体型、年齢、性別にとらわれず、"着たいものを着る"時代が到来。牽引するのは若手デザイナーだ
サステイナブルは当たり前、若手が目指すはダイバーシティな世界 by マスイユウ(ファッションジャーナリスト)
2022年春夏はロンドン、ミラノ、パリを現地取材。新人発掘を得意とし、「LVMHプライズ」のスカウトなども務める。SPUR.JPでは「Yuは何しにこの国へ?」を連載中。Instagram: @yumasui
1 シャーリングの伸縮性で、あらゆるボディにフィット
2 ボディポジティブな肌見せは、トレンドのひとつ
3 母、叔母そしてテベ・マググ。3人が古い家族写真を囲んだプレゼン映像は必見
4 キッチュなデザインをハンドクラフトで。90年代カムデン風が新鮮
5 ジェンダーミックスな装いのストリートキッズがあふれた
6 KNWLSに代表される、ミレニアム(Y2K)感も人気
7 ランジェリーが着想源でも、90年代のミニマリズム調でクールに仕上げた
コレクション会場で"サステイナブル"という言葉を聞かなくなった。多くの若いデザイナーにとっては当たり前のことで、声高に主張することがアンクールだと思われているのかもしれない。彼らが焦点を当てているのは"ダイバーシティ"だ。パリでランウェイデビューを果たしたエスター・マニャス(1)は設立以来"ボディポジティブ"を打ち出し、プラスサイズモデルを通してひとつのガーメントがあらゆる体型にフィットする"One fits all"のコンセプトを提案。ベルリン発のオットリンガー(2)は構築的なデザインでプラスサイズにコンセプチュアルなアプローチを持ち込んだ。ボディポジティブに呼応して"肌見せ"傾向も強くなっている。ランジェリーと90年代が着想源のネンシ・ドジョカ(7)は、2021年のLVMHプライズでグランプリを受賞。ミレニアム期のセクシー系を彷彿とさせるKNWLS(6)も気になる。その伸縮性から"ニットウェア"もまた、ボディポジティブには欠かせない。90年代ポップなコルミオ(4)とエコなヴィテッリ(12)、ミラノの2ブランドは要チェック。
ストリートフォトグラファーたちは口を揃えて面白いシーズンだったと言う。パンデミックによる急速なデジタル化の反動からか、会場周辺には着飾った若者たちが集まったのだ。ドレスやスカートを身にまとった男子など、ジェンダーの垣根を越えた装いも多かった(5)。レディスのショーにメンズモデルを起用しているブロガー(10)や何世紀にもわたるゲイの権利の侵害をテーマにしたエドワード・クラッチリー(13)など、ランウェイにはドレス姿の男性が登場したが、ハリー・スタイルズなど人気セレブもその流れを牽引している。"女装"のような言葉が死語になる日は近い。ジェンダーとともに人種問題もファッションの大きな課題。BLM運動以降アフリカ系デザイナーが台頭。テベ・マググ(3)は最も実力を伸ばしている若手だ。着想源は古い家族写真に写った服装。ポストコロナらしい心温まる服作りだった。最注目の新人マキシミリアン(8)の初ショーの最前列にはナオミ・キャンベルが応援に参上。家族やコミュニティのつながりの重要さを再考するきっかけに。そんなナオミは各国コレクションを通して多くのショーに登場(9)。そのウォーキングは年齢を超え若いモデルを圧倒していた。’22年春夏は体型、性別、年齢、そして人種にとらわれず自分に自信を持つこと、そして自由な装いへの希望を与えてくれたように思う。
8 テーラリングに定評のあるマキシミリアンに、アフリカ系セレブも注視
9 オリヴィエ・ルスタンのバルマン就任10周年記念のショーを盛り上げた
10 シグネチャーであるマキシドレスをまとったメンズモデル
11 マスイユウ自らパトゥでジェンダーレスな装いに挑戦!
12 ヤーンをフェルト状にする素材など、無駄のない服作り
13 チューダー朝風のブロケードドレスは当時のゲイ迫害事件の記事がインスピレーション
photography: Yu Masui (5・11)