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公演のためパリを訪れた舞台演出家・真理が、介護施設で働くマリー=ルーと出会い、一晩語り明かす。観客は彼女たちとともに時を過ごすうち、自分を取り巻く社会への見方が変わっていく。そんな思考と感情の変化を鮮やかに体験できるのが、濱口竜介監督の新作『急に具合が悪くなる』だ。第79回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した二人のうち、真理を演じたのが岡本多緒さん。オーディションを受ける前から、この役に強いつながりを感じていた。その理由は?
「彼女が普段考えていること、思考のパターンですね。使う言葉も自然に響いてきて。私は普段、環境問題について発信しているんですが、真理が『社会の構造を考えてみよう』と資本主義の話を始めて、環境から搾取することについて話すシーンがある。こんな作品には出合ったことがなかったので、脚本を読んだときに興奮したのを覚えています」
濱口監督作品では珍しくない、女性同士の会話劇。ただあれほどインテレクチュアルな話が人物像を示し、人と人が短時間で深くわかり合う場面となるのは、確かにあまり見たことがない。往復書簡集である同名の原作から設定は飛躍しているが、その本質は共通しているのだ。だからこそ非常に重要となるのが、マリー=ルーを演じるヴィルジニー・エフィラとの相性、ケミストリーだった。
「最初の顔合わせはZoomミーティングだったんです。ギリギリにヴィルジニーの出演が決まったんですが、そのときからもう日本語などの準備をされていて、勤勉さに圧倒されました。実際に会ってからは親しみやすいオーラ、包み込んでくれる感じがあって。私自身感情の部分でも支えてもらったし、確実にケミストリーが存在していた。そこは二人とも自信がありました。ロマンスみたいな言葉は一切使わなくても、私もヴィルジニーも、濱口監督もそういうものを私たちに感じていた気がします。恋愛じゃない、でも友情だけでもない。でも誰も口に出さなくて、そこがセクシーでしたね」
トップモデルとして活躍した多緒さんにとって、パリはファッションウィークで行き慣れた街。でも、印象は180度変わったそう。
「ファッションという特殊な世界で触れていたフランスの印象と、今作で体験したフランスはまったく違っていて。正直、モデル時代にはつらい経験もしたし、シビアな環境だったんです。でも今回の現場はみんなとにかく働き者で、チームワークも素晴らしくて」
『急に具合が悪くなる』は本も映画も、人と人の関係だけでなく、社会問題や介護、がんといったシビアな題材を取り上げる。ただそれについて話し続けることで、未来や世界に対する信頼を取り戻すところもある。「闘う価値がある」と感じさせてくれるのだ。
「社会問題に敏感に生きていると、『どうしようもなくない? この問題』みたいに思うことが頻繁にあるんです。相手があまりに大きくて、途方に暮れてしまう。挫折してしまう人も見てきたし、私自身、燃え尽き症候群になりそうなことがあったんですけど、この映画には『やってみてダメかもしれないけど、やってみないとダメかどうかわからない』というメッセージがありますよね。それがどういう人たちにどれだけ響いて、どういう変化が起きるかは測り知れないですけど……自分にとっても期待したいところです」