この映画に関わったすべての人に感謝している
Ⓒ2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI)LIMITED
今年は奇しくも、大作映画の新作が次々と公開される年だった。蓋を開けてみれば、共通していたのは、女性の描き方にかなり力を入れていたことだ。
まず、『ジュラシック・ワールド』では、「その靴じゃ2分ともたない」と言われた科学者のクレアが、最後にヒールの靴を履いたまま、みなのピンチを救う。なんのためにヒールでも恐竜に勝てることを証明する必要があるのか不思議ではあったが(脱いでもいいだろ)、ブライス・ダラス・ハワードのあの大激走には有無を言わせない迫力があり、胸が熱くなった。
続いて、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソンは紅一点であることに変わりはないが、トム・クルーズと互角に渡り合い、惚れぼれするほどの大活躍を見せる。しかも、男性は全員スーツ姿なのに、彼女だけがセクシーなレザースーツ姿である宣伝ポスターについて、「もうやめようよ、(世の中が)せっかく正しくあろうとしているところなのに」と思ったと、今回救出される「姫」の役割だったサイモン・ペッグはインタビューで意識的に発言している。
SPUR2015年12月号掲載
この意識が1000パーセント行き届いた作品が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だった。アクション映画の様式美を少しも崩すことなく、女性をフェアに描くことは可能であると、この映画が証明してしまった。やろうとすればできるのに、今までやっていなかったことを暴いてしまった。『ヴァギナ・モノローグ』のイヴ・エンスラーに監修を依頼し、フェミニズムを味方につけたアクション映画を観ることができる日がくるなんて思いもよらなかったけど、こういう映画をずっと待っていたんだと、心が震えた。
それは、回想シーンがなくてもそれまでの人生の過酷さを全身全霊で体現できるシャーリーズ・セロンや、この脚本を受け入れたトム・ハーディ(マックスの肩を借りて、フュリオサが銃を撃つ場面が死ぬほど好きだ)やニコラス・ホルト(多分、一番役得だった)がいて、可能になったことでもあるはずだ。どのシーンも壮絶にカッコよくて、砂嵐に突入する場面など陶然となった。多くが初老である鉄馬の女たちがスタントなしで戦い、撮影が楽しかったと言っていたのもすごい。やれるのにやっていなかった、やれるのにやらせてもらえなかった、という社会的なフラストレーションを振り切ると、こんなにもキレまくった最強の作品ができることを教えてくれた、この映画に関わったすべての人に感謝している。
SPUR2015年12月号掲載
作家 松田青子さん
2013年『スタッキング可能』が話題に。ほかの著書に『英子の森』。訳書にカレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』。最新作は本と映画にまつわるエッセイ集『読めよ、さらば憂いなし』。
SPUR2015年12月号掲載