私たちだって語りたい!! アクションだけじゃない!どう観るか、が問われる傑作|NO.02 佐藤友紀さん

とんでもない傑作に出会えるなら、30年待つのも長くない!!

Ⓒ2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI)LIMITED

『007 スカイフォール』(’12)でジェームズ・ボンドが女性上司Mを腕に抱き、おでこにキスをしたときも不覚にも泣いてしまったが、本作でも気づいたら嗚お 咽えつしていた。もちろんこの映画を観た人間なら誰もが興奮するアクションシーン
の数々はものすごかった。今や映画でなくとも、ゲームやら何やら、ハイテクの限りを尽くして次々にたたみかけてくる人工的な映像展開にアッカンベーをするように、あくまでも人間が主役のどこか原始的なアクションはライブ感たっぷりで心臓がドキドキバクバクする。特に、オリンピックの棒高跳びもかくあるや、の人間ヤジロベエの迫力、あれはいったい何なのか!?

爆走する敵の車から突然ぶっ飛んできて攻撃を仕掛けてくるだけでなく、ビュンビュンたわむ長い棒の力を活かして、人質も奪っていく。これがどこから飛んでくるかわからない恐怖を、私たち観客も共有してしまうのだ。

SPUR2015年12月号掲載

もっとも、本作を誰かと語り倒したくなるのはアクション場面についてのことばかりではない。むしろもっと本質的な、「人はなぜ戦うのか?」ともいえることについて。近年のSF大作などに見られる、「愛する人を守る」だの「この地球を守る」だのといったお題目に正直ウンザリしている者にとっては、「人間としての自分の尊厳を守り抜く」というテーマがどれだけ強く響いたことか! どこかのテロ組織じゃあるまいし、女は子どもを産ませるための財産で、どっからかかっさらってくればいいという醜悪なボスと組織に、自分たちで立ち上がったシャーリーズ・セロン扮するフュリオサのなんという美しさ! 白い薄衣を着せられた5人の妻たちがさも憎々しげに貞操帯を投げ捨てるシーンでは、思わず拍手してしまったほどだ。

フュリオサに同調する年上の女性バイク軍団(鉄馬の女たち)もカッコいい。その顔は日に焼けて深いシワが刻まれているが、一人ひとりがまるで画家ジョージア・オキーフのように哲学的なのだ。
カンヌ映画祭の記者会見では、マックス役のトム・ハーディに「せっかく主役をつかんだのに、女たちのほうが目立って不満ではなかったか?」なるアホな質問も出たが、彼の答えは「1秒たりともそんなふうには思わなかったよ」。こんなとんでもない傑作に出会えるなら30年待つのも長くないかも!!

SPUR2015年12月号掲載

Ⓒ2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI)LIMITED

ジャーナリスト 佐藤友紀さん

1953年生まれ。山形県出身。本誌「YUKIPEDIA」連載中。毎年カンヌ、ベネチア映画祭に足を運び、いち早く新たな良作や才能あふれる俳優を発掘。演劇、ダンスにも造詣が深い。

SPUR2015年12月号掲載

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