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【2024-'25秋冬パリファッションウィーク】(前編)、8つの話題をチェック!

ファッションマンス終了後に届いた、衝撃のニュース

ルイ・ヴィトンのアニバーサリーコレクションでファッションマンスが幕を閉じて数日後。セリーヌのウィンターコレクションのビデオが公開されて全メゾンが出揃ったところで、2024-'25秋冬パリファッションウイークを振り返っていた3月19日のことでした。メールの受信ボックスの件名に、A Letter from Dries Van Notenの文字が。もしや……と思って恐々開くと、「6月のメンズコレクションを最後に一線から引退する」との本人からのお知らせが! 2018年にプーチ社とビジネス・パートナーシップを組んだ時から“ブランドとスタッフのためのよき未来を準備している”との話は聞いていましたが、その日がとうとう来ようとは! まだまだ着たい、まだまだ感動を与えて欲しいのに……。

ただし彼は今後も、現在のチームが、そして将来の後継者が手がけることになるコレクションに、”これまでとは違う形で”関わって行くそうなので、ドリスの世界は生き続けるはずです。しかも“その日”はあと3か月近く先。それでも、6月に発表される2025年春夏メンズコレクションのフェアウェルショーのことを考えると、今から涙が込み上げてきそうです。それまでは、公式サイトのこのページで見られる1992年以降のショーの数々や、2014年にパリ装飾芸術美術館で開かれた展覧会Dries Van Noten-Inspirationsのカタログ、2018年に公開された映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」などを見返して、心の準備をする予定です。

と、前置きが長くなりましたが、ここでは膨大なパリファッションウィークの記録から、7つの話題にまとめた8メゾンについて語ってみました。編集部発信のトレンド分析対談と合わせて読んでみてください!

 

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各メディアや関係者たちにメール送信された、ドリスからの手紙の訳

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本誌昨年8月号での「ドリス ヴァン ノッテンが好き」特集より、私が逸話や思い出を語ったページ

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「Dries Van Noten-Inspirations」展のカタログ。絶版でコレクターズ・アイテムとなっているが、ネットで中古版が見つかる可能性も!

【ドリス ヴァン ノッテン】美しい旅立ち。最後のウィメンズコレクション

冒頭で書いたように、これが38年前にブランドを立ち上げたドリスの、ウィメンズでは最後のコレクションになりました。そんなことは知らなかった時を思い出してニュートラルな視線で見ても、あまりに研ぎ澄まされた美しさでどこか感慨深かったショー。一束の髪が添えられたインビテーションが示唆したように、コンセプトは“思い切って自分で前髪を切り落とした女性“でした。服と直接の関係はないように思えたものの、実はこの大胆な行為とその結果前髪で目が隠れた顔の神秘性が、強さともろさを持ち合わせた控えめかつ大胆な女性の像を具現化していたのです。

彼のシグネチャーである、オリジナルのテキスタイルによる“プリント・オン・プリント”は今回やや影を潜め、際立ったのは、アニスグリーンとピンク、オレンジ×ブルー×キャメルなど、着物の色合わせを思わせる意外な色使い。それによってテーラードピースの完璧さと、ひねったりはみ出させたりするスタイリングの遊び心も顕著になりました。ドリスのファッションの醍醐味は、ルールにとらわれずに自由に表現した、一見相反する質感や色彩、シルエットのミックス&マッチ。このショーは、ドリスが弛まなく発信してきたことの集大成だったのかもしれません。

装飾が一切なく無機質な会場でのランウェイを前髪で目元が覆われたモデルたちが淡々と歩く姿は、ドラマティック。シャーデーの歌声と鳥の鳴き声をリミックスしたサウンドが流れていた

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コットンシャツの上にシアーでフィットなトップスを重ねてドレープを出すとは、天才的なアイデア! またマルチカラーのスパンコール刺しゅうも、こんな組み合わせなら華美に見えない。Photo: Adam Katz

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Inspirations展では好きな近代・現代画家としてキース・ヴァンドンゲンやフランシス・ベーコン、ベルナール・フリズを挙げていたドリスだが、このコートの色使いや筆跡は、マーク・ロスコの抽象画を彷彿とさせる。Photo: Imaxtree

【ロエベ】はコレクションの完成度の高さそのものが、話題性No.1

ジョナサン・アンダーソンは、アートとクラフトへの造詣が深いことで知られています。私がそれを実感したのは、彼自身のキュレーションで2017年にヨークシャーで開かれたアートとモードの展覧会「Disobedient Bodies」を観に行った時でした。アート市場での価値に関わらず、認知度がそれほど高くない作家の作品にも面白さを見出して、ファッションに落とし込む彼の技量は、特にここ最近目に見えて高まっています。2月には自身のブランドJW Andersonウィメンズの2024-'25秋冬コレクションでも、平凡な街の普通の人々の装いからインスピレーションを膨らませたジョナサン。彼が今回ロエベにて、ありきたりの風景やオブジェを描いたアメリカのアーティスト、アルバート・ヨークの作品と融合させたのは、階級の壁を押し破るという考えでした。花や木、野菜、犬、どこの家の応接間にもありそうな磁器の置物といったモチーフは、プリントに、または熟練したクラフツマンシップならではのキャヴィアビーズ刺しゅうに。しかもウィットの効いた完成度の高いコレクションにはバルーンパンツからドレープドレス、主張するバックルのベルト、ファー風のニットなど、トレンディなアイテムが満遍なく散りばめられていました。

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インビテーションに複製され、会場にも掲げられた絵画「Landscape With Three Trees and a Pond」。絵:Albert York

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まるで泡が噴き出したオブジェのようなニット。会場の壁と床を飾ったモスグリーンはアルバート・ヨークの風景画にマッチさせた色だが、ちょうど今シーズンのトレンドカラー。Photo: Courtesy of Loewe

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シンプルなストライプをジオメトリックなフォルムで仕立て、グラフィカルな効果が。このシルエットはさまざまな素材で展開された。Photo: Courtesy of Loewe

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優等生が集まるイートン校の制服をベースとしたルックにはファニーなディテールを加え、ボリューミーなパンツでバランスを崩して。バッグと靴はキャヴィアビーズ刺しゅう。Photo: Courtesy of Loewe

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ジョナサンの手にかかると、シャツの解釈は無限大。片側だけで長く垂れ下がるベルトには、不完全な完璧さが読み取れる。Photo: Courtesy of Loewe

エディのディレクションによる映像で、メイクアップラインのローンチを示唆【セリーヌ】

ここ最近ショーは開かず、自身がディレクションしたビデオでセリーヌのコレクションを発表する、エディ・スリマン。3年前のメンズではロワール地方に位置するルネッサンス様式の珠玉シャンボール城、前シーズンのウィメンズではパリの国立図書館、と毎回ロケーションも特別です。今回はメゾンの創始者の逸話にちなんで、凱旋門がメインの舞台に選ばれました。

1971年、車が故障したため凱旋門を取り巻くエトワール広場で立ち往生したのは、他でもないセリーヌ・ヴィピアーナ。彼女がその際広場に張り巡された頑丈なチェーンの美しさに気づいたのが、メゾンの鎖モチーフロゴ誕生のきっかけでした。そしてエディは2018 年にメゾンのクリエイティブ・ディレクターに就任すると、ロゴをモダンにデザインし直し、トリオンフ(凱旋)と名付けたのです。2024年ウィンターLA COLLECTION DE L’ARC DE TRIOMPHE(凱旋門コレクション)は、ボクシーなシルエット、スーツ、ミニ丈、職人技を駆使した刺しゅうや丸くて大きな金色のボタン、パールのジュエリーや大ぶりのサングラスに象徴される、1960年代ルックの現代版。セリーヌ本社のスタッフによれば、映像からジャーナリストたちが思い起こしたミューズは、フランスでは映画『昼顔』('67)のカトリーヌ・ドヌーヴ、イギリスではモデルのツイギー、アメリカではオードリー・ヘップバーンだとか。国によっての反応の違いは、なんとも興味深いものです。

またビデオは、この秋にローンチされる予定のメイクアップラインのティザーも兼ねています。さらにセリーヌでは「Zouzou」と名付けられた甘い香りの新しいフレグランスの発表を控え、数週間後には新たなサプライズも用意しているとか。

凱正門に始まり、ブールデル美術館やクラシック・コンサートホールのサル・プレイエルなど、パリの数箇所のランドマークを見事にミックスしたビデオは、エディ・スリマン自身のディレクション

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ボクシーなシルエット、モノクロームのトーンは1960年代シックの骨頂。PHoto: Courtesy of Celine

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ウィンターコレクションのビデオでも見え隠れしたメイクアップラインは、この秋にローンチの予定。Photo: Courtesy of Celine

【ルイ・ヴィトン】は、ニコラ・ジェスキエールのメゾンにおける10周年をお祝い

ニコラ・ジェスキエールがルイ・ヴィトンのウィメンズウェアを手がけるようになって、早10年。自身のブランドではなくメゾンのアーティスティック・ディレクターをこれだけ長く続けた例はそうそうありません。アニバーサリーを記念したショーでは4000人のゲストの席一つ一つに「……“ものごとの始まり”のフィーリング、そしてあなたたちと一緒にいるという大きな喜びを覚えています。その喜びは今もここにあります。10年経った今、今宵は新しい夜明けなのです……」と書かれたニコラからの手紙が置かれていました。

アニバーサリー・コレクションで、会場となったルーヴル美術館中庭の仮説テント内のランウェイを埋め尽くしたのは、アップデートされたキーピース、63体。サイファイ、ドレープ、テーラリング、スポーティ、実験的素材、歴史的コスチュームの再解釈……。ニコラのインスピレーションやスタイルは多岐に渡りますが、全体を貫くのは彼のウルトラモダンなタッチ、そしてメゾンに特有な旅のエスプリとクラフツマンシップです。ニコラへの割れんばかりの拍手が静まった後は、モデルとして登場したStrayKidsのFelix(フィリックス)をはじめ、セレブリティ目当ての一般人の歓声が雨の中いつまでも鳴り止まず、ルーヴル周辺は騒然とした一夜となりました。

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会場のセットは、アーティスト、フィリップ・パレーノとジェームズ・チンランド作。まるでスペースシップのような光り輝く巨大なオブジェはショー後解体され、リサイクルされるそう。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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歴史的コスチュームを一捻りしたアウターは、ニコラのシグネチャーの一つ。シアリングのコートを、ファニーな小物でドレスダウン。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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グラフィカルなタッチを加えたレザーのバイカージャケットと、チュールに銀紙を散りばめたかのようなスカート。ボトムの大胆なボリュームにTシャツを合わせ、絶妙なバランス感で。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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ミニマルなだけに巧妙なカッティングが生かされた単色コーディネートのルックには、シアーな素材、ベリーカラー、グローブ、と今シーズンのトレンドが凝縮された。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

海辺を舞台に往年の名画に捧げたフィルムには、ブラピも登場!【シャネル】

ヴィルジニー・ヴィアールが今回オマージュを捧げたのは、メゾン発祥の地ともいえる、フランス北部のドーヴィル。1912年、帽子デザイナーから出発したガブルエル・シャネルが最初の帽子店を開いたのが、この海辺の街でした。ショーの前に上映された、イネス&ヴィノードによるショートフィルムは、あまりに有名なフランス映画『男と女』(クロード・ルルーシュ監督、'66年)へのトリビュート。アヌーク・エーメに替わって“女”を演じたのはメゾンのアンバサダーであるペネロペ・クルス。そしてジャンルイ・トランティニャンに替わっての“男”役は、なんとブラッド・ピット! クライマックスは、ホテルのレストランでディナーを注文するシーンです。原版では、夫の死後以来初めてのデートで神経質になっている女性の気持ちを男性が気遣うのですが、このフィルムでは女性が“やっぱりルームサービスにしましょう”とリード。ゲストの一人として会場に居合わせていたルルーシュ監督は、フランスのテレビでのインタビューに応えて満足感を表すとともに、このリメイクをとても評価していました。

ショーが始まると、長いランウェイに数十メートルに渡って設置されたスクリーンに投影されたのは、ドーヴィルの海岸の木づくりの歩道「レ プランシュ」。その映像をバックにランウェイに現れたモデルたちは、マキシ丈のコート、あるいはガブリエル・シャネルが膝を見せることを嫌って守り抜いた長さである膝丈のエレガントなスーツ、またはマスキュリンなパンツルックで、ゆったりと歩みを進めます。ガブリエル・シャネルの帽子店へのオマージュか、ほとんどのモデルの頭には、つば広帽子やキャスケット。そして1920年代風のほっそりとしたシルエットにヴィルジニーが加えたのは、1970年代のデヴィッド・ボウイを思わせるグラムロックのタッチでした。

ショーの直前に上映された、イネス&ヴィノードによるショートフィルムは、映画『男と女』へのトリビュート。出演はペネロペ・クルスとブラッド・ピット。

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フィナーレで見ると、コレクションを通して細長いシルエットの流動感が打ち出されている。Photo: Courtesy of Chanel

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1916年にガブリエル・シャネルがデザインしたシルクのマリニエール(セーラーカラーのトップス)にインスピレーションを得たトップスをツイードで仕立て、アランニットとレイヤードしたことでモダンに仕上げたルック。Photo: Courtesy of Chanel

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ややAラインのツイードのスーツにはプラットフォームブーツを合わせ、どこか1970年代のタッチ。ランウェイに映し出されたのは、ドーヴィルの歩道に並ぶ着替え室。Photo: Courtesy of Chanel

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マリニエールのモダンな解釈は、ほどよくボディフィットなシルエットのジャンプスーツ。モノクロームにピンクの差し色が映える。Photo: Courtesy of Chanel

【クロエ】新クリエイティブ・ディレクターを迎え、現代のボーホーシックを提案

ウェルカム、シェミナ! 新しいクリエイティブ・ディレクターは2000年初頭にはフィービー・ファイロの、数年後にはクレア・ワイトケラーのデザインチームに在籍していた、シェミナ・カマリ。その経歴から、彼女以上にクロエのエスプリを理解しているデザイナーはいない、と大きな期待の中、ショーはジェリー・ホールやパット・クリーブランドをはじめスペシャル・ゲストを迎えて開かれました。クロエと言うと、1970年代の自由でナチュラルでヒッピーシックなスタイルが象徴的。この時代を含み、1963年から20年間メゾンのデザイナーを務めたのは、かのカール・ラガーフェルドでした。2人がパリのドイツ人デザイナー、と言う点をシェアするのは、偶然ではないでしょう。余談ですが、6月7日からDisney +で配信予定の連載ドラマ「Becoming Karl Lagerfeld」は1970年代が主な舞台で、1952年にクロエを立ち上げたギャビー・アギオンも登場するとか。

さて、デビューコレクションでシェミナが自由にミックスさせたのは、ラッフル、シフォンやレースなどシアーな素材、ジーンズ、ケープから小物ではヘッドバンド、サイハイブーツ、ゴールドのジュエリーまで、クロエに象徴的な要素の数々。まるで当時のミューズのタリサ・ゲッティが蘇ったかのような、ボーホーシックなルックに終始しました。中にはブレスレットバッグやパディントンバッグ、ウッドソールのプラットフォームサボなど、フィービー時代のヒットアイテムの再解釈版も登場。ちなみにフィービーは、3月17日にニューヨークタイムズで公開された10年来初のインタビューで「クロエでデザインしたパンツは自分としてもベストで、今でも着ている」と語っていました。ギャビー、カール、そしてフィービー、と歴代のデザイナーの中でも最も大事なこの3人の影響をシェミナが今後どう発展させていくのかが楽しみです。2017年に現在のクロエ本社ビルがオープンした際にはギ・ブルダンによるメゾンの広告ビジュアルの数々とともに公開されたアーカイブ展が見応えがありましたが、今新たにクロエの歴史を見てみたくなりました。

 

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メゾンのコードのひとつであるランジェリーを思わせる、レースのケープ風トップに合わせたのは、裾を引きずるほど長いややブーツカットのパンツ。Photo: Courtesy of Chloé

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シフォン、ラッフル、ヌードカラー、ゴールドのジュエリー、くたくたのブーツ、とクロエらしさがぎゅっと詰まったルック。Photo: Courtesy of Chloé

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ハーフマットのサングラスにフォーファーのコート、レギンスをインしたサイハイブーツは、タリサ・ゲッティを思わせる。Photo: Courtesy of Chloé

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チェックのマントも1970年代を象徴するアイテムの一つ。ブレスレットバッグにはスタッズを加え、XXLサイズで再解釈。Photo: Courtesy of Chloé

ヴィム・ヴェンダーズによる自作の詩の朗読のもとに展開した【アンダーカバー】

今回アンダーカバーのショーのサウンドは、音楽ではなくヴィム・ヴェンダースによる詩の朗読でした。映画「PERFECT DAYS」を観て感動した高橋盾が同監督に依頼をしたところ彼自身が書いてくれたという詩は、題して「Watching a working woman」。法律事務所で働きつつ7歳の息子を育てるシングルマザーの、なんてことはない日常の描写です。コレクションはこの女性のイメージというわけではありませんが、“平凡”を軸にそれとは対照的なものがはみ出したり、組み合わせたり。中には裏と面でかなり印象が違うルックもあり、日常における非日常という二面性が探求されました。

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2枚の全く異なる素材を接着してはみ出させる“圧着”テクニックで仕上げたニットとジーンズ。Photos: Courtesy of Undercover

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バッグに入れた花とプリントがオーバーラップし、また前後でかなり印象が異なるルック。Photos: Courtesy of Undercover

【リック・オウエンス】のショーは自宅で! デザインフェアではオブジェや家具の展示も

一方リック・オウエンスは6月のメンズ同様、デザインスタジオとショールームを兼ねた「オウエンスコープ」と呼ばれるパリ7区の自宅での、インティメートなショーを開催。デザイナーの自宅が会場になった例では、昨年のピーター・ミュリエ宅でのアライアのショーがありましたが、ここではまた別の意味合いとなりました。生活が営まれ、仕事が進行する“日常”の場所を舞台に、リックらしいアヴァンギャルドで“非日常”的なルックが展開されたわけですから。

彼の故郷にちなんで「ポーターヴィル」と名付けられたコレクションで披露されたのは、宇宙服のような近未来的なジャンプスーツから、ロボットと見まごう鋭角の肩のジャケット、そして蛇腹風のブーツまで。数人のモデルにはモンスターや歌舞伎役者のようなヘアメイクが施されています。一方彼が得意とする体を包み込むドレスやアウターは、ミニマルなライン、微妙な色合いで美しく展開され、エキセントリックなルックと対照を成していました。

ちなみにファッションウィーク中に開催された新しいデザインフェア、「MATTER and SHAPE」のブースで彼が展示したのは、自作のホームウェア。野生的な家具と、シンプルなオブジェの一連です。生活感のないリックから、日常性を見出す。それ自体がなんともラジカルな体験でした。

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リックが“ノーブルな宇宙服”と呼ぶルックは、リサイクルカシミアとアルパカのジャンプスーツに、綿入りレザーのブーツ。Photo: Courtesy of Rick Owens

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セーターとマーメイドスカートに合わせたケープはシアリング。素材の出どころはすべてトレーサブル。Photo: Courtesy of Rick Owens

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「MATTER and SHAPE」リック・オウエンスのブース。壁にはカーレット・ルージュ(彼のパートナー、ミシェル・ラミーの娘)によるシュールな絵画、テーブルにはリック作のオブジェが。Photo: Celia Spenard-Ko

そして3月23日にはピエールパオロ・ピッチョーリがヴァレンティノを去るとニュースで、またもやファッション界に激震が走りました。今後の動きを案じつつ、次回は同じくファッションウィークから、ニュース性よりも自身のアイデンティティを追求したメゾンや若手の数々をご紹介します! お楽しみに。

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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