2021.08.24

ティファニー・ゴドイとマスイユウの買い物目線なモード激論

世界を行脚する二人のジャーナリストが、コロナ禍を経てついにパリで再会! 注目の若手デザイナーや、ショッピングの新しいムードまで、ファッションの潮流を読み解く

ティファニー・ゴドイとマスイユウの買い物の画像_1

ティファニー・ゴドイ
ファッションジャーナリスト。日本やアメリカなど世界各国のメディアに寄稿する。現在はパリをベースに活動する。Instagram: @tiffanygodoypresents

マスイユウ
ファッションジャーナリスト。新人発掘の才能は他に類を見ない。さまざまなファッションプライズで選考委員を務める。Instagram: @yumasui

 

デザイナーはフィジカルロス。みんなパーティがしたい……?

ティファニー(以下、T) 今回もほぼデジタルファッションウィークだったね。
マスイユウ(以下、M) メンズコレ中にカラーやダブレットがショーを生配信してたけどね。
 フェンディはショー形式で、さらにバックステージにフォトグラファーを入れてその様子も発信、フィジカルのショーさながらだった。今季はみんなが自分のやりたいようにやっていたよね。ファッションウィークのスケジュールを無視して、まとまりもなくショーを開催していた昔の東京のよう。でも、今あえてそうするのは、単独で発表することで注目を集めたいというコマーシャルな意味合いが強い。そもそもデジタルショーは埋もれやすい。ブランドはカスタマーと直接会話すること、エンターテインメント性の強さ、両方が必要とされているよね。
 デジタル化当初は、手探りなのと、力が入りすぎているせいでコンセプチュアルな内容が多かった。今回はシンプルなランウェイショー風が多くて、服が見やすかった。どのコレクションが好きだった?
 シャネル(1)は従来の定番会場だったグラン・パレを出てパリのストリートへ。カール・ラガーフェルドの世界から、ヴィルジニー・ヴィアールが羽ばたこうとしていた。ガールズがパリ左岸のクラブに遊びに行くようなポジティブなエナジーもよかったと思う。
 ステラ・マッカートニー(3)も映像公開直後の会見で話していたように、パーティ気分だったね。70年代のディスコ風に、メンズのテーラリングとスポーツウェアを掛け合わせたようなアウター! 「早く生のショーを開催したい」とも語っていたけど、デザイナーの多くもフィジカルに飢えてるんだなと実感した。
 スキャパレリ(2)のシュールレアリズムな世界観も好き。アクセサリーやシューズ、買いたい! クチュールも最高にかっこよくて、今年のレッドカーペットでもすごく人気だった。

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1 パリの街を闊歩するモデル
2 ボディパーツをかたどったジュエリーがユニーク
3 ビッグブルゾンはマスイユウのウィッシュリスト

 若手の注目株キッドスーパー(4)の映像は本格的で見ごたえがあったかな。今年のLVMHプライズに出ているけど、ストリートウェアのようなプライズのデザイナーは初めてだよ。
 音楽やNYのセレブカルチャーにもつながりがあるんだよね。コマーシャルだけど、ハンドペイントの雰囲気を取り入れたりとアーティスティック。私のスタイルじゃないけどね。
 確かに想像つかない(笑)。
 バレンシアガのテレビゲーム風動画もよかったね。リアルなユースカルチャーをうまく捉えた、ビスポークのバーチャルワールド。
 ’21 年冬コレクション(5)も面白いと思った。ビデオも新鮮だったし、“GAP”のロゴをもじった“GAY”。このフーディ、買いたいわ。それに世界中の名所を合成した記念撮影風も旅ロスの今にぴったりだよね。
 最近ゲイプライドを意識したレインボーコレクションって結構出ているけど、商業的で何の意識も投影していないことが多いけどね。
 デムナは祖国のジョージアがホモフォビアが強いために、ゲイであることでつらい経験をしたんだよね。だからセクシャルマイノリティを支援したいんだと思う。どっかの国の無理解な国会議員に、聞かせてやりたいわ!
 最近ローンチしたジャンポール・ゴルチエと5組の若手とのコラボ(6)も多様性という点で意義深い。ゲイやトランスジェンダーといった、さまざまな背景を持つデザイナーたち。アイコニックな青と白のボーダーをベースに、アーカイブから着想を得たデザインが印象的。
 新型コロナウイルスで延期になっていたサカイによるオートクチュールも、楽しみだね。

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4 Tシャツ$35~と魅力的な価格帯。自身のペイントを服に落とし込んでいる
5 このフーディを含む本コレクションの売り上げ15%をThe Trevor Projectに寄付する
6 こちらはオットリンガとのコラボレーション

 

新型コロナウイルスがモード界にもたらした大きな喪失

 新型コロナウイルスといえば、アルベール・エルバス(7)が犠牲に。考えると今でも涙が出てくる。ずっとアルベールの服を着てきたから、すごく個人的な問題として捉えてる。彼のクリエーションは常に革新的だった。
 新ブランドAZファクトリー(8)をローンチしたばかりだったのに……。
 最新技術を使い、あらゆる体型の女性に合わせたボディポジティブなサイズ展開。体にフィットした伸縮性のあるアクティブウェアに、ダッチェスサテン調の大きなフリルのトップスやボリュームスカートを合わせることで、すぐにパーティにも行けちゃうスタイルに。
 アルベールはイヴ・サンローランが引退の際に後継として選んだほどの才能だった。彼はマーケティング時代以前のモードをつかさどる、最後のファッションデザイナーだったかもしれない。一時代の終わりを感じた。

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7 業界にショックを与えたアルベールの逝去。ブランドの垣根を越え多くの追悼の意がSNSに投稿された
8 多様な体型を賛美するドレスはXXSから4XLまでのサイズ展開

 

アフリカ、中国、東ヨーロッパ、ファッション新興国から巣立つ才能

 そうそう、BLMは引き続きファッション業界に影響を与えていた。デジタルプレゼンや広告にアフリカ系モデルが増えたし、才能あるアフリカ系の若手がエディターをはじめとする要職につく現象もよく見るようになったね。
 今季は南アフリカをベースにするテベ・マググ(9)に衝撃を受けた。映像だけでなくスタイリングにも学ぶことがたくさんあって、すごく彼の服が着たいと思った。ファッション先進国ではなく、アフリカのような新しいエリアからどんどん才能が出てきているよね。
 テベ・マググはLVMHプライズのグランプリを受賞しているけど、今回もプライズには最注目の若手がいたね。
 ネンシ・ドジャカ(10)がかっこいい! 今欲しい服。すごく繊細で90年代のヘルムート・ラングとダンスウェアを掛け合わせたような感じ。フューチャリスティックですらある。
 透け感のある素材を組み合わせて巧みに肌をデザインの一部に取り込んでいる。同じようにニットを取り入れて、中国人で初めてファイナリストに残ったルイ(11)にも言えるかも。ところで、ニットは今シーズンのビッグトレンドだったよね。ほかに気になるトレンドはあった?
 サイケデリックだったりヒッピーのテイストが印象深かった。60年代の工業化で大量生産が起こって、ムーブメントが生まれたわけだけど、今と状況が似ていて、若者たちはその空気を感じているのかもしれない。

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9 新たにシューズをローンチした
10 ティファニーのウィッシュリストの上位! デザイナーはロンドンベースのアルバニア人 
11 上海ファッションウィーク中注目の若手プラットフォーム「Labelhood」で発表

 ディアナとローラ・ファニングによるキコ・コスタディノフ(12)のレディスはレトロフューチャーでサイケ感があったな。でも今の若者にとっては、60年代、70年代をリバイバルした90年代のリバイバルという可能性もあるよね。
 90年代ファッションをアーカイブしているインスタグラムっていっぱいあるからね。彼らにとっては前インターネット時代は未知の世界! スリフトショップ的なヴィンテージ感もトレンドよね。デュラン・ランティンク(13)はデザイナーアイテムをアップサイクルしてるけど、着なくなったデュランの服を回収してまたアップサイクルするという、自社の中でのサーキュラーエコノミーを始めた。

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12 ポーランド人アーティストの作品が着想源となったサイケプリント
13 ラグジュアリーブランドのアイテムの売れ残りをカット&ペーストしてアップサイクル

 

服を循環させていく仕組みとしてのオンラインヴィンテージ

 サステイナブルっていえば、最近デザイナーヴィンテージのウェブストア、ヴェスティア・コレクティブ(14)にハマってるんだ。
 実は結構昔からファウンダーを知ってる。パリで10年くらい前に誕生したんだけど、大手メゾンの中の人たちが本物かどうか鑑定したり、出版社がコンテンツを作っていたりと、スタート当初から業界を巻き込んでいたね。
 セレクションやクォリティがいいんだよね。最近90年代のヴィヴィアン・ウエストウッドのプリンセスジャケットを購入。あと、ルイ・ヴィトンの’18 年春夏のランウェイピース“ロココ”ジャケットのコマーシャルバージョン(未着用)はなんとオリジナル80%オフで買えた!
 私はヴェスティアで売ることがあるけど、扱ってもらえないモノもあるのよ。
 品揃えがいいと思ったけど、やっぱりきちんとセレクトしてるのね。商品も一度のチェックを経由して発送、ヴィンテージだけど安心して買い物できる感じもいいね。
 今は“リセール”を通して服に投資する時代だと思うの。スニーカーみたいに並んで買って即高く売るのではなく、次の人につないでいくための、サーキュラーエコノミーの考え方がベースにあるからとてもいいと思う。

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14 マスイユウはアプリを使ってお買い物中

 

Wish list!! ティファニーとマスイの今季、絶対欲しいもの!

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15 ティファニーはテーラリングが美しいピーター・ドゥを選択 
16 マスイは引き続きダブレット。「猫や、ラクダ、パンダなど、アニマル大行進! "もったいない"をテーマにサステイナブルなアプローチにも惹かれた」
17 プラダの三角の立体ポケットつきグローブは二人のお気に入り。「ミウッチャとラフは期待を裏切らなかった。二人の感性を足し算したものがちゃんと出てきた」とティファニー Courtesy of PRADA

SOURCE:SPUR 2021年9月号「ショッピング目線で読み解く 「買いたい」ランウェイ」
text: Yu Masui