エリザベス女王の青春? 『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』



少女マンガで育ってきたせいもあって、海外の映画に同じような感性があるとちょっと嬉しくなってしまいます。イギリス映画『ロイヤル・ナイト』もそんな一本。ティアラにピンクのドレス、ハイヒール姿の二人のプリンセスがロンドンの街をあわてて走っているその上で、夜空の星がキラキラしてる――そんな絵さえ浮かんできそうです。

1945年5月8日、ドイツとの戦争が終わったVEデー。当時19歳だったエリザベス王女はお忍びでロンドンの街に出て父王ジョージ6世のスピーチを聞き、祝勝ムードを味わい、リッツ・ホテルでワルツを踊った――という逸話をもとにしています。とはいえ、それは『ベルばら』がフランス革命をもとにしているのと同じ。これはエリザベスと、彼女に同行した妹のマーガレット王女がその夜何をして何を見て、どんな冒険をしたのか、自由に空想してみた「おとぎ話」。こんなフィクションを許す英国王室にもちょっと驚いてしまいます。

まあこちらとしては、出会いとドタバタに彩られたそのお話をただ楽しめばいいのですが、なかでもよかったのはエリザベス演じるサラ・ガドンと、『ミニー・ゲッツの秘密』で注目されたマーガレット役のベル・パウリーが少女マンガ的キャラを心得ていたところ。キュートで軽やかで、とても正直な演技なのです。あと字幕ではわかりにくいのですが、二人が王室らしいお上品な物言いをするたび、「何、この子?」と変な顔をされるのもおかしい。生真面目なジョージ6世を演じるのがルパート・エヴェレット、という配役にも絶妙なユーモアを感じました。

気になるのは、彼女たちが駆け回るロンドンの街の地理関係がやや怪しいところでしょうか。でも合間には戦後の切ない描写があったり、エリザベスが一人の兵士と心通わせる過程がていねいに描かれていたり、全体としては王道で好感が持てます。最後にはエリザベスとマーガレットを、ひと昔前の少女マンガ風に「リズたん」「マグたん」と呼びたくなってしまったり。こういう親しみやすさが、また英国王室人気を高めるのに一役買う気がします。



『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』
監督/ジュリアン・ジャロルド
出演/サラ・ガドン、ベル・パウリー、エミリー・ワトソン、ルパート・エヴェレット
6月4日、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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