雨ニモマケズ! 1泊2日で八ヶ岳へ(後編)【井之脇海と、山の話 第7回】

 北八ヶ岳1泊2日の後半編です。1日目は、北八ヶ岳の白駒池からスタートして、高見石小屋、中山峠、黒百合ヒュッテまで歩きました。あいにく天気には恵まれず、駐車場や峠など風を遮るものがない場所ではかなり強い風速でしたが、北八ヶ岳のように深い森を持つ山だと木が守ってくれて雨も風も感じないんですよね。

 今回、新鮮だったのは初めて山で泊まったこと。今まで日帰りばかりで、あまり休憩もとらず急ぎ足で登ることがほとんど。一緒に行くのもとんでもない健脚の父親かお尻にロケットがついているような友人Hだけで、「登りは忍耐、下りは体力」みたいな登山だったんですが、山小屋に泊まって新しい登山の扉が開きました。

 山小屋には雰囲気や眺めがいい、ごはんがおいしいなど、いろいろ個性があるそうで、登山のルート途中にあるから泊まるだけでなく、小屋やそこで働くご主人、スタッフの方に会いたくて遊びにくる人や、誕生日を毎年祝いにくる人もいると聞きました。僕は小屋に泊まるのが初めてなので、夕ごはんは5時半、朝ごはんも5時半(覚えやすくていいな、と思いました)、20時半には全館消灯など山小屋でのマナーを知れたことや、電波が入らず携帯電話から距離をおけたこともよかったなと。本を読もう、と持ってきたけど、結局開きもせず、ただ重いものをしょってきただけになりましたが(笑)。

 山の朝もきれいでした。少しずつ日が差し鳥の鳴き声が大きくなっていく感じや、霧がピンク色に染まっている様子……。雄大な朝焼けとはまた違った、静かな朝。泊まらないと感じられない風景でした。

 人のお話を聞くこととお酒が好きな僕としては、食事を終えたあと消灯までの間、ご主人・米川岳樹さんはじめ山が好きなスタッフの方々と一緒にお酒を飲めたのもいい時間でした。ご主人に、小屋にはたくさんの仕事があるなかでどこに一番やりがいを感じるかをうかがったら「準備」とのこと。僕も、役者として「準備をする」時間が好きなんです。夜が更けるにつれていろいろな話がうかがえて、小屋の夜の時間も少し知ることができました。

 また、黒百合ヒュッテのみなさんに会いたいです。次、くるときは差し入れに一升瓶を持って登ります。

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ジャケット¥19,000/ゴールドウイン カスタマーサービスセンター

山小屋にはたいてい大きな本棚が。山や植物、自然にまつわる本や図鑑、マンガやエッセイ、誰かが置いていったナゾな本など、時代、ジャンルを超えたセレクトの自由奔放さ! 『AKIRA』が気になっていたが、長編を読み直す!の意気込みはあえなく睡魔により散ったそう

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ずぶ濡れで小屋に到着。レインウェアを干し、着替えて、ストーブの前でほっと休憩。ちょうど15時

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小屋で働くみなさんと。一番左がご主人の米川岳樹さん。やさしくシャイなお人柄でファンが多い

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昭和31年、米川さんの祖母が建てた黒百合ヒュッテ(通年営業)。新酒を飲む会やジャズコンサートなどイベントも多くあり、冬は銀世界に。お正月をここで過ごす常連さんも

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夕食はハンバーグに千切りキャベツ、炊きたてご飯、味噌汁など。味噌や漬け物は自家製。材料は背負って登るというから、おいしさもひとしお。井之脇さんはご飯をおかわり

●黒百合ヒュッテ 0266-72-3613
(予約問い合わせ用) www.kuroyurihyutte.com

Profile
いのわき かい●俳優。1995年神奈川県・横須賀生まれ。子役として活躍し、日本大学芸術学部では映画を学ぶ。父の影響で登山を始め、日本百名山制覇が目標。今回の八ヶ岳で、9座目。フジテレビ開局60周年特別企画ドラマ「教場」出演予定。

SOURCE:SPUR 2019年12月号「井之脇海と、山の話」
photography: Kazuhiro Shiraishi hair & make-up: Takeharu Kobayashi edit: Tomoko Yanagisawa

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