2021.07.08

自由な体を求めて【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京 生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどのファッションブランドとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしMVの制作も行う。

vol.5 自由な体を求めて

『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』
Billie Eilish
『FOR YOU AND I』
Loraine James

自分のありのままの身体を一度でいいから誰かに褒めてほしいと思ったことがある。「それでも君は美しいよ」と言ってくれる人がどこかに一人くらいいるんじゃないかと想像しては、同時にそんなことあるわけないと思ってしまう。ダボダボの服を着て身体のラインをぼかしていたビリー・アイリッシュが下着姿でUK版『Vogue』誌6月号の表紙に登場した。これまでのボーイッシュな服で自分を守るスタイルも最高だったけど、持って生まれた身体を恐れずにそのまま見せるアティチュードに勇気をもらう。

「You should see me in a crown」のリリックでは、こう歌っているのも印象的だ。「王冠を被った私を見るべき/このつまらない街を駆け抜ける/みんなの頭を下げさせる」。つい人からどう見られるか気にしてしまいがちだけど、本当はそんなことまったく問題なんかじゃない。すべての女性が王冠をかぶっているのだという力強いメッセージが、解放された身体を写したビジュアルから伝わってきた。

また、新しいアルバムが今月リリースされたばかりのロレイン・ジェームスは、2019年の『FOR YOU AND I』収録曲「So Scared」で何度もこう叫んでいる。「そこにいるアンタがめちゃくちゃ怖い!/私は人目を浴びることが苦手だから/普段は外で自分の彼女と手もつながない」。地元のロンドンですら同性の恋人と歩くことは危険があると訴えているのだ。

もちろん、肌の色やセクシュアリティですべてが決まるわけではないけど、黒人でクイアのロレインと白人でヘテロのビリーは受け取るものは違うだろう。だからこそ、ビリーのような発言力のある女性が身体の話をすることは重要だと思う。そして、注目を浴びるのも苦手という声の小さい人々の生活がひそやかに守られ、すべての人々がそれぞれの身体で、傷つかずに街を歩ける世界にしていかなければならない。

Monthly Pick-up

『Big Mess』
Danny Elfman
配信中/ANTI
ティム・バートン監督とのコラボが有名な映画音楽作家が、37年ぶりにソロ・アルバムを発表する。壮麗なオーケストラと攻撃的なインダストリアル・ロックが出合う本作は、トランプ政権時代を総括したというだけに、すさまじい熱量を放つカオスの極み。その音楽的デトックスの先には解放感が待っている。
『Prosthetic Boombox』
Cola Boyy
¥2,420/P-VINE
カリフォルニア発、クセのある歌声を披露するのは、体に障がいを持ち、さまざまな人種のルーツをもっていて、人権活動家でもあるシンガーだ。メロウなディスコサウンドで貫いたこのデビュー作には、そんな彼の視点を映した物語を満載。厳しい現実に触れつつも聴き手を楽しませ、希望を残すことを忘れない。

SOURCE:SPUR 2021年8月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI.  text(Monthly Pick-up): Hiroko Shintani edit: Ayana Takeuchi