映像で愛を体感する

これから公開される、もしくは日本上陸が待ち望まれる映画やドラマをジャーナリストの佐藤久理子さんがピックアップ。愛の純粋さや障壁、自己認識の揺らぎを描く作品に注目を。

愛に理由などない。ただ狂熱があればいい

イギリスの作家エイダン・チェンバーズによる原作『おれの墓で踊れ』を、フランスを代表する監督、フランソワ・オゾンが脚色。自らの青春時代も重ねて描いた本作は、16歳と18歳の少年のひと夏の邂逅を描く。この年齢ならではの純粋で激しい思い、ときにコントロールがきかなくなるほどに誰かを愛おしく感じ、その人に見つめられていたいという気持ちが、痛いほどに表現されている。
まだ恋人もいないアレクシにとってその相手は、ある日突然彼の前に現れた、年上のダヴィッドだった。自信家で大人びて、危険な匂いのする彼と親しくなるうちに、アレクシはやがて友情以上の感情を抱いていく。果たしてそれは愛なのか否か、あるいは向こう見ずな性格のダヴィッドは内心彼のことをどのように思っているのか。それはアレクシ自身にもよくわからない。だが確かなのは、ダヴィッドと一緒にいる時間が幸福であり、彼に身を寄せているだけでほかのものは何も要らないと感じられる、そんな狂熱をもたらすかけがえのない相手だということ。
オートバイで疾走するふたりの姿は、ガス・ヴァン・サント監督の『マイ・プライベート・アイダホ』(’91)を彷彿とさせる。しかし本作のアレクシとダヴィッドはより軽やかに、自由に青春を駆け抜ける。80年代が舞台ではあるものの、オゾン監督が現代的な感性で彼らの姿を切り取った、きらきらとした輝きを放つ作品だ。

『ÉTÉ 85』2021年公開予定

ノルマンディの港町に家族と暮らすアレクシは、ヨットで遭難しかけたところを地元の青年ダヴィッドに救助される。人懐っこい彼に誘われるまま時を過ごすうちに、アレクシはダヴィッドに惹かれ、やがてふたりは一夜をともにする。だが父親を亡くしたダヴィッドには、どこか破滅的な面があった。

まなざしの対話を通して導かれる、立場を超えた自由な愛の交歓

すべては無言のうちに、映像に写し撮られていく。強い意志を感じさせるまなざし、白い肌、巻き毛のかかったうなじ、厚みのある唇。画家はモデルを凝視し、その細部を脳裏に焼きつけていくに従って、それは官能に変わっていく。
18世紀のフランスで、結婚を控えた貴族の娘、エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を依頼された女流画家(ノエミ・メルラン)は、そのまなざしを通して恋に落ちる。エロイーズもまた、見つめられることにより喜びを感じ、その視線による交歓はやがて激しい愛の炎を灯す。
フランスの女性監督セリーヌ・シアマが描く物語は、これまであまり語られることのなかったこの時代の女流画家という存在と女性同士の恋愛を、驚くほど繊細に、叙情的に表現する。
画家を演じたメルランは、本作の魅力についてこう要約する。「シアマ監督の感性が、この時代の女性たちに対する新しいビジョンをもたらしています。彼女たちは男性のいない、いわばセーフティ・ゾーンで、自分たちの感受性に従って、自身を解放することができる。どちらかが優位に立つのではなく、お互いが平等な立場で愛し合うという点も、本作の特徴だと思います」
女性同士が対等に愛し合うことを描いた本作は、私たちに自由な愛のかたちを見せてくれる。

『燃ゆる女の肖像』12月4日公開予定

結婚前の貴族の娘の肖像画を描くため、フランス・ブルターニュ地方の孤島を若き女流画家が訪れる。娘の細部を観察するうちに徐々に官能に目覚める画家と、彼女の視線に自身の閉ざした心を開いていく娘。ふたりは惹かれ合い、やがて情熱をぶつけ合わずにはいられなくなる。

社会や家族の偏見を乗り越え愛を貫く女たちの、毅然とした美しさ

これまであまり描かれることのなかった高齢の女性のカップルを主人公とした物語。生涯独身を通してきたニナと、夫を亡くし、今は子どもたちと離れて暮らすマドレーヌ。表向きには長年の旧友として、同じアパートに住んでいた。だがその実、彼女たちは深く愛し合う仲だった。世間や家族の目を逃れつつ、ひっそりと互いのアパートを行き来する彼女たちのささやかな幸せはしかし、マドレーヌが病に倒れたことで脆くも崩れ去る。
本作はふたりの女性たちの、純粋な愛を描くとともに、私たちが普段、いかに固定観念に縛られているか、ということを浮き彫りにする。マドレーヌの娘は真実を知ってショックを受け、ふたりを引き離そうとするが、それは世間体を気にしているのか、あるいは娘として母を許せないのか。許せないのであれば、それはなぜなのか。娘の感情の振り子はそのまま、観る側にとっても疑問を突きつける要素となるのだ。
ニナとマドレーヌの愛のあり方が美しいゆえになおさら、彼女たちを引き離そうとする周囲の過剰な反応が醜く映る。社会のなかで、慣習に縛られない愛を貫くことの難しさを深く、静かに訴えかけ、心の琴線に触れる。

『DEUX』日本公開未定

アパートの隣同士に住むニナとマドレーヌは、世間の目を逃れて深く愛し合う仲だった。だがマドレーヌが病に倒れ事態が急転。なんとか退院するものの、真実を知った彼女の娘からニナは面会を禁じられる。不条理な現実に直面したふたりの、それでも愛を貫こうとする姿が美しい。

アイデンティティを模索する、思春期の少年少女たちの揺れ動く心

『君の名前で僕を呼んで』(’17)のルカ・グァダニーノ監督が手がけたHBOの新ドラマ・シリーズは、イタリアにある米軍基地で生活する家族の姿をとらえた物語。特異な環境のなかで疎外感を抱きながら、自身のアイデンティティを模索するティーンエイジャーたちの日常を描く。
米軍基地のコマンダーとなった母と、母の同性のパートナーとともに、アメリカから越してきたばかりの14歳のフレイザーは、ボーイッシュなスタイルで、どこか中性的な魅力を秘めたケイトリンに惹かれる。ケイトリンは自分のセクシュアリティについて居心地の悪さを感じ、ボーイフレンドとの仲もあまりしっくりいっていない。一方、父親が不在のフレイザーは、同性カップルとして基地では浮いた存在の母とその恋人に不満を抱きつつ、自分も男性中心的な価値観の同級生の輪にはなじめないでいた。
「これは変化をテーマにした、まだ自分の望むものがわからない過渡期にあるティーンたちの物語」とグァダニーノ監督が語るように、揺れ動く若者たちの心を繊細にすくいとった作品。型にはまらない、しなやかなキャラクターたちが、いまの若い世代を象徴する。

「We Are Who We Are」日本公開未定

イタリアのヴェネト州にある米軍基地に、家族と住むティーンエイジャーのケイトリンは、最近アメリカから越してきた同い年のフレイザーと親しくなる。外国の米軍基地という特異な空間で、自身のアイデンティティを模索するティーンたちの姿を、瑞々しくとらえてみせた。

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