【林士平の推しマンガ道】2023年で注目の3作品『ダイヤモンドの功罪』『いやはや熱海くん』『うちのちいさな女中さん』

2023年の収穫はこれ! 林さんが出合った数えきれないマンガの中から今後、人気を集めること間違いなしの3作品をリコメンド

林士平の推しマンガ道

2023年のマンガ界をざわつかせた、これから流行の最前線に躍り出るだろう3作品をセレクトしました。

『ダイヤモンドの功罪』平井大橋著

『ダイヤモンドの功罪』平井大橋著
集英社ヤングジャンプ コミックス/既刊3巻・715円〜

運動能力に恵まれた綾瀬川次郎。習い事を始めるたび、周囲に挫折を味わわせ、疎まれてきた少年が、野球に出合い居場所を見つける。しかし、楽しい日々は長くは続かず……。

1作目は『ダイヤモンドの功罪』。平井大橋先生のデビュー作です。主人公・綾瀬川は、圧倒的な運動の才に恵まれ、それゆえに水泳やテニスなどの習い事で孤立してしまう小学5年生。ある日「楽しそう」という理由で少年野球チームに入ります。楽しく野球ができると思ったのに、子どもたちには才能を嫉妬され、大人には勝手な期待をかけられてしまう。設定的にスポーツものの王道である、仲間との絆やモチベーションで物語を駆動することはできない。さらに、彼が試合中に「今ここで/ぶっ壊れたっていいんだ」と考える未来の場面が差し込まれる時間軸の移動があったり、そこに至るまでいったい何が起こったのか、いくつもの要素がどのようにつながっていくのか、今後の展開が気になって仕方ありません。

『いやはや熱海くん』田沼 朝著

『いやはや熱海くん』田沼 朝著
KADOKAWAハルタコミックス/ 既刊2巻・748円〜

人を想う感情に正解はない。美しい顔を持ったため女子からの告白が絶えない熱海くん。一方彼自身が気になるのは先輩や級友など身近な同性たち。彼の想いの行方は?

恵まれた人の苦悩を描いている点は『いやはや熱海くん』にも共通しています。周りが振り返るレベルの美しい男子高校生・熱海くんの日常。たびたび告白され、時に気味の悪い目線にも晒されるけど、「キャーイケメン!」と騒がれるような演出はなく、彼を舞台装置的な扱い方をしない。周りが彼の美に反応しすぎないようにしている、というのがリアルです。世間からの、ある意味暴力的な視線に対して、恵まれているがゆえの不幸があることを教えてくれる。これを丁寧に描くことで、読者の幸/不幸に対する解像度を上げ、それが物語の力になっているんです。田沼朝先生の連載デビュー作ですが、言葉のセンスもキャラクターも独特で、主人公が惚れっぽいっていう設定の上にのせている味つけがとてもいいんです!

『うちのちいさな女中さん』長田佳奈著

『うちのちいさな女中さん』長田佳奈著
コアミックスゼノンコミックス/ 既刊4巻・各726円

昭和9年の東京。山梨から身一つで出てきた野中ハナはその道4年目の女中さん。新しい雇い主との、穏やかで小さな喜びに満ちた日常の生活が丹念に描かれていく。

『うちのちいさな女中さん』は、未亡人と14歳の女中の関係を描くシスターフッドの物語です。血縁はないものの、それでも二人は物語を通して家族のように、互いを思いやる関係になっていくんですよね。両親を亡くし、10歳で女中奉公に出たハナちゃん。現代の感覚からすると"恵まれない子ども"だけど、こんな素敵な雇い主に出会えた。「幸せになってくれ〜」とつい保護者目線になってしまいます。舞台である昭和初期の風俗も丹念に調べられていて、描写も美しく、コラムが挟まれているのもいい! レトロな日本、知らない東京の生活に憧れます。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」連載中の担当作に『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』『ディアスポレイザー』。NYコミコン行ってきました。

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