9 ヴィンテージ・プロの最愛ブランド

一見、最新のランウェイとは対極に位置するヴィンテージ。その道のプロが、将来ヴィンテージになりうる、もしくは買いつけにつながる視点で今シーズンを考察する

流行こそ、未来のヴィンテージ by BYRONESQUE

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NY在住のGill Lintonさんがファウンダー、編集長を務めるヴィンテージのリテールサイト。「FUTURE VINTAGE」という記事を同web上で手がける。www.byronesque.com

"未来のヴィンテージ・ピース"という観点から考えたとき、今季の注目株はロンドン・コレクションのハイライトとも呼ばれるハリス・リード(1)とエドワード・クラッチリー(2)だと、ジル・リントンさんは語る。
「リードは2020年にセントラル・セント・マーチンズを卒業したばかりの弱冠25歳のデザイナーにして、卓越した才能の持ち主です。コレクションのルックは、慈善団体のオックスファムで見つけた素材をアップサイクルして作られています。レースのガウンや大ぶりなヘッドピースなど、型にはまらず自由に創造されたデザインで、まったくもって再利用したように見えないのがすごいですね。サステイナブルなものづくりの必要性が叫ばれる今、生地のアップサイクルは随所で見られますが、彼は他のクリエーションの追随を許していない。一方のクラッチリーは、挑発的なデザインが特徴。肌を露出し、誘うようなシルエットには、恥じらいがないんです。大胆なアティチュードは2020年代を代表するアイテムとして、後世にも受け継がれると思います」

NYでは、自身が持つメキシコ系のルーツをデザインに反映する、新進気鋭のウィリー・チャバリア(3)を絶賛する。
「マスキュリンさとフェミニンさの解釈がとても独創的です。流れるような、ゆったりとしたラインのハイカラーのシャツとパンツには、男性性と女性性が共存しています。ジェンダー規範が揺らいできた時代を象徴するデザインとして、今シーズンを代表するピースになるのではないでしょうか。女性が着ると、よりクールな印象になりますね。クラシックでタイムレスといわれるものほど、後世に残ることはありません。その当時のカルチャーを反映した大胆なデザインこそが、未来まで残るのです」

1 ブライダルのタキシードを斬新にカット。ウェディングドレスのレースを加えてボレロに再利用したのは、ハリス・リード
2 テキスタイルにもラグジュアリーさが漂う、エドワード・クラッチリー
3 「ウィリー・チャバリアのデザインは、モダンでプロボカティブ」。ストリート感がありながら、シャツとワイドパンツをシックに演出

今、再考すべき"定番スタイル" by DESPERATE LIVING

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牧野孝彦さんと山田裕子さんが2003年に創業したショップ。2000年代のリミックス感をベースに買いつけている。
東京都渋谷区渋谷3の25の21 第一平野ビル401
03-6433-5195

デスペレート リビングでは有名無名問わず最新ランウェイの画像や気になるスタイリスト、フォトグラファー、ブランドのSNSの投稿を日々チェック。「今の気分から離れてしまわないよう心がけている」という。最近のモード界は「多くがフェミニンな方向に行っていて、デムナ・ヴァザリアがストリートウェアを持ち込んだような大きな変化が起こらない」と感じている。だから気になっているのはその流れから一線を画し、さまざまな年代が入れ子状になっているように思われる新ブランド。

「オーストリア出身でロンドンを拠点とするフロレンティーナ レイトナー(4)は、影響を受けたブランドの特徴が臆面もなく表現されています(笑)。ティーンエイジャーが憧れの対象を書きなぐったノートのような、未完成の楽しさがある。彼女の服を見ていると、"ガーリー"の定義を更新する時期に来ていると感じます。ボディスーツとの合わせもカギですね」
 NYベースのフォトグラファーとノルウェー出身のデザイナーのコンビが手がけるALL–IN(5)や、MV制作にも携わり錚々たるセレブとコネクションを持つイーライ・ラッセル・リネッツがLAでデザインするERL(6)にも注目。

「ファッション畑出身ではないことから発想が斬新で、ヴィンテージをそのまま用いていることも。双方とも本来洋服ではないものを使っていることが新鮮で、2021年のメットガラでエイサップ・ロッキーが着用したことで話題となった、ERLのパッチワークキルト風の寝袋を買いつけました。そうしたら、文脈をご存じのお客さまにご購入いただけて。ERLを見ていると、"アメカジ"も考え直す必要があると思わせられます。ワッフルの肌着の上下のデッドストックなどにもリンクしていきそうです」

4 フロレンティーナ レイトナーのドレスにはイタリアのイラストレーターによる少女漫画風の作品がプリントされている
5 雑誌の刊行も含むプロジェクトALL–IN。初のショーでは布団を腰に巻いたようなルックが登場
6 ERLはアメカジを独自に解釈している。パッチワークキルトのベッドカバーをまとっただけのような春夏のラストルック

interview & text: Azumi Hasegawa (BYRONESQUE), Itoi Kuriyama (DESPERATE LIVING)

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