今日マチ子×遠山武志 対談『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を繰り返し観た、2015年夏

“行くたびに見るポイント、応援するキャラがある”

illustration:今日マチ子

※イラストは観るたび今日さんがツイッターにアップした"マッドマックスらくがき"のフュリオサ&妻たち。「こんなに描きやすい映画ってないな」と思ったとか。その言葉どおり、ファンアートを描く女子も続出。

遠山 この映画は6月20日に始まって、最初の2週間は想定されていた観客、30代後半より上の世代の男性が7割だったんですけど。3週目あたりからどんどん若返って、そこから女性にも爆発的に受けて、夏休みに入る頃には6対4くらいで女性が多くなったんです。でもそれは『マッドマックス〜』が初めてじゃなくて、『パシフィック・リム』(’13)もそうだった。イベントでも衝撃だったんですけど、7割が女性。「ロボットと怪獣が殴りあう映画なのに?」って(笑)。今後は映画業界もいろいろ考え直さなきゃ、と思います。


今日 私も最初は興味がなくて、男性から「あれは絶対に観たほうがいい」って言われて、観に行ったらまんまとはまったんですよ。

遠山 フュリオサ(シャーリーズ・セロン演じる大隊長。彼女が5人の妻たちを連れて砦から逃げ出すことで物語が始まる)っていう女性が実質主人公だから、っていうわけでもないんですよね?

今日 ないですね。ただ、ここまで女の人をちゃんと描いたものってないなあとは思いました。しかも非常にナチュラルに描かれている。たぶん、女性が最初にひっかかるのがニュークス(ニコラス・ホルト演じる刹那的なウォーボーイズの一人)だと思うんですが、とにかくキャラクターがみんなよく作り込まれている。想像力がふくらませられるキャラクターが揃っていて、妄想の炸裂しがいがあるんだと思います。

遠山 あんまりディテールがないところがいいのかもしれませんね。セリフとかじゃなく、設定やエンドロールで初めて出てくる名前もいっぱいあるじゃないですか。そういうところもあとからあとから掘れる。オタク心をくすぐりますよね。



SPUR2015年12月号掲載

 

今日 行くたびに見るポイント、応援するキャラがあるんですよ。私は結局5回観ました。最後は立川で。あのときはみんな『マッドマックス〜』が好きな人たちなので、すごく仲間感があって。

遠山 終映後に拍手が起きることも多くて、泣きそうになるんです(笑)。でもシンプルだからこそ、タイムレスな映画ですよね。30年後に観ても絶対面白いし、30年前に観てもきっと面白いし。今日 前シリーズ(’79、’81、’85年公開のメル・ギブソン主演三部作。今回はトム・ハーディがマックスを演じる)と違って、やさしいマックスも素敵だと思いました。私はマックスが昭和生まれで、5人の妻たち(敵役イモータン・ジョーが追う)が今時のゼロ年代生まれ、みたいな想像もしたり。断絶があって、昭和生まれのおっさんが若い女子にうざがられててかわいそう、と(笑)。

SPUR2015年12月号掲載

 

遠山 マックスってブラック・ジャックみたいな人なんですよね。シリーズでも『〜2』の頃からふらりとやってきて、町の人たちを手助けしては去っていく。そういう意味では今回は見事に、新作にしてリブートでもあるんです。

今日 フュリオサに関して言えば、仕事とかがつらくて逃げ出したいと思っている女子が観るといいかもしれない。一回逃げ出して、でも冷静になって「どこ行くんだ私」と思って、やっぱり戻ってちゃんと仕事しよう――という。そういう気持ちになるのでは?

遠山 そんなちっちゃな話なんですか?(笑)

今日 会社に10年くらい勤めて、結構地位も上のほうに来てしまったところで、突然の脱走(笑)。そういうふうに悩んでいる人にはおすすめです。自分探しにはもう歳をとりすぎていて、でも現状は変えたい――そういう年齢の女性がフュリオサだと思うと、しみじみしてしまう。逃げた先に希望はなくて、結局希望は自分のいた場所にあった、と戻ってくるんですよね。「やっぱりここしかない」と。

遠山 「でも、監督のジョージ・ミラーはそういう話ばっかり撮ってますよね。『ベイブ』(’95)も『ハッピー・フィート』(’06)もそう。一回飛び出るんだけど、「歌だけじゃない、タップがある!」と、戻ってタップを踊ってハッピーエンド。僕、この映画観たときに、ほんとに『ベイブ』と『ハッピー・フィート』があってよかったと思ったんです。もちろん、〝行って戻る話〟は神話にのっとったハリウッドの基本のストーリーなんですけど。それと、深度を持ちつつも、すごく浅いところでも観られる理想の映画でもある。カーアクションだけでも楽しめるし、美術作品を観るようなところもある。

SPUR2015年12月号掲載

 

今日 アクション映画って、大抵眠くなる瞬間があったり、そのあとにいきなり恋愛要素がぶちこまれたりするんですけど、そういう無理やり感がないのもストレスじゃない。変なセックスシーンとか、フュリオサが脱いだりしなくて、ほんとよかったです。

遠山 でもマックスとフュリオサは、最後には血でつながるじゃないですか。これ以上ない濃いつながり。あれこそ最高のラブシーンですよ。生ける輸血袋みたいなギャグっぽく出てきた設定が最後に全部反転するところにもすごく感動しました。ドゥーフワゴン(追撃部隊の音楽部門、ギタリストが乗る車)が主戦場になったり。

今日 私はとりあえず、「この映画は私のためにあるんだ」という気持ちになるほど、『マッドマックス〜』に浸りきった夏でした(笑)。

SPUR2015年12月号掲載

 

漫画家 今日マチ子さん

東京都生まれ。東京藝術大学卒業。代表作『cocoon』は劇団「マームとジプシー」により舞台化された。2015年、『いちご戦争』で第44回日本漫画家協会賞・カーツーン部門大賞受賞。近著は『ぱらいそ』。

立川シネマシティ企画室長 遠山武志さん

ファンの視点から映画館のあり方を見直し、イベントほかユニークなスタイルをプロデュース。「極上音響上映」「極上爆音上映」には全国からファンが集まる。『マッドマックス〜』の爆音上映が大ヒット。

SPUR2015年12月号掲載

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