〝当たり前〞って何?問いから社会を考える

"哲学と対話" をテーマに、永井玲衣さんが社会と向き合う6冊を選出。「専門書とライトに読める本を交ぜています。現状に対して、なぜ?と問うことで抗い、いかに変革するべきかを考えるヒントに。哲学とは学問ではなく人間の営みであり、自身が見つけた問いをもとに他者と対話することもまた大切です」

 

『キレイならいいのか -ビューティ・バイアス』
デボラ・L・ロード著/栗原 泉訳(亜紀書房)
「容姿差別、過剰なダイエット、際限のないアンチエイジングや"美"の強制。これらを"小さいけれど、大事なこと"だと作者は言い切り、丁寧に思い込みやバイアスから解放してくれます。目を覚ませと促すような本ではなく、読む人に寄り添う内容で、そこにも共感しました。既存の価値観への問いを哲学で扱っていいのだと、確信できた一冊です」

 

『感情と法 -現代アメリカ社会の政治的リベラリズム』
マーサ・ヌスバウム著/河野哲也監訳(慶應義塾大学出版会)
「分厚い専門書ですが、文句なしに面白い。これまでの哲学では合理性や理性が重視されてきて、感情というものが軽視されてきました。が、その感情がなんと法の根底にあるということを明らかにしています。感情について、膨大な具体例と資料で徹底的に掘り下げ、女性差別や人種差別などのさまざまな問題をひもといていくスペクタクルな内容!」

 

『考えるとはどういうことか -0歳から100歳までの哲学入門』
梶谷真司著(幻冬舎)
「考えることは自由になること。それが、この本の重要なメッセージです。人々と対話的に考えを深めていく"哲学対話"についても丁寧に書かれています。ひとりで哲学するのもいいけれど、誰かとともに考えてもいいと気づかせてくれます。語り合うことで、思考は広く深くなるのだと。著者の梶谷先生とは、私も一緒に哲学対話を行なっています」

 

『実存主義とは何か』
J-P・サルトル著/伊吹武彦訳、海老坂 武他訳(人文書院)
「人間とは何か、という問いにまっすぐこたえてくれる本。私は高校生の頃、この本に出合いました。世界は無意味で、そこに意味を与えるのはあなた、価値はそれ以外にないとはっきり書かれていて衝撃を受けました。サルトルは、難解な言葉で煙に巻くことはありません。読み終わった後も、いつまでも、いつまでも考え続けられる不朽の名作」

 

『ケアするのは誰か? -新しい民主主義のかたちへ』
ジョアン・C・トロント著/岡野八代訳・著(白澤社)
「"ケア"という、思想や政治史上で最も軽んじられながらも重要な視点が、新しい民主主義に不可欠だと提示しています。講演録なので読みやすく、解説も充実。政治理論の入門書としても優れています。原題の"Who Cares?"が"誰がケアするのか?" "誰が気にするのか?"の両方に掛かっているあたり、ケアの神髄を言い当てているよう」

 

『現実を解きほぐすための哲学』
小手川正二郎著(トランスビュー)
「この本は、『考えたって、結局現実は変わらないんだし……』というのは本当にそうなのか?という問いから始まります。性差・人種・親子・難民・動物の命といった今起きている問題に取り組むには、自分の頭で考え、自分で疑問を見つけなければいけない、と示唆。現代に静かに抵抗しているように感じられて、そこも好きなポイントです」

 

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永井玲衣さん(哲学研究者)
ながい れい●哲学研究と並行して、学校や自治体で哲学対話を奨励している。雑誌やWEB媒体で哲学エッセイを連載中。オンライン番組などを配信するD2021も運営。

待ち合わせをしてふたりで読書会

(右)端正なシャツやニットを重ねたドレスは、テーラリングの作業工程を思わせるステッチが印象的。
ドレス¥515,900/マルジェラ ジャパン クライアントサービス(メゾン マルジェラ) メガネ¥42,900/ブリンク ベース(カーニー) 靴¥148,500/チャーチ表参道店(チャーチ) 靴下/スタイリスト私物

(左)大きなつけ襟が"まじめ"な装いをチャーミングに。
コート¥176,000・パンツ¥75,900/イザ(パトゥ) つけ襟¥8,800/ザシー(ケーコー) 靴¥18,700/リーガル コーポレーション(リーガル) 

 

モヤモヤへのヒントがこの本の中にあるかも?

シルクシャツに視覚詩のように配されたグラフィックは、60年代に活躍したコリータ・ケントの作。
ブラウス¥215,600・(以下2 点参考価格)パンツ¥182,600・ブレスレット¥94,600/クロエ カスタマーリレーションズ(クロエ)

 

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