フェスティバル・ディエール第32回から、4つの展覧会

先週 5月4日の投稿でご紹介した、モードと写真のイエール国際フェスティバル (International Festival of Fashion and Photography in Hyères) 第32回。南仏イエールのヴィラ・ノアイユでは、コンクール終了後も5月28日まで、いくつかの展覧会を続行しています。その一つが、ジャン・コクトー展。同ヴィラの主人だったノアイユ伯爵夫妻、特にマリー=ロール・ド・ノアイユ夫人は、ジャン・コクトーと親しかったと言うから、ワケありのテーマです。同展では、映画の名場面だけでなく、一筆描き風の詩的なドローイングや陶器、書簡なども見られます。

 そして“コクトー“と言うテーマに賛同したのが、今回フェスティバルの写真部門で審査員長を務めたファッション・フォトグラファー、ティム・ウォーカー(Tim Walker)です。彼の写真展は、言わばコクトーへのオマージュ。ファンタジー溢れる作風で知られる彼は、特にコクトーの映画『オルフェ』(1950)にインスパイアされたようです。「鏡!それは僕が永遠に愛する、ワンダーランドへのドア」と言う本展の序文が思わせるのは、鏡を通じて二つの世界を行き来する『オルフェ』のストーリー。

また、ノアイユ夫人とコクトーの共通の友人だったのが、エルザ・スキャパレリ。マン・レイが撮影したノアイユ夫人のポートレートで彼女が着ているのが、このクチュリエがデザインしたジャケットでした。これを出発点として構想されたのが、メゾンとしてのスキャパレリ(schiaparelli)の最近のオートクチュール・コレクションから、ジャケットを選りすぐった展覧会メゾンの現在のスタイル・ディレクターで、今回のフェスティバルのモード部門審査員長、ベルトラン・ギヨンによるクリエイションの数々です。

ところで、コクトーとスタイルこそ違うけれど、美しい手描き文字を軽やかに描くという共通点を持つのが、本誌にも作品を寄せてくれたことがあるカリグラファー、ニコラ・ウシュニール(Nicolas Ouchenir)。彼の世界観を語る空間となった展覧会では、カリグラム(連ねた文字で模った絵)やインクで描いたポートレートの一連などが、壁一面を覆っています。また、彼の仕事道具とオブジェなどを混在させ、アトリエを再現したかのようなコーナーも。

クリエイションを巡っての逸話には尽きない、ヴィラ・ノアイユ。まるで夫人がまだ生きているかのように、ここにはジャンルや時代を超えてアーティストたちが集まり、イマジネーションを広げるようです。

 

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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