注目の3名が描き下ろす世界へ迷い込んで。現代アーティスト、モードを描く

大竹彩子、杉本さなえ、オートモアイ――世界から注目を浴びる3名の現代アーティストが描き下ろす絵の中に、今シーズンのモードをまとう女性が迷い込んだなら……? 絵画と写真が織り成す、夢と現実の狭間でたゆたって。

《SPURADIANCE》SAIKO OTAKE

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マスキュリンなシルエットのコートと、フューチャリスティックなムードをたたえたサイハイブーツが、絵画の世界に溶け込んで。 イエローのコート¥499,400・中に着たオールインワン¥317,900・ポロニット¥140,800・ピアス¥77,000・ブーツ(参考色)¥204,600(すべて予定価格)/プラダ クライアントサービス(プラダ)

「身にまとって気持ちのいい服は、心を豊かにし希望を与えてくれます。同様に、絵もそういう存在であればいいなと。強く美しい私たちの未来を想って描きました」
そう語る大竹さんが描き下ろした絵は、プラダの2021-’22年秋冬コレクションの鮮やかなルックに合わせて作成された。カラフルな世界は、「どこでもない場所」。空を流れる輝く光線の軌跡を捉えた瞬間のイメージをもとに、タイトルはSPUR+RADIANCE(輝き)を意味する《SPURADIANCE》。

幼少期から絵を描くことや、ものを作ることが好きだった彼女は、ロンドン留学をきっかけに本格的に作品制作に取り組むようになった。日々カメラを携帯して撮影した画像を写真集にまとめ上げ、現在14冊に。撮った写真や収集している古本、映像などから色や形の着想を受け、強く美しい女性を描いている。

「最初はモノクロのドローイングを描いていましたが、2019年にDIESEL ART GALLERYで開催した個展を機に、アクリル絵の具を用いたキャンバス画も描くようになりました。それ以来、色が持つチカラを実感してきました。色で描く楽しい気持ちが、作品を通して一瞬でも伝わればいいなと思います」

Profile 大竹彩子
1988年生まれ。大学を卒業後、渡英。セントラル・セント・マーチンズ大学でグラフィックデザインを学ぶ。ドローイング、ペインティングのほか、写真を用いた作品を手がける。
Instagram: @sai_otk saikootake.com

《Close Your Ears》Sanae Sugimoto

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牧歌的なムードを奏でる、ディオールの白いブラウスをまとって。頭部から広がる草花の絵は、徐々に膨らむイマジネーションの具現化のよう。サンガロと呼ばれる刺しゅう技法を用いたフローラルパターンのエンブロイダリーが、杉本さんの繊細な描写とリンクする。 ブラウス¥605,000・ピアス¥84,700/クリスチャン ディオール(ディオール)

《Moon Light / Shadow》

一角獣に乗って、夜を駆け抜ける女神のように。雲の合間からのぞく月に、花と光の玉が夢の中へと誘う。官能的なインターシャレースのドレスを風になびかせ、ロマンスの魔法をかける。
ドレス¥1,210,000(ヴァレンティノ)・イヤリング¥79,200・ブーツ¥157,300(ともにヴァレンティノ ガラヴァーニ)/ヴァレンティノ  インフォメーションデスク

ノスタルジックな世界に登場するのは、異国情緒あふれる雰囲気をまとう人、花、動物たち。クラフト紙に黒と朱の2色で構成した作品には、おとぎの国を連想させる詩的な要素が詰まっている。
「幼少期から少女時代に繰り返し読んだ、欧米の児童文学の世界が原風景となっています。描くモチーフは10代の頃から変化はなく、自分にとっていちばん親しいものなのです」と話す杉本さん。幼い頃からずっと絵を描き続け、大学で油絵を学んだ後にアーティストの道へ進む。


本特集のために描き下ろした2点の作品は、今季を象徴するダークロマンスやゴシックの要素を取り入れた、ディオールとヴァレンティノのモノトーンのルックが着想源だ。「今回テーマとなったブランドを改めて見たときに、究極に選択されたライン、そこに閉じ込められた密度と人間的な生々しさを感じました。そのような緊張感と、バランスが取れる絵になるように意識して表現した作品です」


作品を眺めていると絵の物語に吸い寄せられると同時に、作家の客観性を感じ取ることができる。
「観る人が自身の何かを作品に投影できるよう、私の意図が出すぎて邪魔しないように心がけています」

Profile 杉本さなえ
1975年鳥取生まれ。墨と朱色の2色で描く絵画作品のほか、パッケージやロゴの制作、雑誌のイラストなどを手がける。現在は福岡を拠点に国内外で活動する。
www.sanaesugimoto.com

《沢山のカーテンに 支配された空間》AUTO MOAI

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サンローランのブルジョアコードを再解釈したコレクションより。モダンなボディスーツに、クラシックな趣のカーディガンを合わせて。 カーディガン¥220,000・ボディスーツ¥308,000(参考価格)・ベルト¥101,200・ネックレス¥341,000(参考価格)/サンローラン クライアントサービス(サンローラン バイ アンソニー ヴァカレロ)

匿名性は、オートモアイさんを語る上では欠くことができない要素である。作品には、唇だけ描かれた顔がない人のようなもの、日常を切り取ったようなプライベートな空間が描写されている。


今回描き下ろした作品は、「窓がないのに日が差し込む部屋」がテーマとなった。サンローランのボディスーツを身につけ、赤いカーディガンを羽織った何者かがマルチプルに登場する。
「どこかに出かけようとするんだけど出かけられない。ある空間における同じ人物の動きや、時間軸の経過を表現しました」とオートモアイさん。


ラピッドグラフ、アクリル、グロスメディウム、鉛筆を用いて描かれたこの作品は、作家特有の極彩色とストロークのにじみから、底知れないエモーショナルなものを感じ取ることができる。


1年半以上続くコロナ禍で、これまでの"日常"が奪われ、私たちはさまざまな抑制を余儀なくされてきた。内から込み上げてくるやり場のない衝動、何かを発散したいという人々の疼きが、この作品に投影された世界とリンクする。


覆面作家として、有名ブランドとのコラボレーション、著名歌手のCDのジャケットを手がけ、国内外での個展を実施するなどさらなる活躍が期待される。今後の展望については、「大きな作品をたくさん作りたい」と語った。

Profile オートモアイ
2015年に白黒のドローイングを軸に活動を開始した。現在は油絵や立体作品も手がけている。シュプリームなどファッションブランドとコラボレーションを実施し、海外からも注目を集め話題に。
Instagram: @auto_moai

SOURCE:SPUR 2021年11月号「現代アーティスト、モードを描く」
artwork: SAIKO OTAKE, Sanae Sugimoto, AUTO MOAI photography: Keisuke Tsujimoto styling: Satoko Takebuchi hair & make-up: Ryoki Shimonagata model: Yulia retouching: Yuriko Takizawa 〈IINO〉 edit: Kaeko Shabana

FEATURE
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