シネフィル4人が、どうしても語らず にはいられない公開待機作はこれだ!|NO.01 柄本 佑さん

『アンジェリカの微笑み』
’15年4月2日に106歳の生涯を閉じたポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ。彼が101歳で撮った幻想的な愛の物語がついに公開。
※12月、Bunkamuraル・シネマほか

 

 

©Filmes Do Tejo II, Eddie Saeta S.A., Les Films De lA’ pres-Midi, Mostra Internacional de Cinema 2010

14歳、夏。

宮崎県えびの市で霧島連山をバックに2カ月かけて撮った『美しい夏キリシマ』。同い年の友達と決まった時間に学校へ行き決まった時間に帰るという生活から一変して、不規則な生活と大人だらけの映画製作の現場を真っチロイ肌で体験し、14歳だった自分はすっかり映画作りという何だかヤクザな世界の虜になってしまったわけで、その衝撃の日々はくまなく憶えています。

あれから14年。ちょうどあの頃の自分の倍生きたことになりますが、『~キリシマ』の上映があるということでえびの市に行きました。当時宿泊していた玉泉館(すっぽんぽん風呂)や毎日のように手羽明太を食べに行っていた居酒屋「たくちゃん」、そして撮影現場だった黒木和雄監督の生家など、所縁の場所を回らせてもらいました。細部まで全部自分の記憶どおりでした。建物の中や泊まっていた部屋の間取り、立地なども全部記憶どおり。ただひとつだけ違ったことがあるのだ。すべてが小さくなっていたのだ。そう! 自分がデッカくなっていたのです! それはそうです! あれから14年ですもの! デカくもなりますさ! しかし記憶は自分の体積とは関係ないのです!「アレェ泊まっていた部屋こんなに狭かったかなぁ」とか「天井こんなに低かったか?」など。町並みや町の方々は変わらず自分だけがデカく……ちょっとしたタイムスリップ! ヒョッと油断したら当時の自分が出てきそうなほど変わってないんですから。本当にうれしく豊かな体験をさせていただきました。当時から今までのことも考えました。あれから黒木和雄監督、照明の佐藤譲さん、そして原田芳雄さんが亡くなってしまった。では当時の自分と今と何か成長はあるか? 身体がデカくなった以外ないな。一瞬感傷的になりましたがそんな暇はありません。間に合わんぜっ! ましてオリヴェイラは106歳まで現役だったんだ!

SPUR2015年12月号掲載

そのマノエル・ド・オリヴェイラ監督が101歳のときに撮った『アンジェリカの微笑み』は青年イザクが豊かな労働の音をバックに恋に仕事に大忙しという映画。わざとそんな言い方をしたくなるほど「なんでこんなに面白いのっ!?」と叫びたくなる傑作でした。まったく、人物を風景や物と同じように撮るのですよ。そのときに生きてきたのは音でした。絵画に音が音楽が足されているようなのです。生きているのは振り下ろされる鍬や農作業トラクターや外を走るトラックの音たちと、アンジェリカだけだったんじゃないか? 観念的だが、登場人物はみんな死んでいたんじゃないか? いや、ワカラン。ただオリヴェイラ自身が自分の死を感じて撮っていたように思うのです。だからこそ死が生になったのではないか。そして死は永遠の生なのかもしれない。スクリーンに映る原田芳雄がそうであるように……。うん、何はなくともがんばらねぇとな。

SPUR2015年12月号掲載

俳優 柄本 佑さん


1986年生まれ。東京都出身。最新映画『GONINサーガ』が全国公開中。ドラマ「あさが来た」(NHK)に出演中。11月11日~29日、新国立劇場小劇場で舞台『桜の園』に出演。

SPUR2015年12月号掲載

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