブロマンスだ。
「主役のふたりがキッチンで抱き合って踊るシーンを、いまのパートナーと家で再現したことがあります。あまりにも幸せで号泣してしまいました。この映画のストーリーもそうですが、クィアの恋愛は、つき合って結婚し、子どもを産んで……という異性愛の枠組みにとらわれる必要がなく、明確なゴールも設定されません。だからこそ純粋に、美しく描けることもあるのだと証明した作品だと思います」
CLAMPの同名原作をもとに1998〜2000年にかけてNHKで放送されたアニメ。ひょんなことから「カードキャプター」となった小学4年生、木之本桜の奮闘を描く。
1997年製作の香港映画。ウォン・カーウァイ監督のもと、レスリー・チャンとトニー・レオンがせつない恋愛模様を演じる。第50回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞。
Edo Oliver さん
エド・オリバー●メキシコ生まれ、カナダ育ち。2015年に初来日し、現在はクリエイティブスタジオREING(リング)でさまざまなプロジェクトのディレクションを手がける。今年10月には「当たり前」を問う雑誌『IWAKAN』を創刊。
アイデンティティをめぐる葛藤に深く共感した2作品(Amity さん)
女の子として生まれ、いまはノンバイナリー(性自認が、一般的な男性・女性の枠組みにあてはまらないこと)を自認するアミティさん。しかし以前は葛藤した時期もあった。
「本当はフェミニンな服も好きなのに、周囲に女の子だと思われるのが嫌で、必死に男らしい格好をしていました。とてもつらい時期でしたが、LGBTの仲間と一緒のときは本当の自分でいられたんです。『ムーンライト』のシャロン少年にも、家族のように温かく受け入れてくれる人たちがいた。そこに共感しました」
『わたしはロランス』では、ずっと男性として生きてきたロランスが、30歳で初めてカミングアウトするシーンに心を揺さぶられた。
「私は11歳のときに自分は男だと親に告げたのですが、『いままでそんな兆候はなかった』と信じてもらえず、それが何よりも苦しかった。だからこの映画を観て、誰もが最初から自覚的なわけじゃないと安心できました。恋人のフレッドが、ひとりの人間としてロランスを愛しているのにも勇気をもらいました」
アカデミー作品賞を受賞し話題を呼んだ、2016年公開の映画。ジェンダーアイデンティティに悩む主人公シャロンの少年期から大人になるまでを、3人の俳優が熱演。
2012年製作の、グザヴィエ・ドラン監督の出世作。高校教師のロランスは、30歳の誕生日に女性として生きることを決意。彼女であるフレッドとの関係も変化していく。
Amity さん
アミティ●2001年、米・ワシントン生まれ。2019年に来日。現在は都内の大学に在籍しつつ、モデルやイラストレーターとして活動している。インスタグラム(@amitymiyabi)で見せるクールな私服スタイルにも注目。
鑑賞当時に衝撃を受けた 同性間の恋愛の描き方(王谷 晶 さん)
「ガール・ミーツ・ガール」な短編集『完璧じゃない、あたしたち』が話題を呼んだ王谷さんは、初めて観たときに衝撃を受けたという2作品をリコメンド。『情熱の嵐〜LAN YU〜』は、同性愛がタブーだった中国で撮影された。
「当時、ゲイのロマンスを描いたアジア映画は非常に珍しかった。製作には相当な覚悟がいったはずですが、ごまかすことなく真正面から男性同士の恋愛を描いている。誠実で、信頼できる映画だと感じました」
もうひとつの映画『Go!Go!チアーズ』は一転、キュートで明るいラブ・コメディだ。
「女の子同士の恋愛は、美しく悲劇的な物語として描かれがちでした。でも実際には、あらゆるレズビアンがシリアスに生きているわけもなく、私のようにぼんやりと日常を送っていたりする。当たり前のことですが、ナチュラルな姿で当事者を描いた作品が、それまであまりなかったんです。
『こういうふうにレズビアンを描いていいんだ』という共感が、いまの自分の作風につながっていると思いますね」
2001年公開の香港映画。1980年代末から10年間の、激動する中国・北京を舞台に、学生の藍宇(ラン・ユー)と青年実業家の陳捍東(チェン・ハントン)のロマンスを描く。
1999年製作のコメディ映画。チアリーディングに熱中する17歳のメーガンは、周囲から「レズビアン疑惑」をかけられて同性愛者の矯正施設へ。そこに運命の出会いが。
王谷 晶 さん
おうたに あきら●1981年、東京都生まれ。著書に、短編小説集『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)、エッセイ集『どうせカラダが目当てでしょ』、小説『ババヤガの夜』(ともに河出書房新社)など。映画とボーイズ・ラブの愛好家。