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23SSパリ・ファッションウイークで思ったこと

9月26日から10月4日まで開かれた、2023年SSパリ・ファッションウイーク(以下略してPFW)。コロナ収束後初の完全フィジカルなプレタポルテFWとあって、多くのイベントがありました。また、ベラ・ハディッドをモデルに、吹き付けられたシリコンが体温で乾いてインスタント・ドレスになるというコペルニのショーでのパフォ―マンスを始め、話題も豊富。

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そしてFWも大詰めを迎えた頃、ネットを炎上させたのは、カニエ・ウエスト改めYeによる、 YEEZYのショーでの人種差別・極右的な問題発言でした。ちょうどFW直後の週末に近所の市場でモード関係者の友人たちとばったり会ったのでお茶をすると、当然話題はこれらのことに。私たちの見解は同じです。今回のPFWはセレブ、ハプニング、そしてスキャンダルに終始。ファッションそのものは何処へ? そこでここでは“話題”はさておき、純粋にコレクションとしてのレベルが高かったメゾンを選んでみました。

主観的な視点からですと、今回のPFW中、アドレナリンのピークは3日目の9月28日。まずはメアリー・ケイト&アシュレーのオルセン姉妹によるザ・ロウの、パリでの2回目のショーを見る機会に恵まれたのです。ザ・ロウのコレクションでは手に取らなくともファブリックの質と完璧なカッティングがわかります。程よいオーバーサイズのジャケットやコート、マキシ丈のシャツドレス、ヒップを強調したまるでブランクーシの彫刻のようなビュスチエドレス……。グリーンを挿し色に白、黒、グレーのモノトーンで展開され、ミニマルながら退屈でない、また着る人の個性を引き立てるデザインです。加えてソックスとローキーなスニーカーやバレリーナ、レザーのロンググローブ、被り物など、ゆるさがかえって粋なスタイリングのアイデアにも溢れていました。

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レス・イズ・モア! ザ・ロウのランウェイより、シンプルながら息を呑む美しさのシルエット。Photo: Courtesy of The Row

 

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ザ・ロウのショーは、メゾンの新しいオフィスである、パリ中心地のクラシックな邸宅内で開かれた。Photo: Courtesy of The Row

そしてザ・ロウのすぐ後にさらに気分を上げてくれたのが、ドリス・ヴァン・ノッテンの2年半ぶりのランウェイ・カムバック。最初の20ルックをほぼ黒一色で展開することで、ボディの一部をデフォルメした彫刻のようなシルエットの美しさが際立ちました。途中エレクトリックブルーと白を挟んで、カラーパレットは次第に色あせたパステルカラーへと移り変わります。そして後半は、花柄で終始。アントワープの自宅に広大な庭を持ち、花を愛し、花柄を多用するドリスは、自身のアーカイブスから抜粋した花のプリントを、拡大・縮小したり色調を変えることで再解釈したそうです。またフリンジやフィッシュネット、マクラメ、コサージュ、吹きガラスのジュエリーなど遊びのあるディテールは、コレクションを通じて点在。色合い、シルエット、素材感の全てにおいてハードとソフトのコントラストをバランスよく見せたショーは、フィナーレではモデル全員が花柄で登場して、圧巻でした。

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力強い、ドリス・ヴァン・ノッテンのファーストルック。Photo: Courtesy of Dries Van Noten © Imaxtree

 

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フラワー・パワー! ドリス・ヴァン・ノッテンのフィナーレ。Photo: Courtesy of Dries Van Noten © Imaxtree

 

9月30日にはロエベのジョナサン・アンダーソンも、特定のモチーフを直接的な表現で展開させたここ数シーズンとは違う、新境地を見せました。もちろん主題はあり、今回彼が選んだのは、愛と官能性といったセクシャルな意味合いを持ち、毒性もある花、アンスリウム。削ぎ落としたり、引き伸ばしたり、左右をずらしたり、ねじったり……。プロポーションで遊んだコレクションで顕著だったのは、パニエドレス、構築的な圧縮ニットやレザーのプリーツドレス、オーバーサイズのチュニックなど、ドレスの一連です。またハンチングジャケットやトレンチコートなどベーシックアイテムは、まるで縮小したようなフィット。個人的には、いかにもユーモアのセンスがあるジョナサンらしい”ピクセル”ルックをもっと見たかったところですが。

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巨大なアンスリウムの花のオブジェを背景に、ロエベのパニエドレス。Photo: Courtesy of Loewe

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とてもジョナサンらしい、ロエベの”ピクセル“ルック。9月にロンドンのゲームセンターで開かれたJWアンダーソンのショーとイメージが重なる。Photo : Courtesy of Loewe

そして、翌日のエルメス。“砂漠でのキャンプ&レイヴ・パーティ”をテーマとした今回は若々しく、軽やかでスポーティでした。ジャンプスーツ、ポンチョ、ルーズフィットのドレス……。機能性を探っての2ウェイ、3ウェイに着られるアイテムや、ダブルファスナー、複数のパッチポケットなどユーティリティのディテールが目を引きます。また、テントを思わせるコードはドローストリングスに、シルクリボンは毛糸のごとく扱って編み地に、と紐使いは実用的にも装飾的にも取り入れられました。テクニカル素材とエルメスらしくとろけるようなレザーが共存するコレクションにリズム感を与えた柄は、アーカイブスの再解釈ではなく、まったく新しい3Dプリント。空を思わせるスカイブルーを挿し色に、ピンクからコーラル、テラコッタまでのトーンは、日中から夕暮れ時、夜へと移り変わる砂漠の景色、特に光を示唆し、全てが完璧な和音を奏でているのです。

Hermès

エルメスによる”砂漠のレイヴパーティ“は、砂丘をイメージしたセットを背景に開かれた。

雨降りの日曜日、前シーズンと全く異なるコレクションで自身の刷新にチャレンジする姿勢を見せてくれたのは、ヴァレンティノのピエルパオロ・ピッチョーリです。ピンクに徹したヴァレンティノ22年FWシーズンの服をまとった顧客やインフルエンサーが詰めかけ、一部ピンクに染まった会場を驚かせたのは、ベージュ地に黒でVロゴをプリントしたケープドレス。服が延長したかのように、顔を含めたモデルの肌にもロゴが描かれて、本コレクションのテーマ「アンボクシング・ヴァレンティノ」の意味が明かされたファーストルックでした。ベージュ〜ブラウンのスキントーンが続いた後、最初の差し色は鮮やかな黄色。途中メゾンのコードカラーである赤を挟み、黒を交えてベージュやグレーでシックに展開したかと思うと、次第にカラーパレットは目の覚めるようなグリーンやブルーに移行します。全体を通じてシルエットは比較的ミニマル。ボディスーツや白シャツ、ソフトスーツなどエッセンシャル・アイテムを極めつつ、マイクロミニかマキシ丈のドレスでは、ドレープ、プリーツ、フレアと様々なデザインの可能性が提案されています。そして羽根使いやシークエンスが華やかさを加えたかと思うと、最後の15あまりのルックはミニマルな黒のドレス。会場内でのフィナーレの後、ピッチョーリ率いるモデルたちが外に出て、ゲストたちの出を待ち構えるファンたちに挨拶をするというサービスもありました。

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「アンボクシング・ヴァレンティノ」コレクションのファースト・ルック。Photo: Courtesy of Valentino

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会場前に詰めかけたファンたちにもフィナーレのルック数々を披露する、ピエールパオロ・ピッチョーリとモデルたち。Photo: Courtesy of Valentino

また、2001年以来の自身のブランドの歴史を振り返りつつアップデートしたのは、PFW終盤の10月3日にポンピドゥーセンターの入口手前の広場でショーを開いた、ステラ・マッカートニー。ジャンプスーツ、テイラードのパンツスーツからヘルシー&セクシーなミニドレス、デニム、ローライズパンツ、バイアスカット、ランジェリー風デザインまで、彼女のシグネチャーは今見ても新鮮です。ただし本コレクションでは再生コットンを使い、サステイナブル度が自己最高記録の87%という点が、この20年余りにおける大きな進化。環境問題と同時にデビュー当時より掲げてきたヴィーガンのスローガンも、新しく開発されたマッシュルーム・レザーを取り入れ、靴のパーツの接着にも動物性を使わない、と徹底させています。ちなみに今回のアクセント、Change the Historyをモットーとする奈良美智とのコラボレーション・アイテムは、既に12月には店頭に並ぶ予定だとか。

演出での話題作りを狙うブランドが多い中、本当にいいショーでは服自体の美しさと共に、コレクション全体の構成力が顕著です。これからももっと見たいのは、この本質に立ち返ったショーだ、と実感しました。

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ステラ・マッカートニーのバックステージにて、奈良美智とのコラボレーションによるトップを着たモデル。Photo: Courtesy of Stella McCartney © Jason Lloyd Evans

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現代アートの殿堂、ポンピドゥーセンター内のバックステージでは、ステラを囲んで最新コレクションのルックをまとったモデルたちが大集合。Photo: Courtesy of Stella McCartney © Jason Lloyd Evans

 

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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