『While We’re Young』
40代のジョシュ(B・スティラー)とコーネリア(N・ワッツ)が、20代のブルックリン在住の今時なカップルに出会い、感化されて、自らの人生を見つめ直す。今のNYのライフスタイルもよくわかる一作。
※’16年日本公開予定
©2014 InterActiveCorp Films, LLC.
ベン・スティラーとナオミ・ワッツが主人公のノア・バームバック監督作『While Wer’e Young』が素晴らしい。NY出身の監督によるNYが舞台の機知に富んだ男女の会話が魅力のこの作品。思わず、『アニー・ホール』(’77)や、『マンハッタン』(’79)などと比べたくなってしまう、リアルなNYが楽しめる作品で、古きよきウディ・アレン映画を思い出す洗練されたコメディなのだ。
設定がまずよい。スティラー演じるジョシュはドキュメンタリー映画作家なのだが、8年間も映画を完成できないでいる。ワッツ演じる妻のコーネリアの父は有名映画監督で、ジョシュには不満を抱えている。コーネリア自身は流産を経験し、子どもに恵まれた同年代の友達とは距離を置くようになっている。NYならありそうな設定だ。そんなふたりの前に現れるのが、今時のブルックリンを象徴するような20代のカップル。アマンダ・セイフライド演じるダービーと、同じく映画監督を目指す、アダム・ドライバー演じるジェイミー。テクノロジーが発達したデジタル社会で、よりアナログな生活を重視し、消費社会の中で、より環境にやさしくというこだわりと高い意識をもったふたりだ。
SPUR2015年12月号掲載
40代を迎えてもう若くもなく、かといって落ち着くには早すぎる人生の分岐点に立ったふたりの前に野心と情熱あふれる20代のふたりが現れたことで、ジョシュとコーネリアは思いきり感化される。ジョシュがいきなりJ・ティンバーレイク風のダンディな帽子をかぶって闊歩するさまはそれだけで笑えるし、コーネリアが突然ヒップホップのダンスクラスに通うさまも爆笑もの。主人公がそのアイデンティティを探るさまをジェネレーションギャップを使って笑わせる術は巧みで、またNYの男女ならではの辛辣で、皮肉たっぷりで、早口な会話の連発も笑える。かと思えば、コーネリアが20代のカップルの家でレコードが大量にあるのを見て「わが家ではゴミだったものがここではクールに見えるわ」という発言なども今を捉えていて鋭い。しかし究極的には、主人公たちが自分探しに奮闘するさまをコミカルに見せつつ、たとえば、ジョシュが「そろそろ子どもが大人の振りをしているように振る舞うのはやめようと思う」と語る印象的な台詞などにより、主人公たちが、最後には自分自身を受け入れ、自分なりの幸せを見いだしていくところこそがアレン映画的なのだ。
実は、すでに行なったインタビューで監督自身が、「今作は30、40年代のスクリューボール・コメディや、自分が好きだったマイク・ニコルズ、シドニー・ポラック、ウディ・アレンのようなコメディの伝統的な流れを組む作品を僕なりに作ったらどうなるのか知りたくて作った」と語っていた。最近では、実生活でもパートナーのグレタ・ガーウィグと脚本を執筆し、彼女を主演にNYが舞台の作品をどんどん作っている。ここ最近NY以外での作品が多いウディ・アレンに代わり、NYを代表するコメディ作家は、バームバックであると言いたくなるような作品なのだ。
SPUR2015年12月号掲載
ジャーナリスト 中村明美さん
NY在住、映画/音楽ライター。『Cut』や、『rockin’on』などを中心に執筆中。NHKラジオ『ワールドロックナウ』もレギュラーで隔週ゲスト出演。メジャーな映画祭で注目作をいち早く取材。
SPUR2015年12月号掲載