出会いは、ワルシャワ大劇場付属オペラ・アカデミーで同じプログラムを専攻していた13年前。その後ニューヨークの名門ジュリアード音楽院でともに学んで親交を深め、共演を重ねてきたポーランド人ミュージシャン——オペラ界においてポップスター的な人気を誇るカウンターテナーのヤクブ・ユゼフ・オルリンスキと、ピアニストとして独自の活動を行いつつヤクブの伴奏者を長年務めるミハウ・ビエルが初来日。駐日ポーランド共和国大使館でインタビューに応じてくれたふたりは、あうんの呼吸でお互いの言葉を引き継ぐ。
「僕らの相性のよさはアカデミーで初めてミハウの伴奏で歌ったときに実感しました」と振り返るヤクブに、ミハウはうなずきながら言う。
「僕らが深いレベルでわかり合えるのは、ふたりとも若い頃に聖歌隊に在籍していたからでしょうね。だからこそ僕はピアニストだけど声のメカニズムを理解していますし、聖歌隊で歌うには、周りで起きていることに気を配って、自分の声をほかの人たちの声と調和させなければなりませんから」
そんなふたりは3月に、2枚目となるコラボ・アルバム『if music...』を発表。ヤクブは17〜18世紀のバロック期の音楽の探究で知られるが、本作では、通常は独特の編成のオーケストラを伴って歌われるこの時代のオペラのアリアの数々を、ミハウのピアノ伴奏だけで披露。極めて現代的で斬新な形で提示することでその魅力を伝えている。
「バロック音楽にはどこか感情を強く喚起するところがあって、シンプルに聴こえるのに演奏には卓越した技能を要し、クレイジーと形容したくなる楽曲も少なくない。ある種の激しさや純粋さを備え、聴く者を眩惑する。長い年月を超えてわれわれに多くを語りかけていると思うんです。もちろん声とピアノだけでは成立しない作品もありますが、ふたりで多数の候補を試して、最高の結果を得られる曲を選びました」とヤクブ。
ミハウは「ピアノに絞ったことで物足りないように感じさせたら意味がない。だから単にオーケストラをピアノで置き換えるのではなく、真新しい表現をつくり出すつもりで取り組みました。たとえば、今回多くの曲をセレクトした作曲家のパーセルが今生きていたらどう演奏したのだろうかと想像しながら。つまりこれらの曲を、今も呼吸をしている生きた音楽として提示したかったんです」と語る。
ちなみにオペラと言えば、俳優のティモシー・シャラメが「オペラやバレエなんて誰も興味を持っていない」と発言して物議を醸したことが記憶に新しい。ヤクブは苦笑いしながら、「彼も表現者ですから自分で自分を否定しているようなもの。僕ならほかの表現形態を軽んじたりしないし、むしろお互いの技能を讃え合うべき」と反論するが、オペラには敷居が高いイメージがあるのも事実。初心者はどうアプローチするべきなのだろう?
「前もって物語の大筋を把握しておくことが重要ですね。会場では歌詞の訳が表示されていますが、そちらに気を取られずに音楽に集中できます」とヤクブ。「『ラ・ボエーム』や『リゴレット』など短い作品から試すことをおすすめします。でもそれ以上に、僕らのリサイタルに来ていただくのが、第一歩としてベストかもしれません(笑)」(ミハウ)