クリスマスの本が好き

ポール・オースターの短編小説「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」のなかに、作家がクリスマス・ストーリーの執筆を新聞社に依頼され悩むくだりがあります。甘ったるいお涙頂戴ものは書きたくないが、感傷的でないクリスマス・ストーリーなんて自己矛盾だ。おおむねそういう内容だったと思います(手元に本がなく記憶を頼りに。すみません)。これを読んだとき、クリスマス・ストーリーという存在になぜ自分が心惹かれるのか、妙に納得しました。今読めるクリスマス・ストーリーとは、はるか昔から多くの作家がこの問題と格闘した結果生み出され、さらに、理想的なクリスマス・ストーリーを求める読者によって淘汰されてきたものだから。特別にセンチメンタルで、でも安易な甘ったるさではないから、心に響く名作が多いのだ、と。

トルーマン・カポーティの『クリスマスの思い出』は、そんな名作のひとつ。7歳の僕と親友でいとこのおばあちゃんが一緒に過ごした最後のクリスマスを回想する物語で、洗練された言葉で少年時代の澄んだ美しさが描かれます。代表作『冷血』や短編集『夜の樹』の冷ややかな孤独や怖さとはちょっと違う、読後に幸福感が心に沁みる作品です。

もうひとつ、クリスマス・ストーリーの好きなところは、良いクリスマス・ソングに多くの演奏やカバーが存在するように、良いクリスマス・ストーリーには、たくさんのバージョンの本が繰り返し出版されていること。新しい翻訳や、新しい絵、装丁でおなじみの物語がアレンジされるのをみるのは、とても幸せなことです。さきほどのカポーティもそうですし、他にも例えば『The Night Before Christmas』(クリスマスのまえのよる)。日本でも複数の絵本が出ています。有名なロバート・サブダによる仕掛け絵本や、やたらと縦に長いロジャー・デュボアザンの絵本も素敵です。写真はニルート・プタピパットによる仕掛け絵本。毎年、このページが開きたいたがために、クリスマスを待ち遠しく思ってしまうほど、うきうきとした気分にさせてくれる本です。

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エディターIWAHANA

日々、モード修行中。メンズとレディースを行ったり来たりしています。書籍担当。どうぞよろしくお願いします。

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