女性の怒りや鬱屈が噴出する、ダークなコメディ『フィジカル』

画像提供Apple TV+
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自分でも好きなのか嫌いなのかわからない、でもどうしても見るのがやめられない――そんな癖のあるドラマが、Appleオリジナル『フィジカル』。最初に予告編を見たときは、女子プロレスのドラマ『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』みたいな感じなのかな、と思っていました。1980年代の派手でキッチュなヘアメイク、女性たちのドタバタな挑戦をコメディにしながら、エンパワメントにもなる……みたいな。でも、『フィジカル』は元気が出るというよりは、もっとダーク。女性にとっては呪いのような部分にまで踏み入っています。それは自己嫌悪、セルフイメージの問題。

ローズ・バーン演じるシーラは育児のために学業をあきらめ、いまは大学教授の夫を支える主婦として生活を送っています。でも心の底ではその状態にも、それに甘んじている自分にも絶望している。頭のなかではずっと不満をつぶやき、周りや自分自身に毒づいているのです。その声が全部モノローグとなって流れる演出、これがきつい。というのも、女性ならきっと心当たりがあるものだから。私は太りすぎてるとか、もう年寄りだとか、相手に言い返せず笑ってるだけだとか……シーラの場合、そんな日々の鬱やストレスは摂食障害として表れます(なので、閲覧注意!)。「ドカ食いも今日が最後、明日からはちゃんとする!」という後ろめたさは、ダイエットをした人なら誰でもわかるのでは。

そんなシーラが急激にハマるのが、1980年代当初に流行しはじめていたエアロビクス。彼女はシャイニーなレオタードに身を包み、シンセ・ポップに乗って汗をかき、鬱憤を晴らします。とはいえ、それで問題が全部解決するわけがない。特に最初の数話は、自分で自分を傷つけるようなエピソードの積み重ねがかなりつらい。でも、シリーズが進むにつれ、シーラのネガティブな衝動が少しずつ反転しはじめます。ここから本当に彼女は、エアロビクスで思いがけない成功をつかむのか? 単純なハッピーエンドが待っているとは思えないけれど、それでも目が離せない。同時期に公開される映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)もそうですが、女性の怒りや鬱屈が噴出するようなコメディが出てきているのは、安易な解決やエンパワメントを求めない、新たな傾向のような気がします。

『フィジカル』
クリエイター/アニー・ワイズマン
出演/ローズ・バーン、ローリー・スコーヴェル
Apple TVにて独占配信中




『プロミシング・ヤング・ウーマン』
監督/エメラルド・フェネル
出演/キャリー・マリガン、ボー・バーナム
7月16日、TOHOシネマズ日比谷、シネクイントほか全国公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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