「街全体がミュージアム」の麻布台ヒルズ でアートと豊かさを吸収 #94 #オラファー・エリアソン

東京の最高レベルの都市機能が集結した麻布台ヒルズがついに爆誕しました。 1980年代から35年もかけて開発されてきた「コンパクトシティ」には、商業施設だけでなく住宅、オフィス、学校、庭園、病院、文化施設など、人生を豊かにするあらゆるものが揃っています。

「街全体がミュージアム」の麻布台ヒルズ の画像_1

200億円もする超高級マンションのニュースなど聞くと、縁がない富裕層向けタウンだと思いそうになりますが、実はアートを観賞する絶好のスポットでもあるのです。行くだけで、物欲、食欲よりも手軽に満たせるアート欲……。「街全体がミュージアム」というテーマ通り、アート作品が随所に展示。内覧会でチェックしたギャラリーやパブリックアートをご紹介します。

麻布台ヒルズ
ステンレスで天然石を模したジャン・ワンの「Artificial Rock」。この場に置かれるとパワーストーンのようです。

まず、歩いてみて感じたのは、ガーデンプラザ棟からレジデンスBまで、横に広がっていてかなり距離があるということ。約8.1ha(約500m×350m)にも及ぶ広さなので、最先端の都市を歩いているだけで軽い運動になります。この街のコンセプトである「Green & Wellness」を体感。神谷町に近いガーデンプラザは、 ヘザウィック・スタジオによる曲線的な低層階の建築デザインが特徴です。想像を超えた未来の都市の風景にテンションが上がり、坂道も苦になりません。麻布台ヒルズには、それぞれの棟をつなぐ位置に、名称も直球な「中央広場」という約6000平米の緑地があり、都心にいながら自然のエネルギーを吸収できます。

奈良美智
奈良美智の「東京の森の子」ごしに、ブリティッシュ・スクール・イン 東京の校舎が見えます。ここで育った子たちは感性豊かになりそうです。

こちらの広場には、奈良美智の彫刻作品「東京の森の子」や、中国の彫刻家、ジャン・ワンのステンレスの作品「Artificial Rock」などが野外展示されています。自然とアートのエネルギーを無料で吸収できる恩恵スポットです。
森JPタワーオフィスロビーのエントランスの頭上にはオラファー・エリアソンによるパブリックアート「相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」が展示。リサイクルでできた亜鉛の多面体のモジュールによって曲線が形作られています。エコロジー精神や、自由な発想を持つことの大切さについて、見る人の意識を高めてくれそうな作品です。

麻布台ヒルズ
中庭にはセレブな果樹園もありました。温州ミカンやブルーベリー、レモン、リンゴ、モモなどが育てられるとか。まさに地上の楽園です。
麻布台ヒルズ
森JPタワーオフィスロビーの天井から吊り下がった「相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」。題名もアカデミックです。

エリアソン氏は、森美術館館長、片岡真実氏とのインタビュー動画で、この「相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」について、「様々な『今』が同じ一つの空間を共存しています。空間は多元的なのです」と、語っていました。人々の「今」がこんな風に曲線的に美しい形でつながっていったら、世界はもっと平和になりそうです。六本木ヒルズの巨大蜘蛛のモニュメントに負けない影響力を感じました。

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麻布台ヒルズギャラリー(ガーデンプラザA MB階)の開館記念展、「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」では、さらにオラファーの世界に没入することができます。

彫刻「呼吸のための空気」は、森JPタワーオフィスロビーの作品と同様にリサイクルの亜鉛のモジュールでできています。エリアソン氏は「空中に放たれるはずだったものをこのように小さな個体に変えたのです」と動画内で語っていました。鉱山から回収された亜鉛廃棄物が素材だそうです。亜鉛など重金属は大気汚染の原因にもなってしまいますが、それをこのような美しい作品に昇華させるとは……。

麻布台ヒルズ
「終わりなき研究」は、振り子とペンがついたアナログな機械で、円運動による曲線的なドローイングが自動生成。予約制で作品を1枚描けるそうです。

動画では、この展覧会の作品は「誰でも家で作り出すことができる」などと謙遜していましたが、絶対そんなことはないと思います。

今回、参加者も体験できるのは「終わりなき研究」という作品。通常価格に1000円プラスの2800円(一般料金)の「《終わりなき研究》体験付チケット」を買うと、実際に操作してできたドローイング作品を1枚お持ち帰りできるそうです。振り子の運動によって美しい曲線が描かれ、1枚として同じものはないという、かなりプレミアムな作品で、1000円はお得です。動力源は自分の力加減、というのもさすがエコロジーです。

麻布台ヒルズ
回転する多面体が壁に幾何学的な模様を投影する「蛍の生物圏(マグマの流星)」。暖色の光に癒されます。

エリアソン氏は自然とのコラボ作品も多く制作しています。風で動く振り子によって描かれたドローイング作品や、太陽光とガラス球を使って模様を焼き付けた作品、絵の具の上に置いた氷河の氷が溶けてできた作品など。人間がエゴで作ったものよりも、自然の力を借りて作ったアートは、優しくて平和な気持ちにさせてくれます。エリアソン氏のように環境問題などに対して芸術的な解決策を示していくことが、今の現代アーティストにとって重要な使命なのでしょう。

麻布台ヒルズ
「溶けゆく地球」は、絵画の表面に置かれた太古の氷河の氷が、溶け出すことで生まれた有機的なにじみや色を利用した作品です。真似して実験したくなります。

奥の暗い部屋では「瞬間の家」という、天井からほとばしる水がフラッシュライトで照らされる刺激的な作品が展示されていました。フラッシュライトとともに「ビシ!」という水音が響き、漫然と生きている人間に喝を入れているようです。地球環境について、エコについて、もっと真剣に考えなければと思わされました。エゴからエコへ意識が高まる展示。地球とつながって意識を高めることで、本能や直感が目覚め、迷路のような麻布台ヒルズも迷わず歩けるかもしれません。

麻布台ヒルズ
麻布台ヒルズギャラリーカフェでは、さらにエリアソン氏の思いを体から吸収できる期間限定のメニューが展開。東京近郊で作られた、CO2排出量が少ない食材が選ばれているそうです。ランチのビュッフェは野菜のタルト、玄米と黒米のおにぎり、黒豆のチリなど……。
麻布台ヒルズ
集英社マンガアートヘリテージ(ガーデンプラザA 地下1階)では、今期は尾田栄一郎や久保帯人の作品をフィーチャー。

オラファー・エリアソン展 相互に繋がりあう瞬間が協和する周期
期間:〜2024年3月31日(日)
場所:麻布台ヒルズギャラリー
東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズガーデンプラザA MB階
https://www.azabudai-hills.com/azabudaihillsgallery/sp/olafureliasson-ex/

麻布台ヒルズギャラリーカフェ
ガーデンプラザ A 地下1階
https://www.azabudai-hills.com/shop_list/2004.html

集英社マンガアートヘリテージ
ガーデンプラザA 地下1階
https://mangaart.jp/ja

麻布台ヒルズ アクセス
https://www.azabudai-hills.com/access/index.html

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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