オマージュ展で見る、七種諭さんの代表作の数々

9月下旬に62歳と言う若さで急逝した、七種諭(サイクサ・サトシ)さん。ファッションとポートレートの写真家として名を馳せた彼ですが、2000年以降は静物や、顔を露わにしないセルフポートレートでの内省的な写真を主としていました。またアーティストとしての作品には、“メメントモリ”や“ヴァニテ”と言った、いつか誰にでも訪れる死を直視しつつ美しく描くと言う、ヨーロッパでは普遍的な芸術のテーマに基づいたコラージュなども。
さらに彼が長年住んだパリ左岸に 2010年にオープンした自身のギャラリーDa-Endでは、彼が共鳴する他のアーチストたちのキュレーションも手がけていました。七種さんの奥深い思想を体現するこのスペースは、隠れ家的なドアを開けると真っ黒な空間が広がる、ミステリアスな雰囲気。ガラス張りで通りからも白壁に展示された作品を垣間見ることができるコマーシャル・ギャラリーとは、全く逆の発想です。七種さん亡き後も継続されるこのギャラリーでは12月上旬、ファッション写真からパーソナルワークまで、彼のベストを集めた個展を開催。彼の友人や生前のコラボレーターたちがつめかけて、アーティストとしても人としても多くを遺した七種さんを偲びました。

 

日本ではメイクアップアーティストとして活躍し、1980年代半ばにパリに移り住んだ頃から、写真に転向した七種さん。それからほどなくして、彼はそのシャープなグラフィックで欧米のアートディレクターやエディターたちを魅了し 、日本人として初めてイタリアン・ヴォーグの表紙を飾ったのです。1990年代に私がパリに住み始めた頃は、元妻のスタイリスト、水谷美香さんとのデュオ“ミカ&サトシ”は、ファッションを目指す日本人の誰もにとって、憧れの的でした。共に美しくスタイリッシュなのはもちろん、フランス語も堪能で、自分の意見をはっきり表現することができるアーティスト・カップルでした。シュプールでは彼らのクリエイティブ・ライフをルポで紹介し、七種さんには表紙の撮影を依頼したこともあります。パーソナル・ワークを追随する一方、ディオールやランコム、資生堂など、ファッションからビューティのハイブランドとのコラボレーションも多かった彼。中でもケイト・モスをモデルとしたイヴ・サンローランのアイコニックなフレグランス「オピウム」の広告は、多くの人々の記憶に刻まれていることでしょう。

10月のファッションウイーク中に出向いたカルティエのプレゼンテーションでは、メゾンとゆかりの深い5人のフォトグラファーの、時計「タンク」をつけたセルフ・ポートレートが展示されていたのですが、その中に七種さんの美しい横顔のショットを発見し、感無量。彼がタンクを腕にカメラを抱えてシャッターを切る姿は、ビデオでも公開されたそうです。 

七種諭さん。ご冥福をお祈りします。

Galerie Da-End
17 rue Guénégaud, 75006 Paris

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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